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吉野屋対スタバあるいは戦略とプロジェクトの一貫性

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★スタバの話
氷で薄くなってしまうのがイヤなので、スタバでアイスコーヒーを頼む時は氷すくなめにしてもらう。すると60%くらいの確率で「その分、コーヒーを増やしますか?」と聞いてくれる。知ってました?むちゃお得な感じしません?
もし増やしてくれないときは、その分だけ自分で牛乳を足す。もちろんタダ。

★吉野屋の話
安部社長がインタビュー記事で語っていた吉野屋のポリシー。
「牛丼の具をご飯に盛る際、キッチリ決められた分量だけ一発ですくえるのがプロ。もし決められた量より1g多くよそってしまったら、その分だけ会社にとっては損失だ」
社長は元々、アルバイトとして牛丼をよそっていた方。光景が想像できる。

★さて、どっちに共感します?
どちらの話も
「チェーンストアオペレーションの中で、提供する商品の分量を守るべきか守らざるべきか」
というテーマなのだが、結論が正反対なのが面白いと思う。
・「ちょっと足す」は良いことか?悪いことか?
・店員によって違う対応をするのは良いことか?悪いことか?

お客さんとして、どちらが嬉しいですか?
そして経営者として、どちらを社員に求めますか?

僕はどっちのポリシーも同じくらい好き。それぞれの会社の戦略とマッチしているから。
スタバの戦略は色々な所で語り尽くされているが、一言で言えば「高価格戦略」だろう。コーヒー一杯は比較的高い代わりに、店員さんはフレンドリーで長居もWelcome(ソファーと電源まである)。
吉野屋は言うまでもなく、経営学でいう「コストリーダーシップ戦略」である。大量生産によって経験値をため、商品提供コストを下げる(必ずしも価格が最安とは限らない)。王道である。
それぞれの戦略と「決められた分量を守ることについてのポリシー」はぴったり一致している。

★大事なのは一貫性
もしこのポリシーだけ逆だった時のことを想像してみよう。

吉野屋で牛丼を食べていたら店員さんが「お客さん紅しょうが食べないみたいだからその分、肉を足しましょうか?」とにっこり笑って言ってくれた。すげえ。肉ダクだ。でも人件費やお肉代が上昇し、価格か味のどちらかが犠牲になった。
一方スタバでは工数削減のため、店員さんがマニュアルで書かれたこと以外を話しかけるのを禁止した。牛乳を追加したい人は20円払うことに。

うーん、やっぱりどっちの店も魅力的じゃないですよね。
つまり「コーヒーを割り増ししてくれる方が、よいポリシー」とか「ケチはダメなポリシー」と、ポリシーを単独でピックアップして、良いの悪いの言ってもしょうがないのだ。

大事なのは一貫性だ。
会社が目指すべきことが定まっていて、社内に浸透している。すると、
・商品ラインナップを考える際にも、
・価格を決める際にも、
・社員/アルバイトを採用する際にも、
・社員/アルバイト向けマニュアルを作る際にも、
・店先で社員/アルバイトがサービスするときにも、
同じ方針のもとで仕事が進む、ということなのだ。

この辺りが一貫していれば、それはお客さんにもメッセージとして伝わるものだ。
吉野屋のケースで言うと、「タダで肉増やして」と言うのが非常識(誤った期待値)だと、お客さんの誰もが知っている。

★プロジェクトワークで言うと?
僕自身は全社戦略の立案にプロジェクトとして取り組むことは希だけれども、「プロジェクトがその会社の全社戦略のどこに位置づけられるか」は常に意識する。
つまり一貫性が担保できているか?ということ。

以前「プロジェクトプランニング(2)あるいは偉い人から何を聞き出すか」という記事で、ある会社の社長から、戦略ストーリーをお話頂いたときのことを書いた。

これこそプロジェクトが一貫して従うべき戦略だし、プロジェクトゴールや1つ1つの意思決定が、ここからずれていないか、常に振り返るべきスタート地点になる。
だから「プロジェクトのどの施策がどの様な効果を生み、それがどう全社戦略につながっていくか」という関連図をよくつくる。しばしばそれは「風が吹けば桶屋が儲かる」式の長い関係図になってしまうのだが、それでもプロジェクト内で議論すること、明示的に一貫性をチェックする意義は深い。

そのような議論をやっておくことで「予算を押さえることと、成果を出すことのどちらを重視すべきか」の様な、正解も判断基準もない話を議論する時の土台を持てるのだ。

まあ、プロジェクトをやろうと思ったら、そもそも頼りにすべき戦略なんてないんだよね、というケースも多いが、それはまた別の話。それがちゃんとあるからこそ、吉野屋もスタバも良い会社なのだ。

まとめ。
企業のポリシーを単独で取り出していいの悪いの言ってもしょうがない。一貫性が大事。プロジェクトも「全社戦略との一貫性」をもっと大事にしないとね。
今日はここまで。

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