「不得意だからやってみたい」VS.「不得意だから誰かやって」
ある企業の新入社員研修を担当していた時のこと。
グループごとに「企業」を模して、成果を競い合う演習を行いました。最初に「リーダー」を決めるタスクがあり、自薦・他薦は問わずに話し合ってもらいました。
こういう時、たいていは、
「○○さんがいいよ、リーダーシップ発揮しそうだし」
「今日までの動きを見ていても○○さんが適任だよ」
と他薦されるか、
「私、こういうの得意だからやってみる!」
「リーダーをやってみたかったから、やらせてほしい」
と自薦(立候補)するか、どちらかになります。
この日は、ちょっと違う理由で「立候補」した方がいて、「ほほぉ~」と感心しました。
「ボク、リーダーみたいなこと不得意なので、やってみたい」
そう彼は言いました。(実際には、「わたし」という一人称を使っています)
メンバはそれに対して、
「うん、いいね、やってみて」
と快諾。
講師の目から見ても、「リーダー」役を担当するのは、少しハードルが高そうに思えましたが、どうなることかなあ、と見守っていました。
演習がスタートすると、自分で「不得意」と言うだけあって、なかなか人をうまく動かせませんでした。演習の結果も、可もなく不可もなくといったものになりました。
それでも、この彼の勇気は讃えてあげたい。いや、実際にこの場でも「その姿勢はすばらしい」と伝えました。
「不得意だからやってみたい」
「苦手だから挑戦してみる」
こういうマインド、すごく大事だと思うから。
この例は、新入社員研修の一コマでの出来事ですけれど、30歳になっても40歳になっても50歳になっても、こういうマインド、ある人とない人とでは、仕事の成果も成長度合いも自分が感じる「仕事の楽しさ」もうんと差がつくように思います。
「うわー、それ、やったことないから、経験者をアサインしてもらえませんか? ボク、サポートならするから」と腰が引けてしまう人。
「うわー、それ、やったことないから、自信はないけど、サポートもつけてもらえるなら、私が挑戦してみたい」と前向きになる人。
「それ、そんなに得意分野じゃないから、できればやりたくないなあ」と言う人。
「それ、そんなに得意分野じゃないけど、このチャンスに勉強してみたい」と言う人。
部下や後輩たちに「主体性」「積極性」「挑戦力」「自主性」「自律性」などと言う言葉を口をすっぱくして言う上司や先輩。
自分は「主体的」か、「積極的」か。「挑戦」しているか、「自主的」に動いているのか。「自律」しているだろうか。
部下・後輩に期待を伝える際、それは、全部自問自答しなければならない言葉のはず。
冒頭の彼。
「不得意だからやってみたい」。
この言葉は、私にもとても重く響いた一言でした。
新入社員研修を担当するというのは、こうやって、自問自答の機会を与えられることでもあり、自分が発する言葉には、リアリティがあるだろうか、と常に内省させられるのです。