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ハラスメントについて皆で考える意味、あるいは文化の違いを乗り越える方法

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プロジェクトを始める際に、ハラスメント防止を目的としたトレーニング(リスペクトトレーニング)を、お客さんとケンブリッジのメンバーが一緒に受けることにしている。
少し前から初めて、良い施策だと感じているので紹介したい。


★プロジェクトとハラスメント
かつて、お客さんの高圧的な振る舞いに苦しんでいると社員から相談されたことがあった。
そのままではプロジェクトを継続できないので、解決に向けて何人かに話を伺ったのだが、その結果分かったのは、「お客さんの社内では当たり前のコミュニケーションだと受け取られている」ということだった。
一方でケンブリッジ社員は「避けるべき高圧的なコミュニケーション」と見なしていた。つまり誰かが絶対的に悪いとかじゃなくて、「会社間のカルチャーの違い」が悩ましい状況を生んでいたのだ。

プロジェクトはそもそも、立場やバックグラウンドが違う人々が集まって行う活動だ。だから、「ハラスメントかそうじゃないか、判断が難しい状況」が文化の違いによって発生しやすい。
しかも定常業務に比べて、ストレスにさらされる状況に直面しやすい仕事でもある。(納期のプレッシャーが厳しく、ぬるい仕事をしていると後で問題が爆発する構造なので、なあなあで済ませられない事が多い)
なので本質的に、ハラスメントに類する言動が横行しがちな職場といえる。

あと、しょうもない話としては、同じ課でずっと仕事をする人よりも、プロジェクトで一時的に一緒になった人の方がセクハラしやすい、みたいな構図って多分ありますよね(どちらにせよクソなのだが)。

僕らケンブリッジが常にハラスメントを受ける側とも限らない。
僕らが普通にやっていることが、隣の席にいるお客さんメンバーからは「行き過ぎた指導を横で聞いているのが辛い」と受け取られることもある。
協力会社の人が僕らのチームに参加してくれるケースは、僕らの側が発注者になるので、僕らの振る舞いがパワハラ的に受け取られることもある。
そもそもこれを書いている僕自身、立場的にも性格的にもハラスメントをされる側というよりはする側の人間である。


★リスペクトトレーニングの経緯
このような状況を「仕方ないね」と諦めるのは僕ららしくない。
あるプロジェクトのメンバーたちが、プロジェクトが終了した後に「お客様にとっても自分たちにとっても不幸な、あのようなプロジェクトをなくすために」というテーマで議論してくれた。
そして、翌週のマネジメントミーティングで提案してくれた対策案が、「プロジェクトを開始する前に、お客さんのコアメンバーとケンブリッジメンバー全員が、そろってトレーニングを受講する」というものだった。

彼らが探してくれたトレーニングは、ピースマインドという会社が提供しているものだった。なんでもNetflix社が映像コンテンツを作る現場でのハラスメントをなくすために開発したトレーニングとのこと。
たまにニュースになるが、映像業界でのパワハラ/セクハラは凄まじい。日本でもコンテンツ作成を始めようとしていたNetflixとしては見逃せず、トレーニングを開発した、ということらしい。

お客さんに受けてもらう前には、もちろん僕ら社員で受講してみた。知識を教えるというよりは「正解のない難しい問題を皆で考える」という形で進むのが、僕らにフィットしている気がした。
なので、プロジェクトの最初にプロジェクト全員で研修を受ける方針にGoサインを出した。


★お客さんと一緒にうける意味
実際にお客さんと一緒に研修を何回か受けてみて、感じていることも書いておこう。
今どきはたいていの企業で、ハラスメント防止の研修を実施している。なのでトレーニングと言っても「知らなかったことを学べました!」という感想はほとんどない。
それよりも、
・同じテーマについて考え
・それについて意見や経験を共有し
・最低限のコミュニケーション土台が出来る
ということに意味があると思う。
これだけでもハラスメント防止の効果があるのではないかな。

