オルタナティブ・ブログ > プロジェクトマジック >

あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

マーケティングコンテンツの作り方、あるいはエバーグリーンコンテンツとは

»

僕の自転車の師匠(兼ウチの会社のマーケティングマネージャー)である谷風が、デジタルマーケティングの本を出していた。

この本の後半は「マーケティングコンテンツをいかにして作るか」というテーマだったので、僕も思うところを書いてみようと思う。


★デジタルマーケはコンテンツがなければ始まらない
マーケの世界も、例にもれずデジタル化が進んでいる。
B2Bの商売でマーケといえば、以前は幕張あたりの見本市に出展したり、有名人を呼んで講演会を開いたりして、とにかく名刺をゲットするのが最大の目標みたいになっていた。
いまも連絡先(メールアドレスなど)をゲットすることの重要性は変わらないみたいだけれども、デジタルマーケツールを使って長年にわたってリレーションを作ったり、じっくりと自社のファンになってもらうことが重視されるようになった。
(余談だがウチの会社はマーケツールとしてMarketoを使っているが、かなりガチで使いこなしているユーザーだと思う)

このブログ記事でデジタルマーケの詳しいやり方を説明するつもりはない。デジタルマーケをやるにあたって、マーケコンテンツがないと始まらないよ、ということだけを強調しておこう。
コンテンツを読んだり視聴したりしてくれるところから、潜在的なユーザーとの関係は始まるし、それを管理するのがマーケツールなので。

そもそもデジタル化以前に、インターネットで製品やサービスの情報が簡単にとれるようになってからは、企業が自社の売り物についての適切なコンテンツを提供することが必須になっているのはわかりますよね?


★気づいたらマーケティングコンテンツを作っていた
僕自身はマーケティングの担当者になったことは1度もない。いまもマーケコンテンツを作っているつもりもない。だがお客さんとやったプロジェクトの事例やそこで得たノウハウをブログに書き散らかしたり本にまとめている。
これは半分は趣味、半分は社会貢献のつもりだが、結果としてマーケコンテンツとして機能している。僕の書いたものを読んでウチの会社をはじめて知ったり、相談しに来てくれる方は多いので。
あとセミナーで喋ることも多い。これはいずれ本のネタになることが多く、趣味でもあるのだが、流石にマーケティングの一貫として(仕事として)やっている。

ということで、セミナーのスライドであれ、本であれ、マーケコンテンツを僕が作る時に心がけていることを書いていこう。前回のブログとも関係が深いし。(前回を読んでない方はまずはこちらから)

アジャイル的コンテンツ作成術、あるいはワインバーグの自然石構築法


★コンテンツづくりのコツ①:読み手にとって役に立つことだけを考える
僕の場合はそもそもマーケ用として書いていないので当然なのだが、マーケコンテンツだからといって、宣伝はしなくていい。役に立つ情報を提供し続けて認知してもらえたら、宣伝しなくても勝手に調べてくれるから。

ちょっと考えて欲しいのだが、本当に誰かの役にたつコンテンツを作ろうとすると、自然に、自分たちが得意なことについてのコンテンツになる。例えば僕の場合は「プロジェクトの成功のさせかた」とか「システムを作らせる技術」とか「ファシリテーションのコツ」みたいなことになる。
自分が得意なことについて、読者の役に立つようなノウハウを書きまくるのだから、勝手に読み手はこちらのことをすごいと思ってくれる(はず)。

もし思ってもらえなかったら、残念でした。その場合はマーケティング以前に、自分たちの能力を磨く必要があるんじゃないかな。または単純に表現が下手で伝わらないか(前回のブログの話)。


★コンテンツづくりのコツ②:出し惜しみしない
読み手にとって役に立つこと、というのは職業上のノウハウである。
それで飯を食っているのだから、秘密にしたい人もいるだろう。
例えば僕の2冊目の「業務改革の教科書」と5冊目の「システムを作らせる技術」は同業者であるコンサルタントにかなり読まれている。競合相手を強化していることになる。まあ、それでも業界全体のレベルが上がればよきことだ。
もちろん潜在顧客が僕の本を読んで「これならコンサルタントいらずだな」と思ってくれるケースも多い。これは仕事のパイを減らす行為だ。

そうだとしても、出し惜しみをせずに職業上のノウハウをばらまくことで、そうしたマイナスを補うにあまりあるメリットがある。良いコンテンツは、ファンを作り、十分なリードをもたらすからだ。
心配すべきは良いコンテンツ過ぎて競合や顧客を強化して仕事を減らすことではなく、poorなコンテンツなので誰からも無視されることだ。


