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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

本を書くのは苦労に見合うのか?あるいは、大変さと得られるものと。

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こないだFacebookを見ていたら、大学の後輩が「出版社から本を書かないかと誘われているんだけど、苦労に見合うのかな?」と質問を投げていた。
彼女は起業して小さいながらも社長をしているのだが、自分で売り込むのではなく出版社から呼びかけが来るなんて、大したもんですね。


僕も3冊書いたので、思う所をガーッとコメントした。
こういう話、意外とニーズがあるかもしれないのでブログにもまとめておく。
本を書くのは苦労に見合うのか?


★どれくらい大変か?
僕の場合は職業的作家というほど手慣れてなく、1冊1冊手探りで書いている。例えば文体もテーマも、書き方も全く違う。

【テーマ】
1冊目:ファシリテーション
2冊目:業務改革
3冊目:経営とIT

【構成】
1冊目:小説風実話
2冊目:教科書
3冊目:ビジネス書風

【文体】
1冊目:だである+ですます
2冊目:だである
3冊目:ですます

【共著者】
1冊目:お客さんと書いた
2冊目:同僚と書いた
3冊目:1人で書いた


しかも、内容も「参考文献をまとめる」という訳ではなく、自分の経験からノウハウを言語化し、お客さんとの実体験を足し、整理しまくってから文章にする。なので、結構時間をかけている方だと思う。

【かかった期間】
1冊目:1年
2冊目:2年
3冊目:10ヶ月

【かかった工数】
1冊目:約3人月?
2冊目:約4人月?
3冊目:約2人月?


時間が短くなってきているのは、文章を書く上での試行錯誤が減ってきたから。入れ込むノウハウや事例の密度はあまり変わっていないと思う。

俗に、「2時間の講演をライターさんに聞かせれば、本1冊にしてもらえる」と言われる。
やったことがないので本当かは分からないが、本当だとしたら、かかる工数は原稿チェックなどを入れても、0.5人月以下で済むのではないだろうか?

つまり、この辺はやり方によって、かなり変わるということですね。


僕は最初の1冊でめちゃくちゃ文章に苦労したおかげで、なんとなく売り物になる文章が自分で書けるようになってしまった。
だからライターさんには一切頼んでいない。他人の書いた文章だと、多分もどかしくて、直したくなっちゃうから。

本当はお願いした方が、ずっと効率はいい。ベンチャーの社長さんはたいてい「自分の時間≒会社の成長力」みたいな構図だから、時間が一番貴重。プロにお願いするのがセオリーでしょう。
まあ、僕の場合は半分趣味だから自分で書いている面がある。

さて、それだけの努力と時間を投入して、見返りは何があったのだろうか?



★直接的効果
僕の場合は仕事自体の本を書いてるので、本を読んだ人から、仕事の相談を持ちかけてもらうことが多い。もちろん最初はタダで相談に乗るし、僕も事例を聞くのは勉強になるから、それでいい。
コンサルタントというのは「相談を受ける人」だから、これはとてもありがたいこと。その中の何割かが、いつかウチのお客さんになってくれる。

ちゃんと数えていませんが、ウチの会社の新規引き合いの40%くらい?は本の読者じゃないだろうか?


★期待値がすり合う
コンサルティングサービスというのは、手に持って確かめることも、スペック表で事前に数字を確かめることもできない買い物。しかも結構高いから、買ってから「失敗した!」というのは避けたい。

だからお仕事を始める際に、「こんな感じにやります」をかなり議論するのだが、サービスは体験してみないとピンと来ないことも多い。ところが事前に本を読んでいてくれていると、話が速い。

本を読んで声をかけてくれているということは、僕らのことを理解して「こういうプロジェクトをウチでも一緒にやりたいんだ!」と思ってくれているお客さんだということ。
やっぱり、僕ら社員としても、欲しいと言ってくれる人と一緒のプロジェクトのほうが、働きがいがある。

「ホントに、本に書いてあるとおりにやるんですね!」と言われることも多い。そりゃそうですよ、やっていることしか書いてないんだから。


★人と知り合える
本を出すと、講演の依頼とか、勉強会に誘われるとか、単に飲むとか、そういうのが増える。つまり人脈ですね。
僕は人脈づくりが元々好きでも得意でもなかったので、本が自然に人と知り合える流れを作ってくれたのは助かった。

仕事の依頼が増えるというよりも、逆に自分自身が勉強になったり、プロジェクトで特定分野のプロフェッショナルが必要になった時にツテがあって助かったり。
即効性というよりは、4,5年のスパンで地味に効いてくる。


★能力アップ
僕は自分の脳内にあるものだけから本を書くことにしている。そして、自分でも1回じっくり考えてみたいことを本のテーマに選んでいる。

そういうスタイルでやっていると、1冊書くと、そのテーマのプロ中のプロになれる。
お客さんからのお悩み相談で、ほぼ必ず適切なアドバイスができるようになるとか。プロジェクトの方針を考える際に、常にクリアな頭で考えられるとか。
つまり、本を書くというのは、自分の頭をめちゃくちゃ整理すること。
自分の頭が整理できてないと、他人に伝わる文章は書けないから。

仕事と近いテーマの本を書くことの最大のメリットはこれなんじゃないだろうか?


★評判?
1冊目の本を出した後、「本を出している(ちょっと凄い)人」という見られ方をして、かなり戸惑った記憶がある。

今は20年くらい前に比べて、出版点数が異様に増えているので、「限られたすごい人だけが本を出せる」という感じでもないんですけどねー。変な本もいっぱいあるしねー。「本を出している≒社会的信用」みたいな見方は危険だと思いますけどねー。
と、僕なんかは思ってますけど。
こういう「箔」みたいなのが好きな人には、メリットがあるかもしれない。



という訳で特に、知的な能力を売り物にしているのであれば、本は書いたほうがいいと思う。
文章まで自分でやると、めちゃくちゃ大変だけど。

ちなみに本1冊書くのを自転車で例えると、
・台湾南北往復1200km(90時間でゴール)
・パリ・ブレスト・パリ1200km(88時間でゴール)
を足して2で割らないくらいの大変さです。
完走した時の達成感もそれくらいかな。

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