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絶対受注しちゃダメな案件、あるいは地雷の数え役満

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ずいぶん昔のことだが、Facebookでこんな投稿を見かけた。ドライブの効いたいい文章だったので、思わず保存してあった。
最近許可をもらったので、ほぼそのまま転載させてもらう。

昨日はバタバタと1日が過ぎた。
変なお客さんに絡まれて、全く仕様のわからないシステムの構築を4ヶ月でやるように言われ見積もりをすぐに出せと言われる。
急に呼び出された打ち合わせには前の上司だった人と伺った。それが月曜日。そして、オマエにこの仕事断る選択肢は無いからなと一緒に行った隣の部長に凄み、私には、オンナにこのプロジェクトは無理だからもっと仕事できる男性連れてこいとのこと。

阿呆らしーと思いつつポイントまとめた前任者が作ったとてもよい資料があったので工数は積み上げして見積もったら割と妥当な感じの見積もりが出来上がってしまった。いかん、このままだとこの仕事私が見ることになる。
うわーどうしようと思ったのが0時を過ぎた頃。パワポに前提条件書いたらかぐや姫の要求事項みたいな条件になった。うーん。つまりそういうこと。システム自体は構築可能だけど期間やリソースで問題あるやつ。気が重いと思いつつ2時過ぎにタクシーで帰宅。

今日、実現可能な見積もりとスケジュール描いて伺ったのですが午後ずっと監禁されて、値段を下げて納期を向こうの希望納期に合うように書きかえろと脅したり褒めたりなだめたりされていた。
見積もり出しなおしますと言って帰ってきたけど、出しなおしてもほぼ一緒なんだけど。バーカバーカ。

うん、味わい深い文章です。
「お前のところに仕事を出してやる」というトーンで無茶な提案を迫る、という構図ですね。
これに対して、当時僕がコメントしたのが以下。

絶対受注しちゃダメな案件感がすごい。

値段や納期がどうであろうと、僕なら絶対そういう人とお付き合いしませんね。

強いて言うなら、「カウンターがあなただから納期と価格が2倍になります」と静かに告げます。
テレビ売るなら誰に売っても価格と納期は同じです。
しかしシステムや変革プロジェクトは共同作業なので、一緒にやる人によって価格が変わるのは当然ですし、そう告げて怒り出す人がいたら、絶対に仕事を一緒にしてはいけない人のサインです。

この案件を絶対受注してはいけないのはなぜか。
それは、「1つあっただけでも提案すべきではない地雷」が、この短い文のなかにたくさん埋め込まれている、数え役満状態だからだ。

★ベンダーを対等な商取引の相手と思っていない
会議の冒頭で
>オマエにこの仕事断る選択肢は無いからな
とスゴむ。開始1分でレッドカード。 僕ならここで席を立つ(か、面白いから観察を続けるか)。

こういう人はベンダーを、「これからのプロジェクトで共に協力する相手」とは思っていないから、発注者の役割を果たさない。
カネを出したら、作るのはお前の仕事だろ、という意思表示だ。


★納期やコストの考え方がヤバイ
>納期を向こうの希望納期に合うように書きかえろ
というのも、よく聞く話だ。
対等な交渉の過程で、「3000万以内でやりたい」「来年の5月に使いたい」などと要望を言うのは別にいいんですよ。
でもこの投稿に登場するおっさんがやっているのは、自分の願望の押し付けだ。こういう人はヤバイ。

納期やコスト見積の見積もりはプロに頼るべき領域だ。
古典「人月の神話」に「妊婦を10人用意しても、1ヶ月で赤ちゃんは生まれない」と書いてあるように、まともな仕事には時間やコストが必要だし、それは外野がごねても覆らないことが多い。
こういう人はゴリ押しが通じた成功体験みたいなものがあるんだろうが、たぶんそれは「いったん業者にYesと言わせた」というだけの話であって、その後炎上したり、手抜き工事みたいなことが行われていたりする。


★計画変更、仕様変更多発が見える
そもそも「絶対に4ヶ月でやらないとダメなんです」みたいなこと言う発注者は無計画な人だ。そんなに納期が大事なら半年前に言えよ。今になって言い出すのは無能、無計画の証拠でしかない。

そういう人からよくよく話を聞いてみると、「今まで何年も放置してたんだから、あと6ヶ月伸ばしても大して変わらん」みたいな事が多い。「4ヶ月でやらないとダメ」というのはビジネス上の理由ではなく、上司から「さっさとやれ」と言われたからとか、今年度の人事評価の表に書き込むためだったりする。

こういう人と仕事をすると、たいてい計画変更、仕様変更が多発する。無計画で社内調整力がないから。
でもそれに対して金を払わない。業者は思い通りになると思っているから。地雷でしかない。


★ともに働く人へのリスペクトなし
このおっさん、言動全てがパワハラですよね。
こういう人からの仕事を受注すると、社員が日常的なパワハラを受けることになる。このブログで常々書いているように、今は労働者の流動性が高く、優秀な社員に定着してもらうことが経営の最大のテーマなのだから、こんな案件、お金をいくらもらっても割が合わない。

そしてセクハラリスクも高い。
> オンナにこのプロジェクトは無理だから
と面と向かっていうのは、女性を仕事のパートナーではない何かだと思っているということだ。こういう人はセクハラ予備軍でもある。だって共に働く同志と思ってないんだから。


ということで、地雷の数え役満、リスクの満漢全席みたいなお話でした。
いま書いている本で「仕事を断ることの大事さ」についての章があり、随分前のこの投稿を思い出したのでした。
というか、これはむしろ「システムを作らせる技術」に載せるべきエピソードだった。
「システムを作らせる技術」はシステムを発注する側に必要なノウハウと心構えを説明した教科書なので、「作ってくれる人に、どうやって欲しい物を伝えるか」「作ってくれる人をリスペクトして、能力を引き出すには」というのは非常に重要なテーマだ。
そしてこの投稿のおっさんは反面教師として完璧すぎる。
ああ、書いている途中に思い出してたら載せたのに!


ちなみに、この話の後日談。

私は断りましたが、別のベンダーが可哀想なことになってました。
先日リリースされたそのサービスを利用して、ああ無事に世に放たれたのだなと思いました。

やはり受注したベンダーにとっては災難だったのですね。プロジェクトが破綻せずに、リリースまでこぎつけたこと自体には、驚きを感じます。こんなおっさんでも最後まで完走できるんだ。こういう人をすべてのベンダーが無視する世の中になればいいのに。



※「テレビ売るなら誰に売っても価格と納期は同じだけど、システムはそうじゃない」というのは、その後別なブログに書きました。

なぜITシステムは「安物買いの銭失い」になりやすいのか?あるいは買い物における2つのルール

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