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採用面接で志望動機と自己PRを聞くのやめたら?あるいはストックフレーズの呪い

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僕のキャリアの2年目は専任の採用担当だった。朝から晩まで、ひたすら学生さんと面談・面接をする。最後に記録を集計したら、グループ面談からサシ飲みでの口説きまで、延べ500人くらいの学生さんと会っていたらしい。


その時から不思議だったのだが、なぜ世の面接官は学生さんに「志望動機」と「自己PR」を聞くのだろうか?
それを聞くことで、本当に知りたいことが分かるのだろうか?つまり、この人がウチの会社に入って、生き生きと働いてくれるだろうか?ということが。

今でも面接官になることはあるが、もちろん志望動機と自己PRは聞かない。
極たまに、色々話をしていて「だとしたらなんでウチの会社受けに来たの?」が不思議になる時がある。そういう時だけ、志望動機らしきことを聞くくらいだ。もちろん、その答えがなんであれ、採用するかしないかには殆ど影響を与えない。
何しろ僕自身が人材紹介会社にオススメされたから受けただけだし。しかも「面接の練習台として、ハードな面接する会社を紹介して下さい」と言って紹介された会社だったのだから。
リクエストする僕も酷いが、紹介する紹介会社も酷い(ちなみに面接の時にも正直にそう答えたけれども、面接に落ちることはなかった)。



★定型的な質問は定型的な回答を引き出してしまう
自己PRにせよ、志望動機にせよ、よくある定番質問である。だから聞かれる方は予め答えを考えておく。それ自体は当たり前の準備であり、いいも悪いもない。
だが、面接の場が定型的な言葉をやりとりする場になってしまうのは、実は致命的にマズイ。


まず、用意してきた定型文(ストックフレーズ)をペラペラ淀みなく話すのを聞くのって、大変つまらない。話の内容を多少工夫してあったとしても、「ストックしていたフレーズを単に出しただけ感」が話をつまらなくさせる。その場で自分の頭で考え、生み出されたものではないからだろう。ライブ感がないから、と言ってもいい。

面接官も人の子だし、つまらないと評価は辛くなる。それに、せっかく未来の同僚を選ぶ場なんだから、楽しい時間を過ごしたい。だから、「サークルの副幹事をやっていた時にみんなをまとめるのに苦労した話」を話し終わるのを待つ苦痛は避けたい。


そしてもう一つ重要なこと。
ストックフレーズしか口にしない人は、決して採用できないということ。
仕事では、本気でああでもないこうでもないと議論しながらモノを作っていく事が多い。僕らの様にコンサルタントだと、予期しない事をお客さんから聞かれる事も多い。
予め用意しておいたストックフレーズを出すのが議論だと思っている人は、そう言う状況で全然貢献できない。新しいモノを生み出せないから。

だから、面接でもなるべくストックフレーズ以外で話してもらおうと、こちらも工夫する。良さを引き出そうと思って。
それでも、最後までストックフレーズしか口にしない人もいるけれど、そう言う人は不採用にせざるを得ない。



★自己PRを聞いても、その人の得意なことは分からない
自己PRで「私は○○が得意です」と聞いて、それを信じて採用するほどウブな人は、さすがに面接官は向いていないだろう。

例えば芸人のオーディションで「私の漫才は天才的に面白いです」と言われたからって採用しないですよね?そんなことより、漫才やってもらって判断すればいい。
でも、ビジネスの世界だと、これと同じような滑稽なことが割りと行われている。


中途採用の場合はやはり「何ができるか」が重要だし、いいところを出してもらった上でこちらも判断したいから、「何が得意?」と聞くことはある。でも学生さんに聞いても、ねぇ・・

例えば、「論理的に話を伝えるのが得意です」とアピールしてくれる人もいる。そう言われたら「お、結構勇気あるね?」と嬉しくなる。けどさすがに鵜呑みにはしないでそれがどの程度の得意さなのかを議論しながら確認させてもらう。
というか、別にアピールしてくれなくても、「論理的に話ができるか」は重要な判断ポイントだからチェックさせてもらう。だったらわざわざ聞かなくてもいいじゃん、と思う。



★志望動機なんて語れなくってもいいじゃないですか
僕個人の事を言えば、これまで大事な選択をした時に、何故それを選ぶのかを理路整然と説明できたことはない。例えば、大学を選ぶ時、ゼミ(師匠)を選ぶ時、最初の会社を選ぶ時、今の会社を選ぶ時(奥さんを選ぶ時も)。

もちろん、少しは自分なりの理由はあるのだが、今から考えると本当にどうでも良い理由である。例えば大学は「試験問題がCoolだったから」。前の会社だと「怪しくて面白そうだったから」。
そして、選んだ数年後に、当時の自分が思っていたよりもずっと大きな影響をその選択から受け取ったことに気付く。選んだ時の自分とは価値観が変わっているという様な。

つまり、入社前の志望動機なんて、どうせ「暫定的な仮設」に過ぎない。酷い時には「面接官に聞かれるから仕方なく作った作文」の時もある。そんなの聞いてもしょうがない。別にでっち上げ能力を見極めたい訳じゃないですよね?
ましてや「競合A社じゃなくて、なぜ弊社なんですか?」なんて、いじめみたいな質問だ。両方受かるまでは、何を言っても詭弁になってしまう。


似たような質問で「弊社に入ったら何したいですか?」というのもある。これもちょっとね・・。そもそも、聞いたってその仕事をやれる訳でもない。入社後のミスマッチ感のタネを、面接官自らが蒔くようなものだ。
「学生時代に法律の勉強をしていたので法務をやりたいです」と答えたとしても、会社の都合で経理をやることになるかもしれない。でも、意外と経理も面白いかもしれないし、合っているかもしれない。少なくとも、入社前に少ない情報から「こんな仕事したいな」と妄想していた通りになるかどうかなんて、入社してからどんな経験をするかに比べれば、本当にどうでもいい。


村上春樹はエッセイで「喫茶店のアルバイトを雇う時、こういうビジョンがあるのでただでも働かせて下さい!という奴ほど、すぐに辞めたり給料が安いと文句を言ったりする」と書いている。
内田樹は「私にとって合気道とは・・を語るような奴は長続きしない。逆に、なぜ合気道なんてやっているんだろう?というヤツほど、続くし、上達する」と書いている。
キャリアは長期戦。何故この仕事をやるんだろう?を自問自答しながら歩むような人のほうが成長する。カッコイイ志望動機をペラペラ語るような人じゃなくても、いいんじゃないですかね。


ちなみに自分の場合はどうだったか。
僕の会社は「ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ」という名前である。ミドルネームにテクノロジーが入っているので、もっとピュアなITっぽい仕事(JavaでガリガリWebアプリ作るとか)をやると思って入社した。当時はインターネットバブルだったし。

でも実際に14年間やり続けてきたのは業務改革とか計画立案とかである。システムに関わる仕事も多いけれど、テッキーというよりは経営視点でどう上手に使いこなすか、という観点。つまり、全然アテが外れた訳だ。
でもそれでアンハッピーかというと全くそう言う事もないし、テッキーよりは今の仕事のほうがずっと向いている。
そんなもんじゃないですかね。



ということで、自己PRも志望動機も僕は面接で聞かない。
「じゃあ何を聞くの?」と聞かれても、もちろん教える訳にはいかない。

面接を受ける人がこの記事を読んで、ストックフレーズを用意されると困るから。

 

 

 

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「これが無償とは思えない!」
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と、過去のアンケート用紙ではこんな声をいただいているセミナーを今年もやります。

今年からはさらに内容を充実させ
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に分けて実施します。

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