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ビジネスモバイルITベンチャー実録【朝メール】から抜粋します

強制力というスパイス、そのメリットとデメリット

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★強制力はスパイスとして必要、でも、それに慣れてしまうと服従してしまう。そんな話題のエッセーです。

【朝メール】20090820より__

===ほぼ毎朝エッセー===

□□強制力というスパイス

VOD(ビデオ・オン・デマンド)という言葉が使われるようになって長いです。1980年代から1990年代にかけて、FTTH (Fiber to the home)といわれる、光ファイバーの日本全国敷設が国家プロジェクトとして「目指すはVODだ」とまでいわれていたこともあります。おかげで、光ファイバー経由でもケーブル経由でも衛星通信経由でも、すっかりとVODを実行する環境は整いました。

ところがどうでしょう。2000年代も第2ディケードが近づいてきているにも関わらず、なかなかデマンドベースで、テレビを観る方式は定着しません。レンタルビデオショップや、ハードディスクレコーダーがその要望を疑似的に満たして、点在するストレージサーバーのような役割を果たしています。

いまだに『天空の城ラピュタ』が地上波で流れていたら、やはり気になってそれを観ようとしてしまいます。すっかりと大容量化したハードディスクレコーダーに録っておいたとしても、その容量がぎりぎりになるまで放っておいて、最後に慌てて観て消したりします。

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やらなければならないプライオリティが高いことが沢山ある世の中です。期限で縛るなどの強制力がなければまずは実施されません。スーパーでやるようなタイムセールスもその応用です。そのときでなければできないこと、ゆるい強制力がないと、人の中でのプライオリティは上がりづらいのです。

VODは、まさにその範疇にはまってしまっているのだと考えます。本来、WOWOWやスカパーなどではVODの先駆者であってもおかしくなかったのですが、あえて放送時間枠を明確にするスタンスをとっているのもこのためでしょう。

悲しいけど人は能動性だけで動くのではないのです。強制力がないと動かない。これが多くの場合は事実です。運動会があるからその練習をする、発表会があるからその準備をするのです。習慣にするのも自分で自分の行動を強制をするためです。始発が無ければ始発は目指さないでしょう。そう、強制力は自己を含め、行動を律するために必要な措置なのです。

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ちょっとこの原理を応用してみましょう。

今年は、健康診断を伊達さんには「強制的」に予約するように頼みました。権限のある「会社」から「行きなさい」と日時を設定されれば、素直に行くものです。今までは何度も「健康診断に自発的に行きましょう!」と声をかけいました。しかし、自分を含め、「いつでもいける」という慢心からプライオリティが下り、いつの間にか何年間も行っていないという結果になっていました。強制力のおかげでやっとこさ受診率100%になりました。

ただし、これは注意しないと、権威への盲目的服従という副作用もあります。権威に従うというのはとても楽なので、ついついそこに流れてしまいます。前にも朝メールに書きましたが『ミルグラムの電気ショック実験』という人の権威への弱さを示したものがあります。橋本大也さんの記事から引用します。

以下引用==>

白衣を着た先生と患者役の役者の前に、事情を知らない被験者を呼ぶ。患者役には電気ショック装置がつけられている。機械は偽物で本当は電気は流れないのだが、被験者には知らされていない。白衣の先生は、被験者に文を読み上げさせる。その文を患者役は繰り返す。間違えたら被験者はボタンを押して、患者に電気ショックを与えるよう指示する。

患者役は故意に間違える。白衣の先生は間違えるたびに電気ショックを強くしていくよう被験者に指示を与える。高圧になると患者役は絶叫し、ぐったりする。一番上の450と書かれたボタンには「危険。極度のショック」とまで注意書きがある。被験者は途中で倫理的な葛藤に悩まされる。途中で先生役に実験中止を求めたりもする。感情的に不安定になったりもする。

だが、結局、65%以上の被験者は高圧電流のボタンを押したし、実験条件を反抗しやすく再設定してもなお、30%以上が最高の電圧ボタンを押してしまった。白衣の先生が大丈夫といったし、これが意義のある実験だと信じていたためである。人間がいかに権威に服従しやすいかを証明した実験だと言われる。

<==以上引用終わり

私が責任を持つからやってください

この一言で人は倫理的な問題も乗り越えてしまい、3分の2の人が電気ショックを「えぃっ!」と与えてしまうのです。これを専門用語では「obedience to authority」と言います。「権威への服従」です。そう、強制力の行き過ぎは、このような姿にたどり着きます。

強制力のメリットとデメリット、この両極端を知りながら、強制力をプライオリティ上げのスパイスとして利用する、こういった使い方が賢いのだと思います。強制力をむやみに乱用するのでもなく、恐れるのでもはなく、このようなものだと知って使っていきましょう。

★強制されるのは、自分で考えなくていいので楽なのです。でも、それに乗っかっていると、いろいろと操作されてしまう。宗教の人身操作の基本原理も似ています。

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