オルタナティブ・ブログ > プロジェクトマジック >

あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

One Team あるいはキュレーションと主客一体

»

★キュレーションの時代と千利休
佐々木俊尚さんの「キュレーションの時代」を読んだ。
キーワード検索では入手情報や趣向がタコツボ化してしまうが、キュレーターの視座にチェックインすることで、新たな世界が広がる、という主張はすごくしっくりくる。実際にいま我々が体験していることを正確に表現してくれていると思う。

数多くのエピソードが本書では紹介されているが、僕に一番ヒットしたのは茶道の話。少し引用してみよう。

「主客一体」という言葉があります。禅に由来する言葉で、客のおもてなしというのは招くあるじが一方的に行うものではない。招く側(ホスト)と招かれる客(ゲスト)が協力し、ともに一体となって作り上げるものであるという意味です。そこではホストとゲストの間に、その場で生み出される芸術に対する共感がなくてはならない。お互いが共鳴しあってこそ、ホストとゲストがおもてなしの場を共有し、一体感を感じ、すばらしい芸術を生み出すことが出来る。
これを茶道の世界では「一座建立」といいます。(P158)

これに続いて佐々木さんは、千利休が同じく偉大な茶人である津田宗及を招いた時の逸話を、例として紹介している。

僕がこのエピソードに引っかかったのは、「ずっと考えていたがなかなかうまく説明出来なかった別のこと」について説明してくれている、と気づいたからだ。
それは
「プロジェクトの実施主体(お客様)と、それを支援する側(コンサルタントやベンダー)が、買い手/売り手の関係を乗り越え、One Teamを作ることの重要性」
ということである。

「主客一体」「一座建立」という言葉は、僕もうっすらとは知っていた。でも佐々木さんは新たな文脈にのせ、読者に届ける。それを読み手である僕が、自分が気になっている別の文脈(One Team)に勝手に結びつける。これぞ彼が言うキュレーション、ということだろう。
ある概念を主張した本のなかで、その概念を体験できる。すぐれた本の証拠である。

★普通に考えれば、One Teamはあり得ない
誰でも知っていることだが、サービスの買い手と売り手の間には「ゼロサム関係」が成り立っている。サービス対価を値引きすれば、買い手は儲かり、売り手は損する。同じ対価で、少なめのサービスしか提供しないなら、買い手は損して売り手は得する。
僕はコンサルタントとしてサービスの売り手の立場に立つときもある。逆に「買い手であるお客さんの代理」という立場で、売り手であるベンダーさんと交渉することも多い。どちらにせよ、そこには本質的なゼロサム関係がある。

価格交渉はもちろんだが、
「このシステムに○○の機能があるのは当然でしょ。金を払っているんだ!作ってくれ」
「お客様の方で業務ルールをお決め頂きませんと、こちらとしても仕事が出来ません」
などなど、契約後に「そっちの仕事だろ」と押しつけあうことは、プロジェクトで日常的にある。事前に「売り買いしているものは何か」を100%厳密に定義できないのだから、どうしてもおこってしまう。

得する側と損する側の間にこういう深い溝があるのであれば、いくら「お客さまとベンダーの区別なく、One Teamで一丸となって頑張りましょう!」と言っても、表面だけのかけ声にすぎない。

★One Teamは都市伝説ではない
それでも、これまで大成功したプロジェクトを振り返ると、そこには必ずOne Teamとしか言いようがない関係があった。例えば、会社の壁を越えた信頼関係や協働、損得よりもプロジェクトの成功を第一に考える思考パターンなどである。

僕はこのことにずいぶん前に気づいていたが、なかなかうまく説明出来なかった。「One Teamはプロジェクトの成功にとって必要です」とか言っても、損得が絡んだビジネスの現実の前では、青春スポーツドラマみたいで全く説得力がないないもんね。
そこで、先ほどの茶道の言葉を使ってこのことを説明してみたいと思う。

