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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

スマートグリッドの現状についてのメモ(1)

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7月下旬から「非専門家によるスマートグリッド勉強会」を始めておりまして、昨日第二回目の勉強セッションを行いました。
参加者は、情報通信総合研究所の新井さん、スマートグリッドブログ「makeEMS」を書いている伊藤さん、ブログ「『ビジネス2.0』の視点」の林さん、WiredVisionのスマートグリッドセクションを担当しているAMNの坂和さん、サイバーディフェンス研究所の名和さん、そして今泉の6名。なお、名和さんは先日NEDOがニューメキシコ州を訪問して行ったワークショップに同行されています。都合で来られなくなった方は次回にぜひお願いしますです。

勉強会の進め方ですが、各自スマートグリッド関連の動向などを仕込んで持ち寄り、持ち回りで説明するという方式でやっています(輪読会式)。非常に広大な分野であり、1人では全貌を把握することが難しいので、このような勉強の成果を持ち寄る方式がよいと考えています。
ただし、シェアする素材は、各自所属企業等との間で守秘義務などあるわけなので、公開情報ベースということにしています。

なお、今泉は2000年から2002年にかけて、旧デロイトトーマツコンサルティング様から仕事をいただき、ある電力会社様のCRM導入に関する英国、フランス、イタリア、米国のベストプラクティスの収集を目的とした現地のヒアリング、ある電力会社様の設備保全関連システムの導入に先立つベンダー選定の現地調査、ある海外企業様の新規事業に先立つ発電コストの中長期見通しの作成に関わったことがあります。また、鴨志田晃氏の「エネルギービジネス革命」の執筆のお手伝いをして、内外の電力自由化動向を調べていたこともありました。そんなこんなで多少の地盤はあります。

7月と昨日の勉強会の内容を簡単に記します。

■7月22日開催第1回勉強セッション

○伊藤さん
・米EPRI(日本の電力中央研究所に相当)が作成した"Report to NIST on the Smart Grid Interoperability Standards Roadmap"に含まれる"Smart Grid Conceptual Model"の内容について
*補足:NIST - National Institute of Standards and TechnologyはJISなどを扱う日本規格協会に相当。"Report to NIST on the Smart Grid Interoperability Standards Roadmap"は、工業系技術系の国家標準を取り仕切るNISTに対して、EPRIが電力業界のコンセンサスという位置づけで、米国電力業界全般に適用可能なスマートグリッド関連の互換性確保に関する標準案を提示したものと思われる。"Smart Grid Conceptual Model"は標準案の骨格を成し、インターネットで言えば、OSIの7 layer modelに相当するもの。

*資料
http://d.hatena.ne.jp/makeEMS/20090620/p1
http://d.hatena.ne.jp/makeEMS/20090626/p1
http://www.nist.gov/smartgrid/InterimSmartGridRoadmapNISTRestructure.pdf

○今泉
・経産省、エネ庁、官邸がこれまで進めてきた低炭素化社会関連、再生エネルギー発電関連の動きから、その延長に日本のスマートグリッドがあるということについて。
*補足:「福田ビジョン」に基づき2020年に2005年時点の太陽光発電の10倍の発電量、2030年に40倍の発電量が確保される過程で、家庭側の分散発電量が膨大になることから、既存送配電網との整合性確保、すなわちインテリジェントなグリッドが必要になる。米国のスマートグリッドがどちらかと言えば旧来の送配電網の更新およびピークカットにアクセントがあるのに対して、日本のスマートグリッドは家庭側で進む分散発電の統合にアクセントがある。(インセンティブを誰にどう与えるか、政策がカギ)

*資料:
http://bit.ly/2YMwcX
経産省、エネ庁、官邸などの各研究会、審議会の公開資料
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/k_9.html
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/index.html

○新井さん
・米国ボールダーで行われているSmartGridCity実証実験の概要について。
*補足:同地域の電力会社Xcel Energy社が運営主体。Accentureがプロマネとなり、Ventyx、OSIsoft、SEL、Current、GridPoint、SmartSynchというスマートグリッド関連ベンチャー企業複数が集まって、地域限定のスマートグリッド、家庭におけるSmartHouseを実験。特にスマートホームの統合エネルギー管理ソフトウェア(一種の家庭のOSになる)を受け持つGridPointが興味深いとの指摘があった。


■8月26日開催第2回勉強セッション

○今泉
NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業総合開発機構)が進めているスマートグリッド関連の取組みについて
*補足:経産省系のNEDOは日本のスマートグリッド発展に直接間接的に関わる政策に関わる技術開発全般を請け負う位置づけ。民間企業を別にすれば、日本のスマートグリッド関連動向の中核。ニューメキシコ州が進めているスマートグリッドプロジェクトについても主導的な立場で関わっている。

○名和さん
NEDOとニューメキシコ州が共同開催したワークショップ(今年4月中旬)への参加・同行によって得られた知見
*名和さんは、スマートグリッドのサイバー系ネットワーク系のセキュリティ確保の専門家という立場で同ワークショップに参加されました。非常に貴重な情報や現地の写真等を紹介していただきました。

○伊藤さん
坂和さんの紹介で広く日本に知られることとなった報告書"The Smart Grid in 2010"の読み込みに基づくAdvanced Meter InfrastructureとDemand Responseの動向
*補足:"The Smart Grid in 2010"本体は相当に分厚い報告書であり、部分部分も相当な情報量があります。
http://wiredvision.jp/blog/kanellos/200907/200907210211.html

○新井さん
経産省による平成22年度予算の概算要求の資料からスマートグリッドに関連のある予算措置について
*補足:スマートグリッド関連の施策では初期概算要求が修正され、増額になっている部分が多々あり、経産省の意気込みが伺われます。

○林さん
クラウドコンピューティング関連動向のうち、大規模データセンターの電力確保に関わる動きについて
*補足:日本でも大規模データセンター=クラウドコンピューティング基盤の具体化の動きが複数あるなかで、DCのコスト競争力に大きく関わる電力消費について、例えば北海道の寒冷な地に設置することで消費量全体を抑制するという方向性が具体性を帯びてきているとのこと。

○今泉
米国電力会社のスマートグリッド実験動向について
*補足:米国大手電力会社はオバマ政権のスマートグリッド関連予算措置に呼応する形で、補助金を得てスマートメーターを設置する、あるいはマイクログリッドを構築するということを始めており、関連資料等が多数インターネットで得られる。その動向のさわり。

以上のような内容で情報等を各自シェアしました。第2回セッションの資料のうち公開可能なものについては近日中に勉強会連絡サイトにアップします。

こうした活動を通じて、米国のスマートグリッドの全体像、日本のスマートグリッドの全体像はおおよそ理解できたと思います。また、日本のスマートグリッドが進展する過程で課題がどのへんになりそうかということについてもあらかた理解できました。あと2回にわけて、それについて記したいと思います。

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