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「思い込み」が激しい人にかける言葉の作り方(2) ― 思い込みや思考停止状態をゆるめるためには?

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こんにちは、しごとのみらいの竹内義晴です。

「思い込み」が激しい人にかける言葉のかけ方について連載しています。

記事の履歴はこちら。

昨日は、仕事の中には「成長を期待しているからこそ新しいことにチャレンジしてほしいのに、チャレンジしてもらえない」「適任者がいない、業務がまわらないからぜひやって欲しいのに、相手がなかなか受け入れてくれない」という問題について取り上げました。

今日は、思い込みや制限をゆるめるために有効な手段についてお話したいと思います。

 

思い込みや制限を持っている人への通常のアプローチ

思い込みや制限を持っている人に対して、通常なら「説得」を試みると思います。

具体例を挙げましょう。たとえば、「リーダーの仕事は絶対にやりたくない」という人がいたとします(実は、以前はボク自身がそうだったんです(笑)。今は楽しいと思っていますけどね)。

このような場合

お願い:「キミの気持ちもわかるけど、そこを何とかお願いできないだろうか」
強制:「キミの年齢なら、そろそろ人をまとめる仕事もすべきだろう」
批判:「キミだけが大変なわけじゃないんだぞ。ほかのみんなだってやってるのにキミは……」

のような形で説得を試みると思います。けれども、言われる立場になってみると分かりますが、説得されるとどれもいい気分ではありませんよね(むしろ抵抗したくなります)。

その結果、説得は失敗に終わります。例題に限らず、こういう経験は誰もがあると思います。

 

思い込みや制限をゆるめてもらう試み

では、どのようにしたら、相手の思い込みや、思考停止状態にある制限をゆるめて、「そうじゃない場合もあるかもな」という新しい視点に立ってくれるようにできるのでしょうか。

ここで有効な試みは「問いかけ」です。詳しい話の前に、まずは具体例を挙げましょう。

イメージしてください。あなたは、何が理由かはさておき「リーダーの仕事は絶対にやりたくない」と思っています。

そこで、ご自身に次のように問いかけ、その答えを考えてみてください。全部でなくて結構です。何か、ひっかかるものだけでかまいません。

「いつからリーダーの仕事がやりたくないと思うようになったんだろう?」
「どこでそう思うようになったんだろう?」
「リーダーの仕事が嫌だって、どうすれば証明できるのだろう?」
「誰かそういう人がいたのかな?」
「嫌なことって、例えば?具体的にはどういうことだろう?」
「何か恐れていることでもあるのかな?」
「何がきっかけでそう思うようになったのかな?」

頭の中でどのような答えが導かれたのか、私には分かりませんが、それでも、「何が嫌なんだろう?」とか、「いつからこう思うようになったんだろう?」のような考えが思い浮かんでいたんじゃないかなぁと思います。もしくは、具体的に「○○さんが嫌だった」みたいなイメージが浮かんでいたかもしれません。ひょっとしたら、「嫌じゃないときはあったのかな?」「そういえば、以前に出会った○○さんはすばらしかったな」のような、嫌とは逆の想いも抱き始めていたかもしれません。

少なくとも、

「リーダー」=「嫌なものだ」

という、こう着した状態が少し解けて、そう思うに至ったプロセスを考え始めていたのではないかと思います。

 

思い込みの方程式ができる仕組み

「リーダーは嫌だ」

のように、私たちすべての人は、何かしらの理由によって「AはBである(A=B)」とか、「AになるとBになる」というような方程式みたいなものが頭の中にあります。たとえば、次のようなものです。

「お金があれば、幸せになれる」
「いい大学に入れば、いい就職ができる」
「大企業に入れば、安泰だ」
「天気の日は気分がいい」
「政治家は汚い」
「ノマドは不安定だ」
「私は社蓄だ」
「ベンチャーはブラックだ」

これと同列に、

「リーダーは嫌だ」

もあります。この、

「A=B」「AになるとBになる」

のように、本当はそうとは限らないのに、「そうである」と思考を固定化してしまっている状態が、いわゆる「思い込み」です。

ではなぜ、このような思い込みができるのでしょうか。

私たちの体が、今まで食べてきたものと飲んできたものでできているように、私たちの思考は、私たちが今まで触れてきたさまざまな情報や体験によってできています。思い込みもそうです。

たとえば、先ほどのリーダーの話で言えば、私たちの周りにあるリーダー像は「リーダーをすると好きな仕事ができない」「リーダーは面倒くさい」「リーダーは先頭にたってみんなを引っ張らなければならない」「先頭に立つと責められる」みたいな情報です。このようなことを毎日見たり聞いたりしていたら、リーダーになりたくなくなるのも当然でしょう。また、過去の体験で「人をまとめるのが苦手」というイメージを持ってしまった人もいるかもしれません。

 

固定化してしまっている思い込みをゆるめる

繰り返しになりますが、この、

「A=B」「AになるとBになる」

と固定化してしまっている状態を緩めるのに役立つのが、4W1Hを中心にした「問いかけ」です。問いかけることによって

  • 相手が言葉にできていない、言葉の裏側にある背景を共有できる
  • 思い込みや制限をゆるめる機会をつくる

ことができます。

【相手が言葉にできていない、言葉の裏側にある背景を共有できる】

私たちは体験や考えを言葉にしようとするとき、すべての体験や考えを言葉にすることができません。「いつ?」「どこで?」「誰が?」「何を?」「どのように」などと問いかけることで、言葉の裏側にある背景が具体的にでき、思いを共有できます。共有することで、あなたが、相手の想いを知ろうとしていることが伝わり、相手も「○○さんは私のことを分かろうとしてくれている」という思いを抱くかもしれません。また、言葉の裏側にある不安を知り、そのサポートをすることを示すことで、あなたの提案を受け入れてくれるかもしれません。あなたの似たような体験を話すことで、相手の不安も和らぐかもしれません。

