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プロジェクトプランニング(2)あるいは偉い人から何を聞き出すか

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★大企業の役員という人種
大企業の役員という人たちは独特なコミュニケーションスタイルを持っているもので、最初にお話したときに少しとまどったのを憶えている。
典型的なコミュニケーションスタイルを挙げてみよう(もちろん、独特でない方もいらっしゃるが、傾向として)。

・とにかく話の抽象度が高い
・モノを見る確度、考える切り口が、普通の社員と全然違う
・話のペースや話題をこちらに合わせる気は全くない(特にこちらが若造の場合は)

これまでの仕事人生で大きな成果を上げてきて、大きな責任を負っているのだから、当然なのかもしれない。
細かいことは抜きにして大づかみで話を理解する。そして、自分が話したいことを話し、聞きたいことを聞く。良くも悪くも。

だから、こちらの考えた打ち合わせの目的、議論のシナリオに乗っかってくれるケースは少ない。簡単な資料(通称ペライチ)で最低限の状況説明をした後は、フリーシナリオというか、その場勝負にならざるを得ない。

僕の一番の失敗例は、プロジェクト方針についてお客さまの社長に相談しに行ったら、そのとき気になっていた別の話を持ちかけられてしまったこと。
「赤字案件を徹底的に減らせと社内に号令したら、リスクがある提案がまったく上がってこなくなってしまった。困ったモノだ」
というのが「別の話」の内容で、僕もそれには問題意識を持っていたので思わず議論が盛り上がってしまった。
社長のアポなんてせいぜい30分くらいしか取れないから、結局、別の話を議論をしている間に持ち時間が終わってしまった。いくら盛り上がったと行っても、プロジェクト的には大失敗。トホホ。

★「ありがたいプロジェクト方針」を聞けることは、まれ
身も蓋もないし、お話を伺う方々には非常に失礼な話なのだが、プロジェクトの最初に役員に話を聞いて、
「なるほど、今度のプロジェクトはその方針で進めさせていただきます!」
とプロジェクトコアメンバーが膝を打つ、という様なシーンはまずない。

いくらプロジェクト計画を立て始めたばかりといっても、コアメンバーはプロジェクトの今後について、多面的に考えを巡らせているものだ(そうでなかったら、役員の方々のお時間をいただくには早過ぎる)。
コアメンバーが「このプロジェクト、多分AもBも大事だけど、両立が難しいな・・」と悩んでいるとして、役員の方々にそれをそのままぶつけても「もちろん両方大事だ。両立できるように、君たち何とかしなさい」と言われるのがオチである。
「プロジェクトの方針ごととして悩ましいこと」のレベル感と「普段から役員が考えていること」のレベル感がかみ合っていないのだ。

それでも、プロジェクト計画を立てるこの時期に、役員の方々の貴重なお時間をいただき、お話を聞くことの意義は大きい。
格好つけてエグゼクティブ・インタビューと呼んで、必ずキックオフミーティングの前後にスケジュールする。役員の皆さんお忙しいから、スケジュールがずれ込むことも多いけれども。

★改めて、全社戦略を聞く
以前の社長インタビューで、「早速ですが、今回のプロジェクトでは・・」と僕が話し始めたら、お客さまの社長に、
「まあそんなに焦るな、若いの。プロジェクトがどうこう言う前に、うちの会社で仕事をするからには、どんなことを考えて経営しているかを知っておいてもらわなければならん」
と、さえぎられたことがある。
さすがに「焦るな、若いの」とは言わずにもっと紳士的な表現だったけど、僕にはそう聞こえた。

そして、その会社の独自なポジションと、そのポジションから長期的な利益を上げるための「一貫した戦略ストーリー」を時間をかけてご説明下さったのだ。
その話はすぐれたストーリーで、聞いていてわくわくしたし、感銘を受けた。
もちろんその戦略については事前に把握していたが、実際に構想した方から、なぜその戦略に至ったのかを聞くのでは迫力が違う。ご自分の口で話すことに、貴重なお時間を使ってくださったことにも感激した。

そして僕のなかに
・この素晴らしいストーリーに乗っからないプロジェクトなら、やらない方が良い
・表面的な効率化だけで「効果でました!」と言ってもしょうがないぞ
・どうやったら、今度のプロジェクトがこのストーリーに貢献出来るものできるか?
という命題が生まれた。

この命題は、その後現状分析や施策を考えている時も僕の頭の一角を占め、
「こういう施策も組み入れないと、全社戦略にうまくつながらないな・・」
と、プロジェクト計画を立てるときの指針になり続けた。

★制約を聞くのが吉
「方針を示してください」という質問よりも「○○は、会社としてアリですか?」という質問の方が、ずっと効果的だ。つまり、プロジェクトとして守らなければいけない制約事項を聞くのだ。
これがしっかり聞けたならば、逆にプロジェクト計画を考える時には大きな自由を手に入れられる。制約の枠の中に収まってさえいれば、多少突飛な発想でも、許されるはずだからだ。

「事業部を新設するレベルの組織改編はアリですか?」
「プロジェクト施策の結果、一般職の方々に転勤をお願いするのはアリですか?」
「損得抜きで、絶対に達成しないといけないのは、5つのうちでどれですか?」
「一部のお客さまのみ、サービスレベルが一時的に低下するのはアリですか?」

★バックアップの言質を取る
制約について聞くことのメリットは、「自由を手に入れる」だけではない。
「その件については、ごちゃごちゃ言うヤツがいたら、俺からガツンと言うよ」
とか
「○○さんと相談して、問題なければやって良いよ」
など、あとでプロジェクトの障害になることへの対処方法を聞けることが多いのだ。
「言質」というと嫌らしいけれども、何かあったら頼れる人がいるかいないかは、難しい改革を進められるかどうかに直結する。

★今後のための関係作り
最後に、一番大事なねらい。それは、今後も何かと相談に乗ってもらう関係を作ることだ。
大きな改革プロジェクトのリーダーをつとめるのはたいてい部長級・課長級で、直属の役員とは腹を割って話ができることが多い。でも、直属ではない役員との関係はそうではないのが普通だ。
直属ではなくても、大きなプロジェクトであれば影響を受けるから、そのうち反対派になってしまうかもしれないし、協力をお願いしなければならない時もある。

プロジェクト計画段階でのインタビューを通じて、プロジェクトでやりたいことや情熱を分かっていただいて、意見も聞いておけば、今後困ったときに相談に行きやすい。役員なんて、極端に言えば、そういう状況を整理するためにいるようなモノなんだし。
是非、最初のインタビュー以降も、たまに状況報告をして、意見を聞きに行こう。ちょくちょく自分がアドバイスしているプロジェクトの反対はしにくい。

まとめ。
プロジェクトの立ち上げ期には、ぜひ役員巡りをしよう。ねらいは制約事項とバックアップの約束という、プロジェクトを円滑に進める上での財産。
今日はここまで。

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