『フリー』の要諦(エッセンス)は単純明快だが、勘違いもしやすい・・・
マーケティング(と言っても、自分軸マーケティングという「唯一無二」のものですが)のコンサルタントを自称しているのですが、勉強不熱心でして、『フリー』もつい最近知りました。
購入したのもたまたま、駅前の5坪ぐらいしかない小さな書店に平積みされていたからです。
値段を見たら350ページのハードカバーなのに1,890円。ぼくのSE向けの単行本より安い!(笑) 「買い」だと思いました。
結構一生懸命読んでおります。ノートにびっしりと書き込んでいます(写真)。それほど、響く言葉が多い。
実は、まだ85ページほど残っているのですが、おおよそのところは理解できました。
内容は単純明快なのですが、一部誤解されそうな部分もありました。
その中で一番重要そうなところについて、ちょっとだけお話ししようと思います。
●タダで配って元を取るという話ではない
「Free」とは、英語特有の表現で、無料であり自由であるということです。確かに、英語以外の言語では、無料と自由は別の単語です。
※日本語でも、「ご自由にお持ち返りください」という表現で、無料を意味することができます。なので概念としては近いのですが、しかしそれぞれの概念を指すメインの単語は別です。
さて書名から、何かをタダで配って、あとで元を取れという話だと思われたかもしれません。
しかし、そういう話ではないのです。
それなら、無料プレゼントや試供品で人を集めて、その後元を取るという従来からあるマーケティング手法と一緒です。何も目新しくありません。
ただ、同書の冒頭で、従来のマーケティングとは違うと書いてありながら、ぼくもしばらくは特典で釣る方法と何が違うのか良くわかりませんでした。
読み進めるにつれて分かってきました。分かってみれば簡単な話です。
●タダ同然のものに値段をつけてはいけないという話
著者は、ワイアード誌編集長クリス・アンダーソン。ネットやITの世界のことには精通しています。
その彼が言います。
情報コンテンツはどんどん無料になる、と。
デジタルの世界では、複製にも保管にもコストは無視できるほどしかかかりません。
Yahoo!メールは、無料で容量無制限です。ぼくは、アメブロに1日10枚ぐらい写真をアップしていますが、アメブロから容量オーバーなので課金します、などというメールが来たことはありません。
もちろん、希少価値のある情報は高く取引されます。
しかし、音楽や動画のように、最初から公開を前提としている情報コンテンツは、無料に近づいていく方向性にあります。
それに価格をつけようとがんばっても、必ず限界が来ます。CDが売れなくなったのには、歴史的必然性があるのです。
では、これがミュージシャンなど著作権者の損になるのか?
実はならないんですね。同書では、レディオヘッドやプリンスの例が出ていますが、音楽コンテンツをネットで無料配布してからのほうが、彼らは売上が増えているのです。
●率を追わず、母集団を圧倒的に増やせ
どうして売上が増えているのでしょうか?
それは、音源を無料配布することで、コンサートツアーの動員が数倍以上に増えたからです。チケット代が主な収入ですが、コンサート会場で売れていくCDやグッズ等の収益もバカになりません。
コンサートは体験です。人は思い出にはお金を払います。
思い出には希少性があるからです。希少性のあるところで課金するのが基本なのです。
※自分軸は、希少性を発見するためのツールでもあると、今気づきました。
以上はコンテンツの配布の話でしたが、アプリケーションソフトウェアもGoogleなどの影響でどんどん無料になっていますよね?
これは、コンピュータやネットワークが、歴史上考えられない勢いでどんどん安く、高性能になっているからです。
コンテンツを流通させるコストがタダ同然になった。アプリケーションソフトを利用させるのも一緒です。タダ同然です。
固定費がタダ同然になったら、タダで配布するのが「フリー」の要諦です。
たとえ1円でも課金をしようと思ってはいけません。
その代わり、自分たちのサービスを使ってくれる母集団を圧倒的に増やすのが戦略です。
その中の、たとえば数千人に1人がお金を払ってくれたら、成り立つようなビジネスモデルを考える、ということが、フリーの事業戦略なのです。
だから、Googleの企画兼技術者たちは「これをやったら儲かるか?」という観点ではサービスを考えません。
「これはクールかな?」「ユーザーが夢中になるかな?」という観点でサービスを企画するのです。
特典をつけて買ってもらおうという考え方とは、かなり違うのがご理解いただけたでしょうか?
●ビジネスのヒントもネタもいただきました
まあ、なんとなく違うんだなあと思っていただければ結構です。
350ページの本について、この短い記事だけで解説し尽せるわけもありませんし。
『フリー』を読んだのに、結局は従来の無料サンプルからというビジネスモデルから抜け出せずに失敗する人が多いんだそうです。
ぼく自身は、まだ途中ですが、すでに大きなヒントをいただいていますし、このブログのネタもたくさんいただきました。
今日書いたようなことがきちっと理解できる方であれば、『フリー』はビジネスのヒントに満ちています。
それ以上に読み物としても面白いので、ご一読をお勧めします。
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追記:
中国の不正コピーが問題になっています。従来の著作権の観点からいえば、もちろん問題ですが、21世紀の「フリー」時代においては、実は産業を振興させる牽引力になっている部分もあるようです。
日本のマスコミも中国の不正コピーについて眉を顰めているだけでなく、そういった面があること、また日本のアニメやゲームなどのクール・コンテンツも中国をうまく利用することで、さらに発展する可能性があることなどに触れてほしいなあと思います。