【思い込みや制限をゆるめる機会をつくる】

「自分の何が、そう思わせるのか?」(リーダーの例なら、「何が自分に、リーダーは苦手だと思わせるのか?」という、自分がそう考えるようになったプロセスを知れば、思考の制限や思い込みをゆるめ、思考の幅を広げる可能性が生まれます。

具体例を挙げましょう。たとえば、前出の例なら……

「どのぐらいお金があれば、幸せって言えそう?」
「誰がいい大学に入れば、いい就職ができるって言っていたの?」
「大企業に入れば、どのぐらい安泰なの?」
「天気が悪い日はすべて、気分が悪いの?」
「政治家は汚いっていうけど、汚いってどういうこと?」

このように、無意識にある「そう思うようになった状態やプロセス」を問いかけ、具体的にしてみることで、思い込みによって歪曲しているかもしれない「A=B」という関係や、「AになるとBになる」という因果関係を、「そうでない場合もあるかも」という新しい視点へと自然に向けることができ、問題解決や制限をゆるめる期待が生まれます。

 

問いかけるときの注意点

問いかける際のポイントは「原因」を追求するのではなく、そう考えるに至った「プロセス」を導くことです。以下の点を意識するといいでしょう。

【最初に信頼関係を築く】

大した関係性もないのに、いきなり問いかけるとかなり嫌な感じがするものです。そのためにも、まずは相手に寄り添う姿勢が必要です。たとえば、「リーダーの仕事は絶対にやりたくない」と相手が言うなら、「そんなのダメだ」と否定しては、相手にシャッターをガラガラ―っと降ろされてしまいます。まずは、「リーダーの仕事はやりたくないんだね」のように寄り添ったうえで、「たとえば、具体的には何が嫌なの?」と問いかけるといいでしょう。

【問い詰めない(ゆるめる意識を持つ)】

原因を追求するように根掘り葉掘り聞かれるときほど、嫌な感じがするときはありません。大切なのは、「思い込みや制限をゆるめる」ことで、「相手を突っ込んで責めるものではない」ということです。ちょっと冗談交じりで、柔らかく話しかけるといいかもしれません。

【なぜ?を使わない(4W1Hを使う)】

「なぜ?」という問いを使わないことで、問い詰め感を幾分防ぐことができます。「なぜ?」は問い詰められている感じがするとともに、無意識に原因や言い訳を考えたくなるものです。

【無理に「気づかせよう」としない(相手にゆだね、上手く行かなければ別の方法を試す)】

問いかけで失敗するもっとも顕著な例は、無理に「気づかせよう」とすることです(「気づかせよう」という態度は相当上から目線の行為です。気づきは与えるものではなく、発生するものです)。また、無理に「気づかせよう」とすると結果的に根掘り葉掘り聞きたくなるので、問い詰める感じになりがちです。一度では上手く行かないことのほうが自然です。「今日は上手く行きそうにないな」と思ったら、別の機会に、別の方法を試しましょう。

 

これまでの話をお読みになって

これまでの話をお読みになって、「なるほど」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。一方で、「言っていることは分かるけど、これを実践できる人はどれだけいる?」「問いかけって難しいし、結構危険だよね」「これで上手く行かないこともあるんじゃない?」のように思われている方もいらっしゃると思います。おっしゃるように、すぐにはできないでしょうし、問いかけはなかなか難しいです。もっとも、ブログの文章を読むだけでできたら、ホント、苦労しないのかもしれないです。人との関わりはそれだけ難しいですよね。だから、できるようになるためにはトレーニングが必要だと思います。

この「思い込み」というのは、私たち自分自身にもあるので(というより、良くも悪くも私たちの思考はすべて思い込みです)、同僚にそうするのは難しいと感じたら、まずはご自身からやってみるのもいい方法です。たとえば、今、ネガティブな考えをしていることにふと気が付いたら、「何が、こう思わせるんだろう?」「誰にこの考え方をもらったんだろう?」みたいに、その考えが生まれた成り立ちやプロセスを考えてみるのです。そして、ご自身の思考を柔らかくしていく感覚がつかめれば、同僚にもうまく接することができるようになると思います。できるところからチャレンジしてみてください。

 

この方法の専門用語

この、4W1Hの問いかけを使ってその思考に至るプロセスを引き出すことで、相手の思い込みや制限を緩め、可能性を広げる方法を、専門用語では「メタモデル」と言います。メタモデルには用途に応じて12の問いかけパターンがあります。詳細については、また明日以降に。

 

実践的なワーク

頭で理解するだけよりも、実践で使えるようにするためには実際に考えてみるのが一番です。

次のようなことを言う新入社員があなたの前にいます。そこで、あなたは「新しい視点に気づいてくれたらいいな」と願っています。今日の話をもとに、どのように問いかけたら思い込みや制限をゆるめてくれるかを考えてみてください。

  • 「自分はそれをやったことが無いからできない。やったら必ず失敗する」
  • 「失敗したら、自分は責任を負わされる」
  • 「できないことがわかっているのに強制するのは、パワハラだ」

そう、これは昨日の記事で紹介したものです。

 

今日のまとめ

思い込みや制限を緩めるためには、4W1Hの「問いかけ」が有効。

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