「オレンジジューステスト」を使ってみた。あるいはサービス業の良し悪しを見分ける方法
★オレンジジューステストとは?
オレンジジューステストをご存知だろうか。
デザイナーでもシステムコンサルタントでも髪結いでもいいのだが、サービス提供者が真にプロフェッショナルかどうかを見極めるための方法だ。僕のバーチャル師匠のG・M・ワインバーグが提唱している。
あなたが、全国の営業部員が一同に集まる宴会を企画しているとしよう。
宴会場のチーフの適正を見極めるのに使うのが、オレンジジューステストだ。「我が社では宴会の最初に、出席者全員で搾りたてのオレンジジュースを飲み干す伝統があるのです。提供していただけますか?ちなみに、人数は500人。ジュースは搾って1時間以内。1人当たり400CC」
などと、無茶な要求を出してみる。
ちょっと想像すれば分かるが、「ひたすらジュースを搾るアルバイト」を大量に用意しないと、この要望には答えられないはずだ。a)宴会場チーフが「そんなの造作もありません。お任せ下さい」と言ったら失格。
⇒事の難しさを理解するスキルがなく、後でギブアップする可能性が高い。
⇒または、搾りたてではないジュースを出してごまかすかもしれない。b)「そんなアホな企画はやめましょう。ウチの自慢の地ビールはいかがですか?」
と言ったら失格。
⇒どんなサービスを求めているか、を決めるのは、宴会場チーフではなく、お金を払うお客であるべきc)「出来ると思います。ただし、費用が○○円ほどかかるでしょう」と言ったら合格
いかがだろうか。
最初にこの話を読んだ10年前、僕はあまりピンとこなかった。だが、これは以前に書いた「要件定義は誰の責任か?あるいはプロとアマの分岐点」という記事と同じ事を言っているのだ。
・こういうオレンジジュースを振舞いたい:ユーザーが出す要件
・どうやって提供するか、費用はいくらか:プロが考える実装方法
これを混ぜてはいけない。
「1時間以内の搾りたて」がどんなにバカバカしいと思っても、ユーザーにとって本当に大事なのであれば、口出しすべきではない。
だが同時に、実現が困難なのであればあるほど、ユーザーにはそれを知らせなければならない。「パック入りオレンジジュースに比べて、23倍高いです」というように。それを聞いて、「本当にそれだけの価値があるか?」を最後に判断するのは、やはりユーザーだ。
★使ってみた
家を建てたときに、建築士さんをパートナーとして選んだ。建築士は設計はもちろん、大工さんの選定や工程管理などもお任せする、住宅建築で一番大事な人と言えるだろう。
(余談だが、住宅業界における建築士は、SI業界におけるITコンサルタントに凄く似ている。建築士に頼むと高くつくと一般的は思われているが、総コストが必ずしも高くなる訳ではない事も含めて。)
この時僕があえて聞いた質問。
「いよいよこれから家を建てようという時に、やっぱり鉄筋コンクリートにして欲しいとか、どうしてもキッチンは1階が良いとか僕らが言い出したらどうします?」
なんというか、トラブルを運んできそうな、怪しい客である。僕が建築士ならこの仕事お断りしたかもしれない。だが、彼らの回答はクールだった。
「どうしても、という事ならば設計し直すことになります。家を建てる人の要望はなるべく取り入れたいですから。でも、再設計料や資材の発注費など、余計なコストがかかる事を説明することにはなるでしょうね」
無事オレンジジューステストに合格したので、僕は彼らに仕事をお願いすることにした。
★僕はオレンジジューステストに合格できるだろうか?
僕はコンサルタントになったのとほぼ同時にこのオレンジジューステストを知った。最初から「オレンジジューステストに合格するようなサービス提供者であろう」と思ってきたのだから、さすがに合格出来るとは思う。
ただし、
「1時間以内の搾りたて、という基準はあまりにもバカバカしくないですか?」
「その基準を大事にしているのはあなただけですか?他の人もですか?」
「その基準を守ることで、どんなメリットがあるでしょうか?」
という議論を相当しつこくしてしまうので、途中で不合格になるかもしれない(それで不合格になるなら、しょうがないと思っている)。
ユーザーさんが言う「これが絶対に必要」を紐解いていくと、「確かに、この場合はいらないかもしれないですね」「全社最適で考えればいらないですね」ということは、あまりにも多い。
一回聞いて鵜呑みにするほど、純真ではなくなってしまったのだと思う。
あなたは合格できるだろうか?
あなたが仕事を依頼しているサービス提供者は合格できるだろうか?
※オレンジジューステストについては、
「コンサルタントの秘密」G・M・ワインバーグ 参照