なぜ会社のITを巡る状況はこんなにも不幸なのか?あるいは非エンジニアがITを理解する意味
はっきり言って、会社におけるITの周辺は不幸で満ち満ちている。
プロジェクトはたいてい失敗する。時に収集の付かない大失敗をして、当初予定の2倍も3倍もお金を使った挙句、ついに完成しなかったりする。
ITエンジニアと、経営幹部や業務担当者は相互に相手のことを信用していないか、ひどい時には馬鹿にし合っている。
経営幹部は「ウチのITは高い、遅い、すぐ止まるの三拍子だ」とか「IT構築が予定通り進んだ試しはない。やりたいことの足かせはいつもITだ」と歯がゆく思っている。
ITエンジニアは「いつも金をケチるから、結局中途半端なものしかできないんだ」「二言目には、効果を示せと言われる。ITがなければ決算もろくにできないはずなのに」と嘆いている。
そもそも、ほとんどの大企業は自社のITを誇りに思っていない。業務はITにどっぷりと浸っているのに、「ウチのITはどうにも問題が多くて、お恥ずかしい限り・・」とみんなが言う。当のITエンジニアですら、自分たちの仕事を誇りに思っていない。
日本企業におけるITほど、どんよりした残念な状況にある仕事は少ないんじゃないだろうか。たまに活き活きとしたエンジニアに会うと、本当に救われるような気になる。
僕がITにまつわる仕事をはじめて、20年になる。ナイーブな学生だった時、自分が入る業界がこんなだとは思っていなかった。
もともと「複雑にからみあったもの、つまり"システム"って面白そうだな」と思って、大学では「流通システム論」を勉強した。狙い通りとてもおもしろい学問だったので、就職活動ではこれまた単純に「流通業」か「システム屋さん」にしようと決めた。そうして(文系だったが)小さなソフトハウスでプログラマーになったのが、僕のキャリアのスタートだ。
入って分かったのは、結構ブラックな業界だということ(入った会社が2chのブラック企業ランキングに入るような会社だったから、というのも少しあるのかもしれないが、多分それだけではない)。
それから20年、僕の肩書はプログラマー⇒SE⇒ITコンサルタント⇒コンサルタントと変わった。元々経営学を勉強していたくらいでビジネスの方が興味があったし、プログラマーとして超一流になれそうな気もしなかったから、仕事内容が少しずつITからビジネスにシフトしていった結果である。
しかし僕の肩書とは無関係に、ITが会社にとって重要であることはなにも変わらないし、ITにまつわる状況が残念な感じなのも、全く変わっていない。
そんな中で、僕がずっと考えてきたのは、「せめて自分の周りだけでもhappyにしよう」ということだ。happyなプロジェクト。ITを作って欲しい人と、作る人とのhappyな関係。胸を張れる成果。
最初に入った会社で客先常駐の下請けSEだった時は、今で言う「ペアプログラミング」「テストファースト」「教え合うカルチャー」「メンテ性を再優先にしたコーディング」「自分の担当外であっても、生産性を高めるボランティア」などを手探りでやっていた。
損得の問題ではなく、そのほうが誇りをもって仕事ができたからだ。
数年後、「もっと、どんなITを作るか、なぜ作るか、そもそもITで解決するのか?」といった問題意識から、今の会社に転職した。
そこで出会ったケンブリッジの方法論を使って、「お客さんとパートナーになって、happyなプロジェクトを作ろう」というチャレンジを続けた。
追い求めていた理想のプロジェクトがついにできたのは、転職から5年目から始めた「古河電工の人事BPRプロジェクト」でのことだった。このプロジェクトについてお客さんと書いた本のサブタイトルに「クライアントとコンサルタントの幸福な物語」とつけたのは、僕にとって「happyなプロジェクト」が大きなテーマだったからだ。
(余談だが、この本の冒頭に僕は「プロジェクトは難しい。」と書いた。この思いは今も全く変わっていない)
2013年に「業務改革の教科書」を書いたのも、同じ問題意識からだった。
これは業務改革の本であるのと同時に、プロジェクトの立ち上げ方の教科書でもある。プロジェクトが大失敗するのは、立ち上げるのが極めて難しく、セオリーがないから。僕らが10年くらいかけて磨いてきた方法論がそれへの答えになると思ったから、この本を書いた。
しかし一つの心残りがあった。プロジェクトの立ち上げ期はITうんぬん言う前に「どんなビジネスにしたいのか?」を考えぬく必要があるので、あえてITについては一切触れなかった。実際に僕らがプロジェクトを始めるときにはITの議論もしっかりするのだが、この本では完全スルーしている。
そうした変遷の末に今回1年がかりで書いたのが、「エンジニアではない人のための、会社のITを理解するための本」である。
タイトルはダイヤモンド社の方と1年議論を続け、ようやく決まった。
会社のITはエンジニアに任せるな! ―――成功率95.6%のコンサルタントがIT嫌いの社長に教えていること
ひょっとすると読者の方々には何の関係もないことなのかもしれないが、僕は自分自身の仕事で起きたこと、仕事を通じて考えたことしか本のテーマにしない。そしてこの3年くらいは、これまで以上に社長をはじめとする経営幹部の方と、ITについて語り合う機会が多かった。
百戦錬磨のビジネスマン達を前に、若造の僕が提供できる知恵は一つだけ。
「ITとは会社にとって、何なのか?どうすれば武器になるのか?」だ。
・この会社は、ITとどう向き合うべきなのか?
・なぜこの会社のITはこんな状態なのか?
・なぜいつもITプロジェクトは失敗するのか?
・どうしてITはバカ高いのか?
・それでは具体的に何から、どう着手するべきか?
・要は、どうすればITが会社の武器になるのか?
こういったことを、ITエンジニアの勝手な論理ではなく、普通のビジネスマンに分かる、普通のビジネスの論理で語らなければならない。結果として、僕自身、随分鍛えてもらうことになった。
コンサルタントは顧客に密着する商売である。当然、一度にお相手できる会社はほんの数社にすぎない。しかし、経営とITをつなぐことができるプロフェッショナルの1人として、もっと多くの方に「ITとは会社にとって、何なのか?どうすれば武器になるのか?」を分かってもらうべきだと感じている。
そうしない限り、いつまでたってもITは日本企業にとってのウィークポイントのままであり続けてしまうだろうから。
これまでの本と同様、お仕事でご一緒した多くの方々に教えていただいたことを沢山盛り込んだ本になりました。
特にこの本を執筆するきっかけを作ってくれた、尊敬する経営者お2人には大変感謝しています。ありがとうございました。
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ダイヤモンド社
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