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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

4月16日 謙虚な確信~「部下があかん」とか言っている人は経済学を知らない(#328)

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松下幸之助さんは、謙虚な心持ちでの確信を信念、謙虚さのない確信を慢心と区別しています。

なるほど!分かりやすい!と思いました。

ただ、私の心がよりひっかかったのは、「部下があかんと思っているあいだは、謙虚であるとはいえません」という一節でした。

これは、謙虚さだけでなく、経済学的知識も足りないのではないか。

私も経済学を専攻していたわけではありませんが、リカードの比較優位説ぐらいは知っています。

これは、貿易や分業が発生する理由を説明した学説です。

図をご覧ください。

2011041601.jpg簡単に説明するために、あなたと部下しかいない部門があり、仕事もAとBの二種類しかないとします。

1日あたりの生産性を比較すると、あなたはAにおいてもBにおいても、部下より「絶対優位」です。

しかしながら、優位さの度合いに違いがあります。このとき、仕事Aにおいては比較優位、仕事Bにおいては比較劣位(「劣位」で正しい)といいます。

部下の立場から見ると、仕事Aにおいては比較劣位だが、仕事Bにおいては比較優位(これも間違いではありません)です。

リカードの比較優位説というのは、お互い比較優位な仕事に集中したほうが、全体の富は増えるという理論です。

ためしに、お互いが比較優位に集中したときと、比較劣位に集中したときの、1日の生産量を比較すると、なんと、2倍以上の開きがあります。

例があまりに簡単なので、そんなあたりまえのこと分かってるよという人が多いのですが、実際の現場では、両方が比較劣位のことに取り組んで、著しく生産性を下げるというようなことが頻繁に行われているのもまた事実です。

※たとえば、先輩が自分がやったほうが早いとプログラミングに取り組んで、代わりに部下に企画書を書かせているようなことが、IT企業ではよくあるのです・・・

実際に、あなたが部下よりもあらゆる仕事で「絶対優位」ということは十分ありうることです。だからといって、「部下があかん」と言ってしまうのは、謙虚であるかどうかの前に、経済学の初歩を知らない証拠です。比較劣位な仕事は積極的に任せるべきなのです。

※これを国際間であてはめると貿易が発生する理由となります。何でも自国で作るより、比較劣位なものは輸入するほうが、世界全体の富が増えるのです。だから、実を言うと「国際競争力」という言葉はナンセンスなのですが、まあ、別のモデルもあるのでしょう。

これができないと、あらゆる仕事を自分でやってしまって(要するに大量の残業をして)、自分は疲弊し、部下は育たないということになってしまいます。

これは、外注に関しても同じことで、比較劣位な仕事は積極的に外注するほうがよいのです(これからの日本は、これをみんなで積極的にやって、全体の富を増やすことを考えるべきだと思います)。

なお、あなたも部下も両方の仕事に半日ずつ取り組むとどうなるかも表にしてみました。

これは比較優位な仕事も部下に一部任せるということですが、実はこれが育成ということです。一日の生産量は、両方が比較優位な仕事に取り組んだときよりも下がります。この下がった分が「育成のコスト」です。

育成コストとは研修費のこと(だけ)ではないのです。

今日の一言)あなたが町で一番データ入力の早い人間だったとしても、あなたが税理士でもあるならば、データ入力は人に任せるべきだ。

 

本年の一日一言は、『松下幸之助 成功の金言365』を毎日1ページずつ読んで、自問自答するという趣向です。
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