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ビジョンや価値観のすり合わせができているか?あるいは費用対効果が赤字のケースについて

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「テクノ大喜利」という、編集さんにお題を出してもらって色んな人が投稿していく連載に参加している。
3月はコロナ対策で脚光を浴びるリモートワークに絡めて、「費用対効果分析が黒字にならない投資にGOサインを出さない経営者」というテーマで書いた

費用対効果分析とは、投資したお金が何年で回収できるか?のシミュレーションのことだ。

詳しくはテクノ大喜利を読んでほしいが、まとめるとこんな主張をした。

・DXは事前に確実な費用対効果を見積もれない(費用対効果の予想は赤字)
・リモートワークへの投資も同様
・実は普通の基幹系システム投資や業務改革も費用対効果分析が黒字になりにくくなった
・こういう投資に、決してGoサインを出さない経営者がいる
・すると中間管理職は自分の裁量権の範囲の小粒の改革しかやらなくなる
・だが新型コロナでリモートワーク投資の重要性が急に判明
・一見赤字でも重要な投資はリモートワーク以外にもある
・むしろそういう判断こそ経営者の出番

大事なことなので、このブログで少し違う角度からも書いてみたい。


★素敵オフィスへの投資は元が取れるか?
以前にブログにも書いたが、僕らは2年前にはじめてちゃんとしたオフィスを作った。コンサルティングというビジネスは人材と知財にしか通常は投資しないので、会社創立以来の大きな投資といえる。デザインには魂込めた割に華美な作りではなく、贅沢したつもりはないが、それでも社員1人あたり200万程度はかかっている。

前のオフィスがあまりに質素で不便な所にあったので、ずっとオフィスに投資すべきかについては考えてきた。だが、投資の価値があるのか、読めなかった。
そもそも、オフィス投資の費用対効果をシミュレーションしても、絶対に黒字にならない。
例えば引っ越しの定量効果(金額換算しやすい効果)としては、以下のような物がある
・便利な場所になるので社員が移動する工数が減る
・同様に電車賃・タクシー代が浮く
・セミナーを自社でできるようにするので、会場レンタル費が浮く
など。
でもこんなみみっちい話では、投資はおろかランニングコストの増額(広く、便利な場所にすれば賃料は当然上がる)すらまかなえない。

一方で定性効果(金額換算しにくい効果)は、以下。
・社員満足度が上がる
・社員間のコミュニケーションがよくなる
・採用活動に有効
など。どれも「こうなるといいなー。でもなるかどうかはわからないなー」
「なるとしても金額換算できないなー」というふんわりした話。
とても投資決裁の場で「こういう訳で売上が○○円アップするので、投資を回収できます!」とは
言えないたぐいの話だ。

ウチの会社の場合、すでに利益は十分に出していたので更に儲けたいとは思っていなかったのだが、「200万投資するなら、その分賞与として社員に分配した方がみんなハッピーなのでは?」という問いへ、明確に回答できなかった。

それでもついに投資することにしたのは、「5年後、10年後にこんな会社にしたい」という、薄っすらとしたビジョンみたいなものと、オフィス引っ越しの方向性が一致していると感じたからだ。
あくまで「感じた」だけであって、理屈では全然説明できない。「やったほうがイイんじゃないかな」くらいの感覚。


★価値観が全然擦り合っていないことが露呈
いざ引っ越しプロジェクトが立ち上がったのだが、一番もめたのは、場所を選定したときだ。
・便利でありさえすれば良い。元と同じくらい狭くても交通至便な有楽町がいい
・今どきオフィスでもないだろう。完全バーチャルオフィスでいいのでは?
・他のコンサルティング会社と交流もできる大手町がいい(賃料はかなり高いが)
・駅から近いことが何より重要
・天井が高い、素敵オフィスを作りたい(これは僕)
などなど、オフィスに求めるものが全く擦り合っていないことが判明したのだ。

オフィスプロジェクトのオーナー役をやっていた僕としては、
「えー?そっから擦り合せなくちゃダメ?プロジェクト開始した時にコンセプトに合意したのに?」
と、結構うんざりした。

だけど、直後に「そんなに悲観したもんでもないな」と思い直すに至った。
というのは、たまたまその時期にやっていたプロジェクトで、ある企業の経営幹部全員にインタビューしたからだ。この時にびっくりしたのは、彼らが語るビジョンや方針が、全く擦り合っていなかったことだ。
例えば営業担当常務と営業企画部長執行役員の2人。上下関係で普段から一緒に仕事をしていて仲も良さそうだったが、個別に営業戦略や方針についてヒアリングすると、実はほぼ真逆のことを言っている。これは2人の下で働く方は大変だわ・・。

