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理想の上司とは?あるいは松岡修造とクシャナ王女のリーダーシップ像

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会議の前のアイスブレーカーで、参加者の理想の上司を聞いてみることにした。せっかくだから事前に、恒例の「理想の上司アンケート」を調べたのだが、今年の1位が松岡修造さんだったのでかなりびっくりした。
いやー、今どきの新卒社員は上司の熱血指導や熱血応援を欲しているんですね。
皮肉なのは、彼らの上司になるような人は、バブル入社組や氷河期組なので、熱血指導は期待できないこと。僕も熱血応援とかやったことないし(僕自身はバブルと氷河期の狭間世代)。

修造さん2.jpg

(「日めくり、まいにち修造!」かなり売れているみたいですね)


そもそも、理想の上司について新入社員に聞くのってどうなんだろう。新入社員は全ての社会人のなかで、理想の上司についての知見を一番持ってない集団だ。上司の指導を受けたこともないし、上司の理不尽さでやけ酒を飲んだこともない。本来、いい上司について語れる訳がない。まあ、そういう人々のアンケートだからこそ、「時代の空気」を表すのかもしれないけどね。


という訳で、「松岡修造が理想の上司とか、新入社員は分かってねーなー」とオジサンは思ってしまう。いや、僕だって「修造さんって結構いい事言うな」とは思うし、周りの人へのリスペクトも欠かさない、結構な人格者だとは思うんですよ。でも、僕は人格者であることを自分の上司には求めない。僕自身も、部下のために自分が人格者でありたい、とは思わない。


中学生の頃から、僕自身の理想の上司は「クシャナさん」である。知らない人が多いと思うから少し解説すると、宮崎駿「風の谷のナウシカ」に出てくる王女かつ軍司令官だ。アニメ映画版のナウシカでの出番はあまりないが、漫画版ナウシカではほとんど主役で、男だらけの軍隊を率いて、混乱した戦線を生き抜く姿が小気味よい。

クシャナさん.jpg

(漫画版ナウシカの3巻。宮崎駿曰く「戦争描くなら、これくらいはやらなきゃ、というくらいの出来」)

異常に優秀な前線指揮官だということが、彼女のかっこよさの源泉だ。
(この点は宮崎駿さん当人が、わざわざ言っている)。

漫画版ナウシカの3巻4巻では、自分が手塩にかけて育てた軍隊が、味方の軍隊に見放されて籠城している所に降り立ち、助け出すシーンが描かれる。
・司令官である彼女が降り立っただけで、沸き返る部下たち
・型破りな戦法(籠城している城壁を自ら爆破するとか)を考案
・メリハリの効いた戦法を、簡潔に分かりやすく説明
・特に、大事にすべきこと、放置すべきものの指示が明確
・窮地なのにユーモアがある
・攻撃の先頭に立つ
・リスクを負って、部下が恩義を感じているナウシカを助ける
という感じ。

「犬死には無用 蛮勇も許さん 速力が武器だ 襲撃の先頭には私が立つ 以上!!」
まさに理想の指揮官だ。



理想の指揮官だから、もちろん部下には慕われている。しかし僕が特に強調したいのは、彼女には部下のモチベーションを上げるための言動とか、部下に慕われるための言動が一切ないということだ。
松岡修造さんのように「本気になれば全てが変わる!!」とか「諦めんなよ!」とか言わない。どこかの部長さんの様に「○○く~ん。頑張ってる~?」と肩とか揉まない。
でも彼女が来ただけで、部下のモチベーションはメチャクチャ上がっている。

それは彼女が、どうしたら生き残れるのか誰も分からない状況で、行き先を指し示す人だからだ。
彼女の部下たちは元々やる気がなかった訳ではない。単に絶望的な状況で、何をやればいいのか、途方にくれていたのだ。そこに表れて、速やかに作戦を示した。「確かにこの作戦で、生き残れるかもしれない」そう思えば、モチベーションは勝手に上がるものだ。



この、松岡修造さんとクシャナさんのリーダーとしてのスタイルの違いを説明する図を前にこのブログで書いたことがある。
「優れたリーダーが途端に頼りなくなる現象について、あるいはリーダーシップ2類型」

20150619_クシャナさんと修造さん1.jpg

この図に当てはめると、松岡修造さんが典型的な「何をやればいいのか分かっている状況でモチベーションを上げてくれるリーダー」であるのに対して、クシャナさんは「何をやればいいのか良く分からない状況で、行き先を指し示すリーダー」である。
どちらが優れているとかではなく、リーダーシップのスタイルが真逆なのだ。

例えば車を100台売るとか、ダイエットとか、受験勉強とか、目標達成のために何をやればいいのか分かりやすい状況では、松岡修造さんタイプのリーダーシップが有効だ。応援してくれたり、常に自分のことを見てくれていると思えたり、単純にリーダーが好きだったりすると、やる気が出る。

逆に、初めて取り組むプロジェクトとか、戦場とか、規制緩和で競争のルールがかなり変わってしまった金融業界で有効なのは、クシャナさんの方だ。こういう状況で松岡修造さんに励まされたって、そもそも何を努力すればいいのか分からない。「諦めんなよ!」と発破をかけられて諦めなかったとしても、簡単に失敗したり死んだりする。

20150619_クシャナさんと修造さん2.jpg

新入社員って、「ついさっきまで学生だった人」のことである。学生さん達は、受験勉強とか単位を取るとかマックのバイトとか、そういう「どっちに向けて努力すればいいのか分かりやすい環境」しか経験がないんだろう。
「何を努力すればいいのか分からずに途方にくれる状況」というのをうまく想像できないから、「そういう状況で先を指し示してくれるリーダー」がいかにかっこいいかも、ピンと来ないのかもしれない。
または、戦場のような職場において、自分だけが行く先を見通せるから、上司は邪魔しないでくれればいいと思っているとか?まさかね。

まあ、社会人に理想の上司を聞いても、50%くらいの人はプロ野球の選手や監督を選ぶから、新入社員だけのことじゃないのかもしれないけれど。
とにかく、未読の人は漫画版ナウシカを読んでください。

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