もしプロジェクトが本格的に始まってからハラスメント的なことが発生してしまったとしても、一緒にトレーニングを受けていれば「あの時に考えたように、ちょっと良くないかもね」と注意しあえる。たとえそれがお客さんや目上の人であっても。
そこまで行かなくても「トレーニングで議論したように、ハラスメントに該当するか/しないかの2択ではなく、より良いプロジェクトにするために、どうしましょうかね」と建設的な議論もしやすくなる。
これはハラスメントという微妙な(行う人と受ける人の捉え方がすれ違う)問題にとって、有効な対処法だと思う。

※ちょっと脱線するが、ハラスメントに限らず「普段一緒に働く人と一緒に研修を受ける」ということは、1人だけ受けるとか、個別に受けるのとは全く違う効果があると思う。一緒に受けると、コミュニケーションの土台作りの効果があるからだ。チームで仕事をし、チームとしての力が勝負を分ける局面ではこれがとてもつもなくデカい。
企業主催研修は多くの場合、個人で受けたり、「入社◯年目」とか「管理職手前」みたいな切り口で受講する設計になっているが、「職場単位での受講」をもっと重視したほうが良いのではないだろうか?
ケンブリッジがやっている養成学校が数人で受講してもらう形をとっているのもこれが理由だし、輪読会で僕が書いた教科書を同僚と一緒に読むのを推奨しているのも同じ理由。


そして、ハラスメントという正解がないテーマにとっては、講師が一方的に情報を伝えるのではなく、皆で考える形式なのがフィットしていると思う。
ある回では、以前はパワー行使型の管理職だったのだが成果が出ず、徐々にサーバント型に変わっていった「マイ・ストーリー」みたいなことを、プロジェクトオーナーの方が淡々とお話くださった。
教科書的な「べき論」よりも、皆の行動を変える力を持っていたように思う。何よりその方のことを皆すこし好きになったんじゃないかな。

xx_20240814_リスペクトトレーニング.jpg
<ChatGPTにこの原稿を読ませて書いてもらったイラスト。こんなに膝詰めじゃないけど、まあ大体こんな感じです>

★お客さんに時間を割いてもらう意味
新しくお付き合いを始めるお客さんには、僕らと一緒にこのトレーニングを受講してもらう。つまりプロジェクトの貴重な時間を割いてもらう。
もちろんせっかく優秀な人材を集めてプロジェクトを立ち上げたのだから、一刻も早く中身の検討に入りたい。なので「それやる必要ある?」みたいな反応も予想される。

でもその場合「これから作っていくチームが最大限のちからを発揮するために、最初に少しの時間を割く」ということを嫌がる人たちと、今後仕事をしていけるのか?という問いが発生する。これはよく考えたほうが良い。
そういうこともあり、僕らは「お仕事が始まる際に、一緒にトレーニングを受けていただきます」とお願いしている。

お客さんにとっても、これに時間を割くメリットは大きい。
そもそも僕らは本気で
ハラスメントが横行する状況は、プロジェクトが成功しやすいカルチャーではない
と思っている。

よく講演などで話しているのだが、若者/よそ者が自由闊達に意見を言い合う環境じゃないと、本当に良いプロジェクトってできないんだよね。最近流行りの言葉でいうと、心理的安全性が低いと、新しいことはできない。
ハラスメントはそれの真逆。若くて優秀な人ほど、そういう環境には寄り付かない。ウチの会社としても、社員をそんな環境に送り込みたくない。
ハラスメントが起きにくい環境を作るのは、プロジェクトの成功を願うお客さんにとっても、見返りの大きな時間投資だと思う。

僕らケンブリッジとしては「良いチームにするために、お客さんにも時間を割いていただきますよ」と宣言することで、それに共感するお客さんが集まってくれたら良いな、と思っている。

※ピースマインドさんのwebサイトに、このトレーニングについてウチの社員のインタビュー記事が載っています。大塚さん、こう見るとめちゃくちゃ爽やかですね。

https://www.peacemind.co.jp/library/leaders_interview/05

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