オルタナティブ・ブログ > プロジェクトマジック >

あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

主体性のある社員の育て方、あるいはリーダー育成の回り道

»

先日ある方とバックオフィス社員の育成について議論していて、こんなマトリクスを思いついた。

スライド0.JPG

経理や人事や法務のようなバックオフィス業務は、ルーティーンワークが多い。大企業ともなると非常に複雑で習熟に長い時間が必要な、難易度が高い仕事だが、「毎月、毎年ほぼ同じことを繰り返し、少しづつ改善していく」というタイプの仕事ではある。

一方で会社が激動期に入ると、バックオフィスだったとしても企画力や変革プロジェクトをリードする力が求められる。その方が嘆いていたのは、ルーティーン業務とは違う能力が求められているのに、新しいことをいざやろうとすると、リーダーになれる人が少ないことだった。
企業を生まれ変わらせるために、あんな企画もこんなプロジェクトもやりたいのに、リーダー不足でスピーディな企業変革ができない・・・。


僕はバックオフィスを対象とした変革プロジェクトを多くリードしてきた。
その現場にいてしみじみ思うのは、ルーティーンワークをしてきた方々を企画やプロジェクトの世界に連れ出すのが、本当に難しいとうこと。
「本来は大変優秀なんだろうな~」という方、「今の部署では管理職として主体的に仕事を切り盛りされてきたんだろうな~」という方でも、変革自体、もっというとプロジェクトワーク自体に慣れていないと、途端に戦力ではなくなってしまう。
図にするとこんな感じだ。

スライド1.JPG

ルーティーンワークの管理職だからといって、企画やプロジェクトの局面で主体的に仕事を取り組めるとは、思わない方がいい。
企画やプロジェクトというのは、「次に何をやったらよいか分からない、新しい取り組み」である。
何をやればいいのか分からないのだから、主体性の発揮のしようがない。つまり、リーダー(導く人)にはなれない。

特に、入社以来ずっとルーティーンワークを極めてきた方々は、「何をやればいいのか分からない局面で、どのように振る舞えばマシな成果につながるのか?」を体得できていないことが多い。
「仕事には正解があって、それは先輩が知っている。それをきちんと覚え、きちんと遂行するこそが、優秀な人材」と、口で言うことは流石にないし、きちんと言語化されている訳ではないのだが、行動パターンがそれに最適化されていたりする。
そうすると、プロジェクトワークとは徹底的に筋が悪い。


とは言え、主体性を発揮できないだけで、これまで培った知識やベーススキルは高い方々であることがほとんどなので、プロジェクトでも戦力になっていただかなければ困る。
そこで、僕らは「プロジェクトファシリテーション」という手段を駆使する。

プロジェクトファシリテーションとは何か?を話し始めると長くなる。そういうタイトルの本を1冊書く必要があったくらい、長い。
ので、ざっくりいうと「何をやればいいのか分からない状況でフン詰まっているプロジェクトを、後ろから押す活動」という感じか。
前からグイグイ引っ張るのが「プロジェクトリーダーシップ」だとしたら、それとセットになるイメージ。
プロジェクトファシリテーション

もう少し噛み砕いて言えば、
・進むべき方向について参加者全員で合意し、
・状況を徹底して見える化し、
・それによって、自分たちが次に何をやれば良いのかを分かるようにし、
・参加者が自主的に活動できるようにする
ということになる。

スライド4.JPGスライド3.JPG
この写真はセミナーなどで講演するときによく使うのだが、「何に困っているかを、とりあえず表明する」とか「何がどこまで終わっていて、どこがうまく行っていないのかをひと目で分かるようにする」というプロジェクトファシリテーション手法の一例だ。

これを先程のマトリクスで言うと、
・これまで左側の「ルーティーンワークの世界」で生きてきた人をプロジェクトに連れてきて、
・いきなり右上の「プロジェクトで主体性を発揮するリーダー」は難しいので、
・まずは右下の「主体性はないが、プロジェクトファシリテーションの下でなら活躍できる人材」を目指す
・そのために、場を整えたり、情報を整理したり、時には尻を叩いたり

ということになる。

スライド2.JPG

そして。
それを半年、1年と続け、プロジェクトが成功裏に終わる頃。
右下で活躍していた人々の中から、何人かが右上に移動する。

はっきり言って、ずっと右下のままの人もいる。
若くても、あっさりと右上に移動する人もいる。
全員を右上に引き上げるのは、今の僕らでは無理だが、歩留まりを上げることはできる。

プロジェクトの場面場面で必要なスキルをレクチャーするのが効果的だ。
「まさに必要なタイミングで」というのがポイントで、プロジェクトのスキルというのは文脈に応じて使い分けるものだから、「半年前に教室で教わった」では、うまく活用できるようにならない。

だから僕らは、ちゃんとしたトレーニングだけでなく「今、プロジェクトで起きていることの種明かし」をよくやる。

・今、プロジェクトはこういう状態だと考えています
・それを判断するにあたってのバックボーンとなる理論はこれです
・だから、こういうことをやろうと思いました
・メソドロジーのここに書いてあります
・やってみて、うまく行ったことはコレ、いまいちだったのはコレ
・次回、同じような状況になったら、あなたもやってみてください

という具合だ。

スライド5.JPG

僕らケンブリッジはこの20年、プロジェクトワークに不慣れな人々が右下の貢献しかできない状況でも、プロジェクトがなんとか成功するための方法論を磨いてきた。そのノウハウをひっくるめて「プロジェクトファシリテーション」と呼んでいる。

それと並行して、「右下の人々を右上に引き上げるお手伝いの方法」を試行錯誤してきた。
試行錯誤は10年くらいかけて半ば趣味的にやってたのだが、ようやく目処がたった。
「育成型プロジェクト」とか「育つプロジェクト」と呼んで、いまはコンサルティングサービスのメインディッシュになっている。

一回右下を経由しての右上人材(プロジェクトワークをリードできる人材)の育成は、まどろっこしい様に見えるかもしれない。それでも、他に方法は今のところ発見されていないのだから、結局これが最短の方法なのだと信じている。

今のところ。

※多分2月に、この辺のノウハウについて無料セミナーにて、事例含めてお話します。
申し込みが始まり次第、ここに書くようにします(忘れなければ。多分忘れるけど)。


*********関連過去記事*********

教室を出て、プロジェクトで人を育てよう!あるいは「育つプロジェクト」の可能性
理想の上司とは?あるいは松岡修造とクシャナ王女のリーダーシップ像
優れたリーダーが途端に頼りなくなる現象について、あるいはリーダーシップ2類型

Comment(0)