フィンランドでの北極圏氷上走行 (3)
フィンランドでの北極圏氷上走行 (2)に続きます
Audi Ice Experience in Finland
あまりフィンランドのことばかりを書いていると仕事をしていないようでちょっと気が引けるのですが、人生の参考になる大きな発見もあったので続けます。あまり引っ張り過ぎて終わらないと気持ち悪いですし(笑)
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学生時代から車を運転するようになってずっと興味を持っていたのがドリフトです。後輪が横滑りする体験は異次元なワクワク感を体験させてくれるものです。雪国に後輪駆動の車にチェインを履いてスキーに出向くのも大好きでした。故にそれなりに滑りやすい道での対処はできていたはずです。
ところが、湖の上に創ってある本当に滑りやすいコースの上では基本的に横滑りをしながら走るわけです。初日の午後は、どうにもなかなか車の操縦のツボがつかめずにいました。
そして、やっちまいました。調子にのって走っていたらコースアウトして雪の壁に車を乗せてしまいました。雪から脱出できずにトランシーバーでトラクターを呼びます。トラクターにけん引されて氷の上に戻してもらい、首から下げたプラスチックカードに穴を開けられます。そう。救出の数がカウントされる仕組みなのです。今回の全員の中の名誉ある1号をいただきました~。(汗)
午後に3時間ほど走り、ホテルに戻り、夕食までのひと時を皆で集まって過ごしました。じゃんけんで勝った人が全員に飲み物をごちそうするというゲームで盛り上がります。話している中、ここに集まった人たちが本当にクルマ好きだということを実感します。何せ、氷の上で運転を楽しむために遠路北極圏にまで来てしまうような人たちですから。
「アイスドライブはスキーに似ていますよ」と、雑談の中でいただいたアドバイスが翌日の大きなヒントになるのです。夕食とワインを夕方7時から楽しみ、部屋に帰るとバタンキュー。瞬間的に寝ていました。
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翌日の朝、練習車をペアで使っている日本人インストラクターが他の車に乗られるとのことで、少し単独ドライブの時間ができました。絶好のチャンス。そこで、スキーを思い出しながら各コーナーに取り組むことにします。
スキーでパラレルターンで坂を下るときには、腰でタイミングをとって膝を少し伸ばして、加重を谷側の板に思い切り乗せますよね。すると谷側のスキーのエッジが雪をつかんで綺麗なターンが切れるのです。
車でも同じイメージで試してみました。
コーナーにアプローチするときに、スキーの感覚で「よいしょっ!」とハンドルとアクセルとで車の加重とを意識しながらきっかけをつくって回るのです。すると回る外側のタイヤが氷をしっかりととらえる感覚が出てきました。きっかけをつくって前輪がしっかりとつかんでくれた後に、そのままアクセルをやんわりと強めたり弱めたりすると、AudiのQuattroという4輪駆動のシステムが上手に4輪ドリフトへと持って行ってくれます。2日目の朝に滑ることが何とか制御できる感覚が出てきました。
こうなると楽しいです。ひたすら試して、この日も2回トラクターに救出してもらいました。
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「あくまでもスローインがいいです」
たまにやる運転メンバーのシャッフルで同乗したその人は寡黙な人なのですが、基本的に笑顔でさらに運転が上手でした。スローインで車を制御してカーブを脱出できる目安ができたところでなるべく加速をするのだと言います。
考えてみたら、自分が雪の壁の上に乗っかってしまうときには、必ずコーナーを見誤って侵入速度が圧倒的に高いときです。どうも自分は「きっとこうだろう」という感覚でコーナーに突入して、「実は違った」というところで痛い目にあっているようなのです。つまり、目の前のことがよくわからない状態でイチかバチかの賭けに出るのはだめ。はっきりわかるまでは慎重に、そして見えたら車のパワーを全開にするのだと。これはありがたいアドバイスでした。
そして、もう一つ不思議とインストラクターから指摘されることがありました。運転をしている際に見るポイントが近すぎるというのです。二つ先のコーナーまでを見渡しながらどの侵入速度で行くかを想定しておく必要があるというのです。
さらに、車が横滑りをしながら走る中で、特にお尻を振るようなときには、どうしても近くの壁にぶつからないように視点がそちらに行ってしまいます。ところが、それだと進行方向を見失ってしまうのです。その時には、カウンターの当て方が多きめになり勝ちで、車のお尻が右に左にと蛇行してしまいます。結果ハンドルをバタバタと左右に回してしまうのです。
「自分が行きたいところを凝視する」
このアドバイスは効きました。視点とは面白いもので、車が不安定になっているときほど、恐怖に負けずに自分が行きたい方向を注視するのです。すると不思議です。体が勝手に反応して、車はちゃんとそちらに向かっていきます。
つまるところ、今回の氷上走行で自分が学べた重要なことは次の3点でした。
・車を曲げるきっかけをつくる (加重移動)
・スローイン、ファストアウト (制御できるスピードまで落とす)
・視線を遠くに持つ (行きたい先を凝視する)
これって、このエッセーを書きながら、経営と似ているのではないかとも感じたのです。
・突然舵を切っても会社の方向は変わらない
・試すときには慎重に、勝ち目が見えたら集中的に資源を投入する
・危機のときほど、自分たちの進むべき方向を見る、見失わない
ものごとには共通点が多いですね。
で、失敗するとこのように雪に突き刺さって動かなくなります。トラクター救出を待つしかないのです(笑)
