「原点回帰」のススメ
先日、ある企業で若手向けの研修を担当しました。
その中で、「原点回帰」のワーク、というのを取り入れたところ、私が想像していた以上に反響があったので、メモ代わりに書き残しておきます。
簡単なワークです。
●「あなたがいろいろな選択肢の中から”会社員”になろうと思ったのは、どういったいきさつからですか?」
●「あなたがたくさんある選択肢から”IT業界”あるいは”ITエンジニア”を選んだのは、どういう理由からですか?」
●「あなたが数ある企業から、今在籍している”○○会社”に入社したのはなぜですか?」
これを思い出し、一人ずつ語るというものです。自問自答ではなく、他者に語るのがポイントです。
こんな風に展開されました。
Aさん:「うーん、学部が理系だったし、周囲もたいていがIT系に行く雰囲気だったし、就職サイトに出てきたこの会社になんとなくしたように思う。特に理由なんかなかった気がする」
Bさん:「ボクも、特に理由はなかったなあ。仕事しないといけないし、食べるためにどこか就職するか、という感じだったかな。何かでたまたまこの会社の名前を見つけて、良さそうだったから受けて、今に至るという感じ」
(このお二人、つまりは、「なんとなく」「特に理由はない」という、わくわくするような理由はこの時点で述べていません)
Cさん:「私、○○の研究をしていて、そのまま研究者になりたいと思っていたのですが、いくつかの理由で研究者の道は断念し、だったら、似たことができそうな会社がいいなあ、と思い、見つけて、ここに入社しました。」
Dさん:「まずは、生活力をつけようと思いました。親から独立するために”会社員”になって一定の収入を得る立場になろうと。アルバイト先の先輩があるとき、IT業界に入って楽しい!という話をしてくれたので、それで業界を絞り込み、この会社に自分も入りました」
(少し、前向きな理由が並びます)
すると、この時、最初のAさんやBさんが、「あっ!」と小さな声を挙げました。ん?なんだろう?と思い、話が途切れた時、「Aさん、なんですか?」とふってみると、こう語り始めました。
Aさん:「特に理由がないと思っていたけど、今、CさんやDさんの話を聴いていて思い出しました! ボクも研究者になりたかったのですが、その道は諦めたのでした。でも、似た分野のことができる企業がその時、うちしかなかったので、迷わず、この会社を選んだんだった。たまたま、とさっきは言ったけど、明確な理由がありました。」
Bさんも同様に、「思い出した、今、ひとの話を聴いていたら、自分がどうしてこの会社にしようと思ったか、はっきり思い出した!」と続けました。
彼らはまだ20代で就職活動の頃のことは、そう遠いものではないはずです。それでも、1000日以上を会社で過ごし、すでに、遠い過去になってしまっているのですね。
だから、なぜ自分がここで働いているか、言葉にしようと思っても、そうそう思い出せない。なんとなく、ただなりゆきで、と思ってしまっている。
だけれど、他者の言葉を聞き、「そういえば、自分もそうだった」「そういえば、私がこの会社に決めたのには、ちゃんとしっかりした理由があったじゃないか」と思い出してくる。
そしてそれを言葉にして、また他者に話す。話した自分の言葉が、再度自分の耳から自分の中に取り込まれて、「意識」下に置かれる。
「そうだ、そうだった」
「なぁ~んだ、そうだったんだ」
と気づく。
翌日、「昨日のワークで気づいたこと、印象に残ったことは何ですか?」と数人に問いかけたところ、「原点回帰が一番よかった。自分が忘れていたことを思い出せたから」「原点回帰で、私が就職した理由、この会社に決めた理由を明確に意識し直せた」という声が多数挙がりました。
仕事に行き詰りを感じたり、「なんで働いているか」という理由を忘れてしまったり、あるいは、マンネリ化を感じていたりする時、「原点回帰」はとても有効な気がします。
●私はなぜこの会社に勤めようと思ったのだろう?
●私はどうしてこの職種を選んだのだろう?
たまたま、なりゆきで、仕方なく・・・必ずしも前向きな理由ではなかったとしても、自分で選んだことには変わりありません。だとしたら、なぜ、そういう「選択」をしたのか、言葉にしてみるのは、自分の働く意義・意味を再確認するのに役立つはず。
だいいち、「原点」を語ったら、たいていの人のモチベーションは上がります。おススメですよ。