★コンテンツづくりのコツ③:生々しく、面白く
ノウハウをばらまくのはいいとして、それが面白い読み物、面白いセミナーでなければならない。
こちらが面白いコンテンツさえ用意すれば、(読み手がその領域に関心さえあれば)、引き込まれて熟読してくれる。それさえできれば、後のことはたいていなんとでもなる。

逆にお客さんにとって役に立つコンテンツだからといって、眉間にシワを寄せて賢明に勉強してくれると思ったら大間違いだ。
僕が前回の記事で「アジャイル的文章術を使って面白い文を書こう」と長々説明したのも、面白い文章でなければ読まれないからだ。マーケコンテンツは大学受験のために読むのではない。そして大人は受験生ほど熱心ではない。だから面白くなければ、そもそも読まれないし、世の中に何の波紋も呼ばない。

面白くするために大事な要素として、生々しさがある。人は「○○は××すべきである」みたいな説明を延々読むことはできない。失敗をしたり、それを乗り越えたストーリーでなければ、面白く感じない。
だから実際のプロジェクトで起きたこととか、苦労話、失敗話をマーケティングコンテンツとして、もっと発表すべきだと思う。
失敗を書いても、別にお客さんは逃げない。というか、そんな話でドン引きする顧客候補は、どうせ苦難を共にする同志にはならない。


★コンテンツづくりのコツ④:エバーグリーンを目指す
これは前述の谷風の本に載っていてなるほどな、と思ったこと。
マーケコンテンツには「流行を追いかけるもの」と「何年経っても読まれるもの」がある。前者は「DXには○○が効く!」みたいなやつ。後者は「業務改革プロジェクトの始め方」みたいなやつ。
たとえば「業務改革プロジェクトの始め方」というテーマで僕らがセミナーをやり始めたのは、(たしか)2010年ごろ。そのコンテンツはやがて「業務改革の教科書」という本になり、今でも重版を重ねているし、セミナーは定番として今でもやっている(タイトルはその時々で変えるが基本は一緒だ)。
こういう「ずっと有効であり続けるコンテンツ」をエバーグリーン(常緑樹のこと)と呼ぶらしい。

僕自身はエバーグリーンなマーケコンテンツを意識したことはないのだが、
・流行り廃りを追いかけるのが嫌い
・本質的なことにしか興味がない(ので書けない)
という性格的な理由で、自然にエバーグリーンしか作っていない。このブログは11年続けているが、過去の記事を見ても「もう賞味期限切れだな」みたいなエントリーはほとんど無いと思う。


そして長い目でファンになってもらう上で、エバーグリーンが有効なのは実感している。ウチの会社に声をかけてくれる方は「最初に知ったのは5年くらい前にセミナーに参加した時です」みたいな方が多いので。

ちなみに、流行り廃りを追いかけるのに比べて、当然成果が見えるようになるまでには時間がかかる。例えば11年前にブログ記事として読まれていたのは、携帯がどうのとか、Jsoxがどうのとか。それに比べて僕が書いていた「会議の隠れファシリテーターのコツ」とかは地味で、反応も薄かった。それには耐えるというか、鈍感であらねばならない。


★コンテンツづくりのコツ⑤:効率を考えない
これはマーケ用にかぎらずコンテンツづくり全般に言えることだ。
普段の仕事では枝葉末節なことで時間を使いすぎるべきではない。私たちはこれを「80/20の法則」という言葉で諌めている。「完成度80%を目指すなら工数20単位で済むけれど、完成度100%を目指そうとすると、最後の20%に工数80単位が必要となる。それって本当に必要か、ちゃんと考えよう」といった意味だ。
また、プロジェクトの工程で手戻りを防ぐための方法論にもこだわりがある。

だがコンテンツづくりには80/20や手戻り防止はフィットしない。
例えば僕の場合、本を書く時は何度でも書き直す。1回書いたものをバッサリ捨てることも多い。むしろ手戻りを前提にする。そうして作業効率を無視してでも、少しでも高い品質のコンテンツを目指す。

なぜそうするかというと、良いコンテンツとダメなコンテンツのインパクトは100倍とか1000倍違うと思っているからだ。最後の20%の品質アップにどれだけ工数を割いたとしても、その結果誰かに刺さるコンテンツになるのであれば、お釣りが来る。

なので、普段の仕事とは全く違うスタンスで臨む。
自分の文章を直すのが趣味、とか、別の本を読んでいるときにも自分のブログに書き出すことを思いついていそいそと直すとか。そういうワークとライフの境界線が溶ける感じでやらないと、いいものはできない。(少なくとも凡人は)

****
うーん、書いたことを読み直してみると、「よいマーケコンテンツの作り方」にはなっているが、マーケティング担当者を職業としてやっている人には再現できないものになっている気がしてきた。でもまあ、これが僕のやっていること。

Comment(0)