1冊目の本が出てから人生変わった話。あるいは執筆のすすめ
2009年8月20日。
10年前のこの日、「プロジェクトファシリテーション」という本が発売された。
僕にとっても共著者の関さんにとっても、本を書くというのは初めての経験。自分が本を書くなんて考えてもいなかったところから、本当に苦労しながらなんとか本を書き上げた。
それから10年。間違いなく1冊の本を出したことで、僕の人生は変わった。
本を書こうと思っている人、または思ってないけど他の人のためになるネタを抱えている人のために、何がどう変わったのかを書いておこう。
※現在は改訂増補版の「反常識の業務改革ドキュメント」というタイトルになっています。少しおまけが付いている事以外は、同じ中身です。
★文章を量産し始めた
僕の場合、本を出してからブログを書き始めた。
このオルタナティブ・ブログとの出会いも、本の宣伝をしてもらおうとブロガーズミーティングに顔を出したことがきっかけだった。1冊目の本を書かなければ、仕事にまつわるあれこれを他所様に発表しよう、という発想自体がなかった。
こうして文章を大量に書きはじめてからようやく自覚したのだが、僕は文章を書くのが好きだ。
というか、自分が書いた文章が好き。文章ナルシスト。だって自分が書く文章って、自分が気持ちよく読めるようにチューニングされているから。
皆さんの目に触れるのはブログ/書籍/SNSぐらいだろうが、同僚に長めのメールを送ったり、社内コミュニケーションツールに好きな本についての駄文を投稿したり、トレーニング資料を作ったり、日々文章を書いている。多くは仕事に役立たないのだから、もはや趣味と言ってもいいだろう。
松任谷由実は「才能は母乳と同じで、どんどん出さないと体に悪い」という名言を残している。僕の場合はそこまで自分に自身がないが、自分の中にある形のない感覚を言語化して「排出」していかないと気持ち悪い、という感覚はある。
繰り返すけど、生まれつきそうだった訳ではない(学生時代は作文が得意だが嫌いだった)。本を書いてからそうなったのだ。
★本を4冊出した
1冊出せば出版社さんとのお付き合いもはじまるし、「1冊目売れたんで、次はこのテーマで御社から出してくださいよ」と言いやすい。何より「次はこういうテーマで書こうかな?いや、むしろ書くべき」という気分になる。
上記の「気ままな文章排出」に比べると、本は文章を書く以外の雑多なタスクが多い。図表を揃えたり、お客さんに掲載の許可をいただいたり、構成を練り直したり。一言で言えばめちゃくちゃめんどくさい。
でも、本という「ひとまとまりの体系化された知恵」をまとめ上げる喜びは、それはそれで独特なものがある。ブログやメールは内容がどんなに良くても所詮は「排出」なのだが、本は「創り上げる」という感覚がある。
専業ライターではないので2,3年に1冊出すのがやっとだが、それでも10年かけて4冊出すことができた。あと2,3冊は書きたいことがある。
★キャリアの複線化
僕はコンサルティングが本業。いまはケンブリッジという会社の経営もしている。その2つに、3つ目の仕事として執筆が加わった。
いろんなことに興味が発散しがちなので、100%コンサルティングだけだと多分悶々としてくる。自分の興味やモチベーションの赴くまま、一つの仕事に飽きたら次をやる、みたいな働き方が性に合っている。九州出張の新幹線で書いた本もあるし、金土日と仕事から離れて温泉宿で書いた本もある。
★頭の整理
もちろん、この3つ(コンサルティング、経営、執筆)は隣り合う仕事であり、密接に関係している。
例えば「プロジェクトファシリテーション」を書いてすぐに気づいたのは、「本に書いたことは、別のプロジェクトでも、必要なタイミングできちんとやることが出来る」ということだ。
方法論って、頭で理解していたとしても、必要なタイミングできちんと実行するのが意外と難しかったりする。でも本に書くために過去の失敗を反芻したり、分かりやすく説明できるようになったりすることで、実践の場でもコンサルタントとしての腕が1段上がった気がする。
良く「教わるより教える方が勉強になる」と言うじゃないですか。これは本当にそのとおりで、
1)教わる
2)教える
3)教えるための資料を作る
4)不特定多数に教えるための本を書く
の順で、どんどん深い勉強になる。それくらい「書くことで頭を整理する」という活動は強力なのだ。
★酒とゴルフ以外でお仕事をいただく
コンサルティング会社のパートナーって、大企業の偉い人と飲みに行ったりゴルフしたりしながら、何億円もの仕事をとってくるイメージがある。なのでコンサルタントになってからもずっと「僕にはパートナーは無理だなー。ゴルフとかしたくないからなー」と思っていた。
でも、本を書くと読者の方が相談しに来てくれる。もちろんあれこれ議論するだけで終わることもある。それだけでも十分勉強になるし楽しい。そもそもconsultとは「相談する、助言を求める」という意味だし。
そして、中には「ここから先はケンブリッジさんに正式に仕事を依頼したい」と言ってくださるケースもある(実はかなりの高確率だ)。僕はちょうど10年くらい前からパートナー的な役割をしている。ゴルフとは無縁でもお仕事をいただけているのは、本のおかげだと思う。
プロジェクトが始まると「本に書いてあるとおりなんですね」と言われる。僕らがどんなスタイルなのか、どんな価値を提供できるのかを正確に理解してくださっての開始なので、プロジェクトがロケットスタートできる。これはお客さんにとっても僕らにとってもハッピーなことだ。
★多くの人との出会い
僕にとって本を出したことのメリットは、コレが一番でかいかな。
そもそも、あまり人付き合いが得意ではない。異業種パーティとかも好きではない。でも本を書いていると、色んな形の出会いがすごく増える。
上記の「仕事の相談に乗って欲しい」というもの以外に、講演して欲しいとか、ちょっとおもしろい人がいるから紹介したいとか。自ら人脈つくるのが苦手だからこそ、こういうのがありがたい。
これは僕がコンサルタントだから起きている現象ではなくて、共著者の関さんも大学で毎年講義を受け持ったり、他社で変革を起こそうともがいている同志の相談役になったり、若者のキャリア相談をしたり、色々な出会いがあったそうだ(いまでも全国を飛び回っている)。
本を書くと、自分の能力はもちろん、人となり(パッションや価値観みたいなもの)もなんとなく読者に伝わる。それを分かってもらった上で、なお会いたいと言ってくださるので、いきなり意気投合することが多い。
改めて考えてみれば、自分のオピニオンを1万人とかの人にじっくり伝えるってすごいことですよね。
★感謝してもらえてこっ恥ずかしい
こうして読者の方とお会いしていると、「付箋びっしり張られた自分の本」を見せていただくことが度々ある。これまで出した4冊それぞれ、別な方から見せていただいた。もちろん「めちゃくちゃ参考にしてます」「5回読みました」などの言葉もかけていただける。
もっと嬉しいのが「本に書いてあるように業務改革プロジェクトをやりきって、こんな成果だしちゃいました」というプロジェクト紹介をしてくれたときだ。
こういうのを言ってもらうと照れるのでモゴモゴした対応になってしまうが、これは嬉しい。苦労して本を書いたかいがあったというものだ。
ということで、ものすごく大変なので誰にでもおすすめ出来るわけではないが、「これを世の中に伝えたい!」というテーマと情熱を持っている人は、本を書くことにチャレンジしてみてください。
僕のように人生変わるかもしれませんよ。
********関連過去記事
【ゲスト登場】普通の会社員が本を出した話、あるいはなぜ私は白川さんと一緒に本を書いたのか?