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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

編集さんを巡るエトセトラ、あるいは中身がわからないなりのアドバイスについて

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クライアントから支離滅裂なリクエストを貰って憤慨するデザイナーさんのツイートをたまに目にする。
僕自身は本業ではお客さんとはそういう関係を作らない(そういう関係になりそうならお仕事しない)。だからこういうツイートは「気の毒だな~」という対岸の火事でしかない。

しかし作家として編集さんから支離滅裂なリクエストを受けることはある。
2冊めの本(業務改革の教科書)の企画段階では、最初某社の編集さんと企画していたのだが、僕らの企画では売れないと思ったのか、「もっと戦略の話を」とか「もっと低レベルな話を」とか色々注文(アドバイス?)をくれた。
だが問題は、それらがほとんど理解不能だったことだ。例えば彼の言う「戦略」が何を意味するのか、何度聞いても理解できない。「低レベルな戦略の話」というのもよくわからないし・・。

これは新鮮な経験だった。僕が戦略の話をしてきた相手は、1)大学教授、2)同僚コンサルタント、3)お客さん、だが、教授やコンサルタントはもちろん適当な言葉遣いは避けるし、お客さんは言葉遣いが正確でなくとも現実世界と思いをベースに発言しているから、丁寧に紐解いていけば意思疎通はできる。
言葉をきちんと使わないビジネスマンの間で「戦略」といえば、「今やっていることより高尚な意図を持った仕事」くらいの意味だ。「戦略人事」とかね。厳密には人事と言った瞬間に、それは戦略を構成する1要素でしかないのだが、彼らにとってそんな定義の話はどうでもよい。

前にも書いたように僕は言葉を厳密に定義してそれ以外の用法を取り締まるよりは、多少は雑であっても、多様な人と通じるコミュニケーションを目指している。そこで、彼らの言う「戦略」が何を指すのかを丁寧に聞いていく。そこには、今より仕事を高度化したいという切実な意思が込められている。

ところが、編集さんという人種は、僕らと変革プロジェクトを共にするお客さんではない。だから中には、全く実態がなく、気分で?「戦略が〜」とか口走る方も出てくる(全員ではない)。
僕が彼の意図を理解できないのは、コミュニケーションの断絶ではない。本人も言いたいことがないのだ(たぶん)。ただ、こういう編集さんが無能かというとそんなこともなく、いつのまにか本はできて、ひょっこり売れたりしている。僕はどんなにヒットメーカーであっても、意思疎通できない人と仕事はできない。結局そこの出版社から出すことはお断りした。

「こういう内容であるべき」というビジョンがはっきりしている編集さんもいる。一見良さそうに見えるがこれも実は厄介である。
ビジョンを持っているが本のテーマについては基本素人なので、そのビジョンが間違っていたり、ズレているからだ。必ずズレている。「こう書いて欲しい」と言われるとよく「違うし。そう書きたいならあなたが書きなよ」と思う。
だがそれを言ってはおしまいだ。基本的に編集さんは良くしようとアドバイスしてくれている。間違っていることを受け入れるわけにはいかないが、ともに一つの作品を作っているのだし、出版のプロでもある編集さんのアドバイスを拒否するべきではない。黙殺がギリギリのラインだ。

例えば1冊目の本(プロジェクトファシリテーション)は100%実話がウリだが、編集さんからは何度も「他のクライアントの話も盛り込め」「話を創作しろ」と言われた。もちろん黙殺した。創作しなくても面白い本さえ書けば彼らは満足するのだ。僕らは素材には自信があった。それを原稿にはできていなかっただけで。
創作しろと言われるのは、「お前らのプロジェクトの話、まだつまんねーよ」と言われてるだけだ。結局、100%実話、という基本コンセプトはブラさずに文章を磨いて書き切った。

僕はお客さんを含め、普段仕事のコミュニケーションでストレスを感じることはほぼないが、良くも悪くも編集さんは例外。編集さんとのやり取りにはこれまで出した4冊とも、大きなストレスを感じた。
良くも悪くも、というのは、ストレスを感じつつも、コミュニケーションしていくことで良い本になるケースが多いから。4冊目の本(リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書)も、編集さんにずいぶん引き上げてもらった。

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と、ここまで駄文としてFacebookにでも投稿しようかな、と思ったけど何となくこちらに載せるにあたってもう少しだけ、教訓めいたことのまとめ。

1)お客さんは思いを持つ人をなるべく選ぼう
思いや現場感さえあれば、一見トンチンカンでも、紐解いていけばやりたいことが見えて来る。あとはこちらのヒアリング能力の問題になる。
逆にトンチンカンなリクエストは現場感がない人からくる。社長からバズワードでプロジェクトをやれと指示されたとか、とにかく何か分かりやすい結果を出したい新任役員さんとか。こういうのは厄介である。

2)一見トンチンカンなリクエストも、活かせる時がある
僕も自分が直接担当していない仕事について、「内容知らんけど、全体として見てこうじゃないの?」「中身は読んでないけど、長すぎるから読む前にNG」とか言う。
言われた方は迷惑なのかもしれないが、それでもアドバイスのつもりで言う。それは、「細かい部分はともかく、経済として成り立っていない」「組織としてやるべきではない」という、原理原則からのアドバイス(ダメ出し)が成り立つと思っているからだ。
優れた編集さんは、たまにこういう立場からアドバイスをくれる。「これを書いてないのはありえない」「はじめの章が長すぎる」など。
良いものを作ろうとした時、客観視や原理原則に照らすことは、やはり大切だと思う。

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