鍼は科学的には全く効果なし?あるいはコンサルティングはプラセボか
皆さんは「鍼、カイロプラクティック、ハーブ治療などが、科学的に効果が全くない」と聞いたらどう思うだろうか。
「ふーん、まあそうかもね」と言う人もいれば、「いや、実際に私の腰痛が直った」と反論する人もいるだろう。
僕はそれを聞いて結構驚いた。鍼なんかは、西洋医学では説明がつかないだけで、効果自体はあるもんだと思っていたので。
ところが「代替医療のトリック」という本には、これらの代替医療(正式に医療として認められていないが、治療として提供されているサービス)の多くは、きちんと検証すると全く効果が無い事が、繰り返し書かれている。
著者は有名なサイエンスライターのサイモン・シン。「フェルマーの最終定理」や「暗号解読」らの超名著を書いた人なので、聞いたことがあるかもしれない。
繰り返すけど、「現代科学とは認められていない」とか「なぜ効くのか説明できない」ではなくて、「実験を繰り返しても、効果が全く実証できなかった」ということだ。
結構衝撃的じゃないですか?
治療が効果的だった時、2種類のケースがありうる。
a)実際にその治療に効果があり、症状が緩和される
b)治療の効果はないのだが、プラセボ(ニセ薬効果)によって、症状が緩和される
プラセボ効果とは、「これはあなたの症状にすごく効果のある薬です」と言って渡されると、例えその薬が単なる小麦粉だったとしても、飲むと症状が良くなる現象のことだ。
昔から「病は気から」というのは本当のことらしい。
しかも、
・薬が高い
・「新開発の治療法」などのもっともらしい説明
・ジーパンではなく白衣を来たお医者さんから渡される
などの演出?があると、プラセボ効果は高まることも、実験で証明されている。
で、「代替医療のトリック」という本で語られるのは、鍼が良く効くと思われているのは100%プラセボのおかげ、ということ。
プラセボ以外の鍼の効果を厳密に確かめるためには、ちゃんと鍼を打つことと、偽針(鍼を打たれたように勘違いさせる)を打つことの、効果を比較する実験が必要だ。
なんども実験した結果、両方同じくらい効果が上がることが分かった。腰痛が直ったり、内蔵の調子が良くなったり。
それは「鍼はプラセボ効果が大きいけれど、実際の効果はない」ことを意味している。
鍼は西洋医学では全然説明がつかないし、中国4000年の歴史っぽいし、高度なスキルが必要だし、治療費も高いので、代替医療のなかでも、特にプラセボ効果が大きい。「白衣のお医者さんが高い薬をくれる」の強化版ということ。
たぶん、科学で説明がつかない事への信頼度が高い人にはよく効き、「東洋医学っていんちき臭いよな、ふんっ」と思っている人にはあまり効かないんじゃないだろうか。
まあ、プラセボだろうがなんだろうが、実際に病気が治るならいいじゃないか、という考え方もある。
僕も半分はそう思う。僕自身は代替医療にお金と時間を使うことはしない。でも、代替医療がとても効く!と喜んでいる人は、それはそれでいいと思う。
残りの半分で、やっぱりそういうもんでもないかな、とも思う。通常の医学はたいてい本当の効果とプラセボの合わせ技なので、それに比べると随分落ちる。そもそも本当の効果がない、という時点で、治療というよりはオマジナイみたいなものだ。
アフリカなどでは、魔術師による呪術がいまでも幅を効かせている。これも「全員が信じているからこそ、強いプラセボのおかげで実際に効く」という現象だろう。
そういうオマジナイと、プラセボ抜きでも実際に効果がある医療とは、やはり分けて考えた方がいい。
この話は、しばらく前に騒ぎになっていた、食品偽装に似ている。
「バナメイエビと表記されたバナメイエビ」と「芝海老と表記されたバナメイエビ」だと、ほとんどの日本人は芝海老と言われた方を美味しく感じるだろう。
このことは恥ずかしいことではないと思う。「舌だけじゃなくて、脳みそでも味わっている」なんて、とても人間らしいじゃないですか。「芝海老」というネーミングも一種のプラセボ効果なのだ。
かと言って一流ホテルが嘘を書いていいのか、というもんではないとは思うけれども。
「温泉にいって肩こりが治った」とかも、95%くらいプラセボ効果なのでは?と疑っている。ただのお湯にゆっくり浸かった時と比べて、統計的に有意な差が出るのだろうか。
まあ、そんなの聞く方が野暮なのだ。
先日もプロジェクトの合宿で温泉宿に泊まった時、別の団体のおじさんたちが
「ここは温泉らしいですよ」
「ほーう、誠に結構ですな」
と、ベタな会話をしていた。温泉だと教えてもらうと、「効く気がする」。おじさんも嬉しそうだった。これも温泉の効果の一部だ。
さて、最後に僕の本業であるコンサルティングについて。
僕は常々、コンサルタントを雇うことの価値って、全部とは言わないが半分くらいはプラセボなんではないかと思っている。穿った見方ではあるのだが。
社内で「こういう業務改革をやりたいので協力してください」「頑張ってやりきりましょう」と言っても、中々本腰にならない。でも(結構な金額をはたいて)コンサルタントを雇うことは、「これは本気だな」というメッセージにもなる。
そしてそのコンサルタントが「他社での成功体験」を引っさげていると、よりプラセボ効果は高まる。効果が実証されている方法なら、ウチでもうまくいくかもしれない・・。そうやってみんなが本気にプロジェクトに取り組むなら、それは「アリ」だ。
「反常識の業務改革ドキュメント」を一緒に書いた関さんは、クライアントの立場から「コンサルティングサービスを使う目的は、スピードと外圧だ」と言っていた。
コンサルタントが水先案内人を務めるおかげで、プロジェクトは迷走しなくて済む。そういう意味では「スピード」は実際に効果がある。
だが、「外圧」の方は多分にプラセボ的だ。同じ改革施策であっても、社内の方が言うよりも、外部から来たコンサルタントが言う方が、もっともらしい。「本当にこんなことやって効果があるの??」と疑いながら改革を進めるよりも、「絶対成功します。そのために僕たちは来たのです」と言いながら進めたほうが、実際に成功率は高まる。
最初に「ケンブリッジさんには外圧になってもらうことも期待しています」と関さんから言われた時には、正直ピンとこない所があった。だけれども実際にプロジェクトを進めるうちに、プラセボだろうがなんだろうが、プロジェクトを成功させる原動力になれるならなんでもいいや、と思うようになった。
使えるものは何でも使って、それでようやく成功させることが出来るのがプロジェクトなのだから。
そして、アフリカの呪術師みたいな、プラセボ効果しかないコンサルタントではなく、高度な医療を駆使しつつ、大きなおまけとしてプラセボ効果ももたらすようになりたい。そのために精進せねば、と思う。
*************************************************************
「業務改革の教科書―成功率9割のプロが教える全ノウハウ」新刊情報
*************************************************************
先日は、以前営業訪問したある会社の方から
「この本を読んで一つ一つ実践することで、ケンブリッジさんの力を借りずに、業務改革のプロジェクトを立ち上げることができました!」
という、嬉しいのか残念なのか分からない様なお話を伺った。
いや、まあ、そのために書いたんですからいいんですけど。