プロジェクトプランニング(3)ドキドキ合宿
★よく、合宿します。
プランニングの一番最初の工程を「Concept Framing」と呼んでいる。ここでのメインイベントは、前回書いたエグゼクティブ・インタビューの他に、もう一つある。プロジェクトの立ち上げ合宿だ。
合宿じゃなくて、普段のオフィスで会議を重ねても良いんだけど、合宿の方が楽しいし、わくわくする。大人になっても遠足は楽しいものだ。プロジェクトの成果という意味でも、合宿をやって後悔したことがないんだから、そりゃやるでしょ!
プロジェクトを立ち上げる時は「是非一緒に合宿行きましょう!」と提案することにしている。
場所は、やっぱり温泉がいい。100歩譲ると、山中湖のような静かで気持ちの良いところ。200歩譲ると、郊外の研修センター。どちらにせよ、普段通っている会社から離れた方が良い。じゃまな電話もこないし。
何か新しいことを始めるときに温泉に籠もるのは、ホンダの新車開発など、日本企業の伝統だよね(このあたりは、野中郁次郎先生の「知識創造企業」に詳しい。僕も合宿プランを練るときにずいぶん参考にした)。
★缶詰が生むOne Team あるプロジェクトでは、合宿に参加したあとに他の仕事の都合でプロジェクトワークになかなか参加出来なかったコアメンバーがいた。一方で、合宿の後からメンバーになって多くのセッションで発言してくれた別のメンバーもいた。 合宿で出来た同志意識(なにか、新しいことを始めようぜ、という空気を共に吸った感覚)は、後々までプロジェクトを引っ張る原動力になる。 ちなみに、合宿にくる人数は少ない方がいい。10人くらいかな。問題意識が高くて、知識が豊富な人限定。これは議論の密度を高く保つため。しばしば、議論の内容よりも密度を重視することになる。 ★あえて、そもそも論 「グローバル対応とは何が出来ればヨシとするのか?」 これらはみな、色々なプロジェクトの合宿で議論した「そもそも論」だ。このレベルの抽象的な話は、プロジェクトが進展するとなかなか議論している余裕はない。 でも、何も決まっていないプロジェクトの初期段階では、ドロドロとこういう話をしていると、お互いが大事にしている価値観が理解できたり、プロジェクトで目指すべき方向や制約や前提が整理できてくる。 ★合宿だから許される でも資料が最初からなければ、自分たちで手を動かしてアイディアをヒネクリ出すしかない。普段のオフィスで同じことをやろうとすると、「もっとちゃんと資料を用意しろ」となりそうなものだが、合宿だったら「まあ、合宿ですから」でカジュアルさが許される。説明不要。 ★ファシリテーターとしてはしんどい 何がしんどいって、一発勝負になってしまうこと。普段の会議で、例えば準備不足や議題の設定ミスで話がうまく進まない場合は一旦うち切って、仕切り直しすればいい。 幸い、僕は大きくはまったことはないけれども、常に綱渡り。 だから、毎回楽しみな反面、ドキドキするのだ。 まとめ。
合宿をやると、2日間くらいは缶詰で同じメンバーと過ごすことになる。と言うことは会議中はもちろん、飯食っている時も、飲んでいるときも、温泉入っているときも話をするということ。
もちろんまさに夢中で取り組んでいるプロジェクトのことも話すし、直接はプロジェクトと関係のない会社の問題について愚痴を言い合うこともある。趣味や家族のことを話すかもしれない。
場を共有し、話をすれば、理屈抜きで1つになる。以前、どうやったらOne Teamな関係になれるのかについてくどくどと書いた。あれはあれで大事だけど、合宿すれば、一発でOne Teamになることがほとんど。
後から振り返ると、合宿に参加してくれたメンバーは、プロジェクト方針を少し説明すれば趣旨や意義をすぐに理解してくれたのに比べ、合宿出られなかったメンバーにプロジェクトの意義や取り組みの有効性を分かってもらうのにかなり苦労した。
たまたまかもしれないけれども。
先日も、別のプロジェクトの飲み会で「あの合宿の頃のチームの勢いが良かったよねぇ」と話題になったし。
富士に月見草がよく似合うように、合宿には「そもそも論」がよく似合う。
「そもそも、良い事務とはどんな事務か?」
「真の顧客をいったい誰と考えるか?」
「事業の柔軟性とは何のことか?」
「全社戦略とこのプロジェクトはどうつながるか?」
普通の議論では「空中戦になってきたので一旦ストップしましょう」なんてファシリテーターが言って、そもそも論を中断してしまうこともある。普通は、プロジェクトの最中のそもそも論をどれだけ議論しても、具体的な解決策にたどり着けないからだ。
最悪、整理できなくても「あんだけ議論したんだし」という感覚は共有できる。
普段の会議とは違って、設備も時間も制限があるから、パワーポイントのきれいな資料を用意しまくるというよりは、フリップチャート(模造紙)や付箋を使って、その場で議論を発展させていかざるを得ない。が、それがイイ。
事前に資料が用意されていると、どうしてもだれか(例えばコンサルタント)が作ってきた資料を、上から目線でレビューするという雰囲気になりがちだ。
これも日本企業の伝統なのか?
合宿でのファシリテーターの役割は、
・「いつかはプロジェクトの役に立つ、スジの良いそもそも論」を選ぶ
・これから議論したいこと、をみんなに分かってもらうための簡単なメモを用意する
・話が具体的になりすぎ、細部にはまり過ぎたら戻す
・発散しきったら、納得度の高い(みんなの意見がうまく反映された)たたき台を用意する
といった所だろうか。
でも合宿の場合は、2日間なら2日間、続けなければならない。一回はまるとリカバリーが効かないのだ。
「いま、こういうフォーマットで整理するとうまくいく気がするので、ちょっと全員でやってみましょう」という、瞬発力(その場の思いつき)で勝負する場面が訪れる。
はっきり言って難しい。プロジェクトの立ち上げ合宿のファシリテーションができるようになったら、ファシリテーターとして一人前だと思う。
合宿は楽しくて有意義でしんどい。日常をちょっと離れて、プロジェクトの未来のことを熱く語りに行こう。
今日はここまで。