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そろそろPMには「センス」が必要だと認めよう。あるいはストライカーは育つもの

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★センスという言葉を使うのは、逃げかもしれない

良いもの、凄い人、うまくいっていることについて、「センスがあるから」と言っても、それは何も説明したことにはならない。例えば「イチローはバッティングセンスあるなー」というのは多分正しいのだが、そこからは他の人が真似できそうな要素や、なるほどと思う知見が何も引き出せない。
だから僕自身は、何かを説明するときに「センス」という言葉は使わず、なるべく「センスがあるとは何がどう良いことなのか?」を表現しようと思ってきた。

一方で、すぐれたPM(プロジェクトマネージャー)を育てようとして考えていくと、どうしてもセンスとしか言いようがないもの(≒なかなか理詰めでは教えられないもの)が残ってしまう実感があった。
やっぱりセンスなのか。いやそれを言っちゃおしまいだ・・と悶々としていた訳だ。

ところが、「ストーリーとしての競争戦略」という超名著を書いた楠木健教授が
「すぐれた戦略を考えるためにはスキルではなくセンスが必要」
と言い切っていたのを先日ブログで読んで、僕も考えが整理できた。

「すぐれた戦略をつくるために一義的に必要なのは、スキルではありません。それは「センス」としか言いようのないものです。英会話や財務諸表の読み方、現在企業価値の計算であれば、スキルを身につければできるようになるかもしれません。ところが、こうした「スキルの発想」ではいかんともしがたいものが、戦略を構想するという仕事なのです。」

彼はさらに踏み込んで、
「センスのない人は経営なり戦略の仕事に近づけないことが大切だと思います。」
とまで言い切っている。ここまでバッサリ切られるとあきらめがつくというか・・。

そこで僕もPMについても「ある種のセンスが必要」ということを潔く認め、むしろそこを思考の出発点にすることにした。

★プロジェクトでセンスが特に必要な場面
プロジェクトの世界で、センスが必要だな、と特に思うタスクは大きく2つある。

A)業務やシステムの現状調査をし、「何が真の課題で、どうすれば抜本的な解決策となるか」を立案するタスク

B)プロジェクトの全体を見渡して、どこが進捗のボトルネックになっているかを特定したり、どこに潜在的なリスクが隠れているかを見極めるタスク

それぞれ見ていこう。

★課題と施策を見極めるセンス
A)は主にプロジェクトの最初に方向性を定め、プロジェクト計画を立案する時に行うタスクだ。上記の「すぐれた戦略を作るタスク」の相似形といっても良いので、こちらにもセンスが求められるのは、ある意味必然である。

課題を抽出し見極めるのは、単に「ある現場の担当者が課題だと言っていたから」とか「他社の事例であったから」とか「そうしないとERPパッケージに当てはまらないから」といった作業ではない。(それしかやっていない、イマイチなコンサルティングサービスが多いのだが・・)

組織や業務やシステムの状況を一通り調べさせてもらって「ここがガンだ。こうすると良くなるのではないか?」と思いつくこと。これはセンスのある人にはすぐにピンと来るし、ない人が自力でやれるようにするのは至難の業である。
他の人に説明する必要があるから、いちおう論理的に語ったりするが、それはたいてい後付けの理屈に過ぎない。分かるためにはセンスが必要なのだ。

(それでも、もうちょっと言語化の必要があるよな、と思うので、今、この辺についての本を書いています。社内にたくさんの事例があるので、少しづつ見えてきてはいます。センスがない人がこれを読んだらあら不思議、という本にはならないと思いますが・・)

★プロジェクトの急所を見極めるセンス
こちらのセンスは主にプロジェクトの後半、実装局面で必要となる。

プロジェクト管理の教科書を読むと、
・プロジェクトの計画を立てよう
・それ通り進捗しているかチェックしよう
・ダメなら手を打という
このサイクルを回すのだ、などと書いてある。牧歌的ですね。

でももちろん、現実のプロジェクトは違う。
なにより、判断をするための情報が充分でないことが多い。かといって充分な情報収集をしようとすると、情報を集める工数ばっかりかかって、仕事を前に進められなくなってしまう。
程度問題なのだが、ある程度は見通しのきかない状況で「あれもマズイ。これもマズイ。だが本当に致命的な方はこちらなので、資源を集中投下しなければ」を判断しなければならない場合が多い。
そして、一つ一つのタスクをどんどん分析すればこの判断がより正しくなる、という訳でもない。そうではなくて「全体感」が問われるのだ。問題と問題の致命度の比較。因果関係の見極め。

これは楠木教授が戦略立案に求められるセンスについて
「センスとは統合的な発想である。例えば、戦略的な個々の打ち手が全体としてつながりあって効果を上げるかを見極める力」
と言っていることに非常に近い。スキルがどちらかというと分析的な発想なのとは正反対に、総合的・統合的なものの見方が必要なのが、センスと呼ばれるものの正体なのだ。

★どう育てればいいのか
サッカーの世界には
「ストライカーは育てられない。発掘することしかできない。ストライカーは勝手に育つのだ」
という言葉がある。

同様に、センスのあるPM(先に挙げた2つのことができるPM)は、結局の所育てることはできないと思う。
だが、センスのあるPMが勝手に育つのを支援することくらいはできると思っている。ストライカーの才能を開花させるすぐれたコーチがいるように。

鍵は「知識をお勉強する」のと「センスを磨く」では、やるべきことが違うことだ。プロジェクト管理の知識を身につけるためには本をよみ、資格の勉強をするのもいいだろう。だが、それだけでは足りないのだ。
一方でセンスを磨くための決定打はないが、いくつかの仮説はある。

・センスの芽がある人が様々な経験を積み、発揮する場を提供する
(可能性がある人にどんどんチャレンジングな仕事を任せる)
・他のセンスがある人と一緒に仕事をしてもらい、触発されるのを待つ
・自分にセンスがあるかないかは、自分ではなく信頼できる他人にしてもらう

これらを総合していくと、以前このブログに書いた「師匠を持て」ということになるかと思う。
いやー、古来から続いている「道を究めるための方法論」というのはなかなか凄いものですね。

★センスがなくてもプロジェクトで活躍できる

こう書いていくと、身も蓋もない。センスがあるか、ないか。
だが、センスがなくても(むしろセンスがないと割り切っているからこそ)貢献できることってあるのではないか。

これも前にブログで「天才肌じゃないサッカー選手でも、チームに欠かせない選手になれる」と書いた。
「君、才能ある?」あるいは、伸二と啓太とプロジェクトワーカー

小野伸二ほどのサッカーセンスがない、と絶望するのではなく、センス以外で勝負すればいいだけの事だ。むしろ、センスのない人にセンスを期待しすぎる方が良くないと思う。
あなたはあなたのセンスに期待しすぎてはいないか。

サッカーや経営戦略と同じように、プロジェクトにおいてもセンスがない人が貢献する方法はたくさんある。僕の会社にも、例えばA)のプロジェクトセンス(課題と施策の特定)はイマイチかも、というコンサルタントもいる。が、そういうコンサルタントだってお客さんからの信頼が厚く、実際に難しいプロジェクトを何度も成功に導いていたりする。

プロジェクト内で保管しあえればいい。チームというのはそのためにある。

まとめ
サッカーや戦略立案と同じように、プロジェクトワークにもセンスが必要。それを認め、芽がある人は磨き、なさそうな場合は他で貢献しよう。
今日はここまで。

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