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一通り上達したと思われたところで、3日目の課題が発表されました。「ナイトラリーでタイムトライアルをします」と。暗くなってからヘッドランプを頼りに氷上走行をして時間測定するのだと言います。
「げっ、まだそんなこと、やりたくない...」ちょっと腰が引けてしまったのです。
午後の休憩時間中にナイトラリーの説明があります。写真は休憩所。
ラリーはドライバーとコードライバー(ナビ)がコミュニケーションをしながら走るものです。基本的には、この先どういう道があるのかをタイミングよく教えながら走るもののようです。真っ暗な中、氷上を走るわけで、しっかりとコミュニケーションをとる能力も重要そうです。
午後の休憩が終わると、明るいうちに、道の状況についてゆっくりと調べます。
ドライバーとナビとの間のコミュニケーションは二人の間で決めた記号で行います。自分のパートナーは、日本アウディからやってきたインストラクターだったので少しラッキーだったかもしれません。まずは道の状況を知らせる記号について簡単な取り決めをします。自分たちが使ったのは次のような記号でした。
・右カーブなのか左カーブなのかを「R」か「L」かで示す。
・カーブのタイトさを「1(ヘアピン)」~「5(高速カーブ)」で示す。
・カーブが後半よりきつくなることを「マイナス」で示す。
・気を付けるべき項目は「Caution」、例えば「Caution、滑りやすいです」と示す。
・目印になるコーン類もメモに記載する。
明るいうちにメモを作成し、交代をしながら数周走ります。だんだんと慣れてきます。ナビ側もいいタイミングでコーナーを伝えます。こんな感じです。
「はい、次はR3マイナスです」
「了解R3マイナスですね」
「はいR3マイナスのつぎはL2です。L2はL3へとつながります」
「了解。L2、L3」
「L3抜けるとR2Cautionです。滑りやすいです」
「了解。R2滑りやすいCautionですね」
カーブの大きさを事前に知ることでどこまで減速する必要があるのかが感覚でつかめてきます。さらに、カーブがよりきつくなるのか、滑りやすいのかを事前に把握できると、これまたより安心して走れるものです。やっているうちに、いい感じでコミュニケーションが取れることもわかります。
「これは結構いけるかもしれない」
インストラクターの人とちょっとワクワクした感じになってきました。休憩のコテージに戻り、暗くなるのを待ちます。夕方5時を過ぎ、いよいよです。車に乗り込み時間を計測しながらのラリー走行が次々と開始されます。
ミスをしないで走り切れるか。スピンしないか。コースアウトしないか。さらにナビをしているときに、コーナーのメモと現在位置とがずれたりしないか。コース出口を間違ってでオーバーランしても失格とのことです。様々に不安を抱えながらいたわけですが、自分が先に運転することにしました。この手のことは早く終えてしまった方が気も楽だからです。
コース入り口に入って待機。そしていよいよ、スタートっ!
ヘッドライトとナビの声だけが頼りの氷上疾走が始まりました。コーナー手前でのフルブレーキング、デリケートなドリフトコーナリング、そしてコーナー出口でのフル加速。この繰り返しです。的確なタイミングでくる情報、声で取るコミュニケーションは励みになります。次々とコーナーを抜けていきます。1周7km超えのコースです。かなり高速コーナーで行けるところ。低速コーナーの連続のところ。我慢と勇気の繰り返しです。ナビからの励ましも大きな材料です。
最終コーナーを抜けてタイム計測器の横を過ぎてフルブレーキング、出口を無事に出ます。思わず出た言葉が「よかった!」でした。そう。個人のタイム計測でもありますが、パートナーとの合計タイムによる、チーム対戦でもあるからです。足を引っ張らない走りができてほっとしました。
8分17秒でした。
次にパートナーが運転席に入り、その番になります。こちらとしては、ナビで迷子にならないようにすることが大きな責務です。
スタート!
さすが日本でインストラクターをしている方です。コーナー出口からのしっかりしたフロントのグリップ、思い切った加速、メリハリがあります。次から次へとくるコーナーたち。頭の中は妙に冷静だから面白いです。コーナーの状況が事前に共有できる安心感というのは、もしかしたら闇の中で回りが見えないハンディを乗り越えるものなのではないかとすら思えてきます。
ゴール!
さすがインストラクター、7分56秒。
結果としてはインストラクターが1位、自分は6位、チームとしては2位でした。チーム2位なのでだいぶ足を引っ張ったことにはなりますね。もっとも欲張りは禁物、初めてにしては満足してもいい結果だったとします。
そして最終日。最終日の午前は飛行場に行く直前まで走っていました。
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「You have to fail to learn!」こう言い切るドイツ人インストラクターの言葉を信じて、「料金は変わらないんだから失敗しなけりゃ損」精神で走りました。
その穴の開いたカードを写真添付しますね。結果的に自分は合計5回トラクターに救出してもらいました。5つの穴が救出回数を示しています(笑)。
それにしてもすごい体験でした。贅沢な大人の遊び。リアルゲーム。氷上では瞬間的な集中力の切れがすぐに失敗として返ってきます。だから現在に徹底的に集中し続ける体験でもあったのです。ものすごくリフレッシュできたのでした。
Audiさん、ありがとうございました。そして、留守中もしっかりと会社を守ってくれた皆さん、ありがとうございました。写真はCertificateの授与式です。
※20160302 1017 前半部分、一部欠けがあったので付け足しました。