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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

6月21日 商売というもの~『構造と力』だってビジネスの役に立つ(#394)

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松下幸之助さんは、商売について語るということは国家社会を論じるのと同じぐらい格調の高いことだと言います。

このぐらいの思いで、商売を大事にし、身を入れていると、お得意先のことが常に気になるようになり、仕入れ先にも積極的な意見が言えるようになる。そうでないなら、商売などやめてしまえ。こういうことになるようです。

さて、私はちょっと別のことを考えてしまいました。

国家や社会を論じた本が実は商売の役に立つのではないだろうか?

たとえば、本来なら学生のときに読んでいればよかったと思われる『構造と力』(浅田彰、1983年初版)という本を、この数日一生懸命読んでいます。

学生のときに読んでおけばよかったと書きましたが、当時であれば読むのにかなり骨が折れたことでしょう。図書館でいろんな本を参照しながら読まないと、まったく理解できなかったと思います。

ところが、現在では、スラスラとまではいかないとしても、難解な用語は読み飛ばしながらも、前から後ろに読んでいけます。

これは、経験のなせるわざだと思うのです。なんとなく、いままでの経験から類推できる。正確な理解ではないとしても、自分なりに、ああ、あのことだなと理解できる。

この本のクライマックスの部分では、国家の成立過程に関するドゥールズ=ガタリの抽象的な議論が参照されています。かなり抽象的なのですが、こんな話でも(邪道かもしれませんが)なんか商売の役に立ちそうな気がします。

たとえば、こんなことが書かれています。

すでに見た通り、家族は近代国家のイデオロギー装置のうち最も重要なもののひとつであり、主体を成型して外へ送り出す整流器として機能する。しかし、そうやって放り込まれた外の世界は、決して居心地のいい所ではない。そこを貫流する脱コード化された流れは、コード化・超コード化による支えを失ったものたちが、究極的なゴールもなく、ただかりそめの安定感を得るために、群を成して一方向に走っている、という体のものであって、ひとは永遠の宙吊りの不安定性に耐えねばならないのである。

(『構造と力』)

「主体」、「コード化」、「脱コード化」などの用語は、同書のほかの部分を読まないとわからないとしても、ここに書いてあることは、会社でなんとなく辛い思いをしている方が読めば、共感できるのではないかと思います。

松下幸之助さんは、そして松下さんだけでなく多くの人が、商売は人の役に立ってはじめて成立すると説いています。

しかしながら、「人の役に立つ」ということの究極的な意味について、考えることは少ないのではないでしょうか?

ところが、「ひとは永遠の宙吊りの不安定性に耐えねばならないので」あれば、その不安定性に対して何らかの手をさしのべることが、「人の役に立つ」ということの本質ではないか、というヒントが得られるというわけです。

哲学や思想というものも、そもそも人の役に立ってなんぼである(浅田彰氏もそのスタンスのようです)とすれば、このような難解な本にこそ、人の役に立つということの本質が書かれているように思います。

今日の一言)商売(ビジネス)ということを真剣に考えるとき、役に立たない情報はない。すぐに答えを求めるよりも迂遠と感じるところに、実は本当の答えがあるのかもしれない。

 

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