「君、才能ある?」あるいは、伸二と啓太とプロジェクトワーカー
★「君、才能ある?」
僕の大学の師匠は女の人で、旦那さんは別の大学の建築学教授なのだが、結構強烈な人だった。ご自宅に遊びに行ったときのこと。連れていった建築学科の友人に、開口一番「君、才能ある?」と聞いたのだ。
僕の友人はびっくりして曖昧な微笑を浮かべるのが精一杯だった。普通、面と向かっては聞かないよな。しかも会った瞬間には。
彼曰く「本当に才能がある建築家って、自分で分かっているし、人にも自分が才能あるって言うよね」。
うーんそうかも。普通の大学からプロのチェンバロ奏者になった変わり種の人も、前に「在学中に自分の才能を確信したから、普通のルートを踏み外せた」と言っていたし。
今から7年くらい前の話で、当時も僕はプロジェクトワークにどっぷり浸かっていた。
深く考え込んでしまったのは、「おい、君にはプロジェクトの才能あるのか?」と聞かれたら、やっぱりYes、とは言えないよな・・と思ったからだ。じゃあ、自分の才能が確信できる仕事ってなんなんだろうか・・。そもそもあるんだろうか・・。
あれからずいぶん経験を積み、出来ることは多くなった。けれども「才能あるか?」と聞かれたら、「さあ・・」としか言いようがない。そもそも切れ味で勝負、というよりもプロジェクトの成功に向けて泥臭く信じることをやる、それをお客さんに分かってもらう、というスタイルだし。
やはりコンサルティングとかプロジェクトワークって、建築やチェンバロと違う、と考えた方がいい気がする。というよりも、違うと考えないとやってられないと言うか。違うと考えた方が、救いと成長があるというか。
プロジェクトワークに限らず、デスクワーク全般に当てはまると思う。
★鈴木啓太というミッドフィルダー
サッカーの世界ではたまに天才が現れる。僕が初めて買ったレプリカユニフォームは浦和レッズの8番、小野伸二だった。サッカーの才能って、こういうことか、とサッカーを見始めたばかりの僕は感動した。
でもサッカーが素敵なのは、天才だけでやるスポーツじゃない、というところかもしれない。
レッズに鈴木啓太というミッドフィルダーがいる。最初に(ルーキーかその翌年)スタジアムで見たとき、ミドルシュートがうまい以外はまるで下手くそで、足も遅そうだった。何でこんなのがスタメンなんだ?と思った(しかもミドルシュートはまぐれだったことが後から判明)。
しかし彼は実に良く走る選手だった。しかも粘っこい守備をする。闘莉王が守備をほっぽり投げて攻撃に行っちゃったらフォローもする。頭がよいのか、ポジショニングも的確。
なんども彼の献身でレッズは勝ちを拾い、スタジアムで「啓太サイコー!」と叫んでしまったこともよくあった。
今の時点で思うのは、プロジェクトワーカーとしての才能に確信が持てないからといって、目の前の仕事を放り投げて自分探しの旅に出たりしないで本当に良かった、ということ。ほとんどの人は小野伸二ではない。でも鈴木啓太にはなれる。
そして名将オシム監督は、伸二を決して代表に呼ばなかったけれど、啓太はオシムのチームで絶対に欠かせないメンバーだった。
どんなプロジェクトにも啓太は必要だ。ガンバレ啓太、そしてガンバレ啓太的プロジェクトワーカー。