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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

マレーシアから「水」で独立する必要があるシンガポールの水PPP事例(上)

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シンガポールの水事情を知ると、同国が水のビジネスに関して、世界の先端を走らざるを得ないということがよく理解できます。

■国土の2/3が雨水を貯める用地

周知のように、シンガポールはマレー半島の突端にある島であり、上水道の取水源になりうる天然の河川や湖沼を持ちません。従って、古くから雨水を貯留する貯水池が作られてきました。
Wikipediaのシンガポールの水事情を扱ったページによると、国土の2/3が貯水池用地となっているとありました。あまりに大きい比率なので他でも確かめてみましたが、同国で上水道と下水道を統合的に管理している政府機関PUBのサイトにも同様の記述がありました。最近、シンガポールの中心部にMarina貯水池ができたことで、貯水池用地が国土の1/2から2/3まで増えたそうです。

■マレーシアからの取水合意も2061年に終了

貯水池経由の水で足りない分は、長らくマレーシアから供給してもらってきました。マレーシアとシンガポールの間では、現在の両国の政体が成立する以前の1927年から水供給に関する合意が結ばれています。しかし、この合意は現在では期間満了となっています。

現在では、異なる時期に結ばれた2つの合意によって、シンガポールの上水道需要の4割が賄われています。(上水道源の内訳は、貯水池雨水2割、マレーシア経由4割、下水処理水3割、海水淡水化1割)

1つは、1961年に結ばれた合意で、マレーシア側のTebrau川、Scudai川、Pontian貯水池、Gunung Pulai貯水池から1日当たり8,600万ガロン(約39万立方メートル)」の水を取水してもよいというもの。この合意は2011年中に切れます。もう1つは、1962年に結ばれたもので、Johore川から1日当たり2億5,000万ガロン(約113万立方メートル)を取水してもよいというもので、この合意は2061年に終了します。
(ご参考までに、シンガポールがマレーシアから取水している量は東京都水道局の1日の給水量686万立方メートルの22%ですから、かなり大量の水をマレーシアから供給してもらっていることがわかります。)

どちらの合意も1,000ガロン当たり3マレーシアセント(0.81円)という単価が決められていましたが、マレーシアとしては、特に後で結ばれた合意については、単価を高くするのが妥当であるとし、長年にわたって条件変更を求めてきた経緯があるようです。マレーシアが引き合いに出しているのは、中国本土から香港へ水を供給する際の単価で、1,000ガロン当たり8ドルになっているそうです(おそらくシンガポールドル、514円)。ただしこれは、中国本土側が建設した上水道関連施設をフルに使って供給される際の単価だとのこと。マレーシア・シンガポール間では関連設備をすべてシンガポール側の費用で建設し、オペレーションとメンテナンスも同国が行っているので、単価は妥当だというのがシンガポールの考えです。

■「水の独立」の願いが水事業に向かわせる原動力

この種の議論はえてして平行線をたどるもので、解決はなされていません。マレーシアは「場合によっては水供給をやめてもよい」という態度に出ることもあるようで、シンガポールにとってはつらいところです。1961年の合意は今年切れますが、延長等の調整はなされていないようです。シンガポールは1962年の合意が切れる2061年までに、自国領内で100%の水供給を賄う覚悟を固めている模様です。

このように、シンガポールは水においてマレーシアからの独立を果たす必要があり、下水再利用や海水淡水化などに積極的に取り組まざるを得ません。また、国家戦略としても、水関連のノウハウをなるべく民間企業に蓄積させて、それをもって国外で稼ぐという発想が自然と出てくるのだと思われます。

こうした考え方が集約的に見られるのが、シンガポールの水関連のPPP(Public Private Partnership、官民連携)事例です。次回で、具体的な事例をご説明します。

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