結構衝撃だったので、「方針を共有すること」について色々と考えた。そして思い当たったのだ。
僕らケンブリッジでは、プロジェクトや人材や組織については、普段からずっと価値観を議論している。
例えば、
「どんな案件に提案すべきか。どういうプロジェクトを作りたいか」
「逆に、やるべきではない仕事は?」
「どんな人材がケンブリッジでは優秀なのか?」
「それを育てるべきに組織として何をすべきか?」
こういった、僕らの本業に関わることについては、みっちり議論している。価値観がぶつかり合うので時にはギスギスしたやり取りにもなるが、それを厭わず5年単位で一つのテーマについて議論して、最終的にかなり擦り合っている。
その結果を1つのドキュメントにまとめた話は先日も書いた)

逆に言えば、「オフィス」みたいに今まで経営としてアテンションを向けていなかったテーマについては、すり合わせを一切していないので、全く合っていない。もともと別の人間なのだから当たり前だ。
オフィスの事例と、他社で擦り合っていない様子を経験して、逆に、当たり前だと思ってきた「自分たち経営幹部が会社の方針や価値観についてとことんすり合わせていること」が、世の中的には稀有なことに気付かされた。


★価値観の相違を押し切った上で・・・
というわけで、オフィスについては価値観も方針も全然擦り合っていなかった。だがうちの会社にしては珍しく、やや強引にオフィスを赤坂に作った。前述したように結構な額を投資し、ランニングコスト(家賃)もそれまでの2倍くらいかかる所にした(坪単価はほぼ同額だったのだが、床面積が2倍に。元が狭かったので・・)。

そうして2年たった今から振り返ると、当初考えていた定性効果はすべて、想定以上にあがっている。
・社員満足度が上がる
・社員間のコミュニケーションがよくなる
・採用活動に有効
・通勤時間が減ってワークライフバランスが改善
もはや、差がありすぎて以前どうだったのか思い出すのが難しい。昔に戻るなんてとんでもない。未だに効果の定量化はしていないが、そういう議論をすること自体がバカバカしい。

そして重要な点がもう一つ。
・お客さん候補を招くと、ウチのワークスタイルを実感してもらえる
・緩やかな社外関係者がケンブリッジに集う
みたいなことの価値って、やってみてはじめて実感することだ。事後的にしか分からない。
耳学問で事前に主張しても全く説得力がない。ましてや効果を金額で示すのには全く向かない。

テクノ大喜利の記事の最後で
「費用対効果分析で黒字になる投資判断には経営者はいらない。そうじゃない判断にこそ、経営者の見識が問われる」というあるCIOのお言葉を紹介した。
同じ方が、こうも言っていた。
「ことを成し遂げてはじめて分かることもある。富士山に登らないと見えない光景があるように」


★オフィスで実現したかった漠然としたビジョン
投資判断する際に漠然と描いていたビジョンみたいなものはあった。
それは、

・お客様先での一つのプロジェクトの成功だけにフォーカスする社員
・プロジェクトをファシリテーションすることこそが価値のコア
・自社社員だけで少数精鋭チームを組む
・自社オフィスにはたまにしか戻らない

という世界から、

・多様な仕事をすることでできることを増やしていく社員
・様々な価値を出せる人々の集合体
・社外の人と良いチームを組む
・それらのOPENな活動の拠点が自社オフィス

という世界へのシフトだ。
だが、この話自体が、そもそもわかりにくい。

さらに、確信めいたものはあれども、あくまで漠然とした方向性でしかなかった。
口に出して説明することもまれだった。
そんなふわふわしたもので、オフィスへの巨額投資の正当化を説得できない。
ウチの会社に「費用対効果分析で黒字にならなければ、取締役会に説明ができない」などと言い出すアホがいなくてよかった。でも、それに似たことがあなたの会社で起きていませんか?


★改めて分かったこと
・努力してすり合わせない限り、価値観はずれている
・不断の議論で合わせた価値観だけ、合う
・事前に証明はできないが、定性効果はたしかに存在する(ツチノコじゃないよ)
・起案者が意識していない定性効果もあり、事後的に分かってくる
(コロナショックが起きてはじめてリモートワークの真の価値が実感できたのも同様)
・だから「費用対効果分析で黒字にならなければ、投資すべきではない」は誤り
・とは言えもちろん「費用対効果分析で赤字でも常に投資すべき」は当然誤り

***予告*****************************

コロナ騒ぎでケンブリッジも予定していたセミナーやトレーニングを中止しましたが、オンラインでのイベントに皆さんが慣れてきたようなので、開催を計画しています。近々このページ にアップされると思います。3/19現在はまだ「当面やらないよ」バナーしか出ないけど。

白川も何回かしゃべる予定です。オンラインのいいところは、家からでも地方でも参加できること。「参加したいけど赤坂は遠いなー」という方は是非チェックしてみてください。

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