25年前の母たち
先日、ある企業で若手向けの研修を担当した際、ふと思い出した25年ほど前のことを語りました。
「当時、部署で初めて出産で復職する(退職しない)という先輩が現れ、生後8週で復帰してきたことがあります。なんせ、育児休業制度というのがなかったので、産前6週産後8週だったのですよね」
女性からは「どよめき」が起こりました。「えー、2か月の赤ちゃんと置いて復帰!? 信じられない!」。
「ええ、そうなんです、今思うと、すごいことだなあ、あんなちっちゃなものを預けて、仕事するなんて、本当にすごいことだと思うのですが、当時は、それが当たり前だったので、退職する人も多い中、その先輩は復帰してきたのですね。」
「で、まだ授乳期なので、当然、おっぱいの問題が出てくる。どうしよう?ということになり、その先輩は、職場で搾乳し、冷凍保存して、退社時に持ち帰る、ということをしたいと上司に交渉したのです。
上司も周囲の人間もなんせ初体験なので、”そうか、そうか”と協力体制を敷き、以下のように対応しました。
○昼休みに鍵のかかる会議室をずーっと予約しておく
○先輩は鍵がかかる会議室で搾乳する
○おっぱいは、見えないように紙袋に入れて、職場の共有冷凍庫に入れておく
・・・これは、全員がちゃんと認識していて、「昼休みに一つの会議室」は彼女が占有すること、「冷凍庫」は開けないことなどが不文律となりました。」
「しばらくしたら、顧客先で研修講師の仕事をすることになり、今度は、客席でのおっぱい問題が浮上。その時も、”じゃあ、お客様に交渉してみよう”と営業が協力してくれて、顧客先でもランチタイムに会議室を借り、冷凍庫を借りることができました。無事、客先での仕事もこなしたのです」
「私は、まだ新人だったのですが、それを間近で見ていて、”ああ、人間、どうやったら解決するかを考えること”と”どうしてもこうしたいという熱意を持っていること”は大事だなあ。ひとりで解決できなくても、周囲の支援を受ければ、いろんなことに風穴を開けることができるものだなあ、と思っものでした。」
・・・
この話は、「無理と思わず、可能性を探ってみたら、案外、できることがあるよ」という例として紹介したものですが、その後、休憩時間に、女性たちが何人か私に声を掛けてくださいました。
「今の話、すごーく心に響きました。実は私の母も働いていて、私も生後数か月で預けられたのですが、うちの母もそうやって、そういう思いで仕事をし続けたのだなあ、と改めて知りました。私ももっと頑張らなくちゃと思いました」
「昔の人たちがそうやって頑張ってくれたからこそ、育児休業制度などもだんだんと充実し、しかも、とりやすくなってきたのですね。感謝しなくちゃ」
男性にも聞いてみました。
「ゴメンナサイ、おっぱいの話、ちょっと生々しかったですか?」
「いえ、僕たちにも関係あることなので、すごく考えさせられました」
今の若い方たちは、とても、フラットなのですね。男女、あまり関係ない。それぞれが、この物語を真剣に聞いてくださいました。
「昔話」はともすると、「それは、過去の栄光でしょう?」「ああ、昭和過ぎて、今の時代には合わないよ」と思われるケースもあります。
でも、こんな風に「ああ、自分もがんばろう」「そういう歴史があって、今があるのか」と考えるきっかけにもなるのだなあ、と思った出来事でした。