★「主客一体」がもたらす「一座建立」
One Teamな状態をもう少しちゃんと説明すると、
・いったん、お互いがゼロサム関係にある、ということを棚に上げる
・その上で、「どうするのがプロジェクトにとって一番良いのか」にみんなで知恵を絞る
・一部の人たちにとって都合が悪い事実も、プロジェクトにとって必要なことは共有する
ということ。

例えば、お客さんの業務を分析し、課題を明確にして施策を考えるフェーズ(プランニング・フェーズ)のことを考えてみよう。通常はプロジェクトの一番最初(つまり信頼関係ができあがっていない時)に行う。
一言でいって非常に難しい仕事だ。お客さんの業務は混沌としていて、みんな一所懸命何かをやっているが、なぜか全体としてちぐはぐで効果を上げていない。何をどうすれば、もっと成果を上げられるのか。
熟考と直感と試行錯誤と力仕事(地道な調査など)が必要なフェーズである。

この難しい仕事をするとき、
「コッチは客だから、コンサルタントがやっていることを点検し、成果を吟味すればよい」
「コッチはプロとして、全てを完結的にやり遂げなければならない」
という具合に、立場がまっぷたつに別れているプロジェクトはとても多い。むしろそれが普通だ。茶道の言葉を借りると「主客二体」。おもてなしの場を作るのはもっぱらあるじの仕事でしょ、というスタンスである。
だが、これは本当に難しいプロジェクト・プランニングという仕事をする上で、効果的だろうか?もちろんNOだ。

僕らがコンサルティングサービスとしてプランニングに挑むとき、文字通り「お客さんと一体になって」行う。お客さんにお時間があるようなら、どんどん議論に巻き込む。バンバン宿題を出す。手も動かしていただく。

「取り組み方は一緒に考えますんで、この施策はあなたがオーナーになって下さい」
「このテーマについて、一緒にブレインストーミングやりたいんで、つきあってください」
「このフォーマットに調査結果を埋める仕事、今週中にお願いしますね」
といった感じだ。

そこではお客さまとかコンサルタントとかの区別は余り意味がない。一体になって、最良のプランを作ることだけを考える。アイディアを出せる人が出し、手を動かせる人が動かす。
「あなた食べる人、僕、料理する人」じゃない。
こういう状態を「One Team」と呼んでいる。「一座建立」である。

One Teamの良さは数え上げればキリがない。例えば、
a)ベストな人がベストなことで貢献できる(適材適所)。これは、契約前に状況を予測しにくいプランニングフェーズなどでは非常に大事。
b)ともに成長できる。One Teamで働く以上、僕らのノウハウは全部お客さまに渡すことになる。
c)楽しい。気持ちがいい。目指すものがシンプル。

★「主客一体」に必要な「客ぶり」
こういう関係ができるためには、お客さまが「大人」なことを求めざるをえない。「キュレーションの時代」に載っていた言葉で言えば「客ぶり」である。

それは、
「客として、サービス提供者の価値を査定し、MAXこき使うこと」
よりも
「成功の原動力となる場作り(クリエイティブで自主的でプラグマティズムあふれるチームを作ること)」
を優先させる、ということになる。

売り手から最大限のサービスを搾り取ろうとする買い手は、逆にもっとも大切なプロジェクト成果を入手できない。これはある種のパラドックスだが、精神論でもなんでもなく、クールなビジネスの現実である。

サービス提供側でもある僕らがこのことを声高に言うのはなかなか難しい。
「責任分岐点を曖昧にしましょう」
「コッチがいくら頑張ったって、お客さんもやることやってくれないと成功しないんだよ」
「俺達は、お客さんにヘコヘコしないぜ」
と言っているのと同じに聞こえるから。まあ、半ば言ってるんだけど。
でも、大事だからいかにOne Teamにするか、に心を砕く。それがプロジェクト・ファシリテーションのカナメだからだ。

次回は「そんな都合のいいお客さんいないでしょ」「One Teamになるために何をすればいいのか」について書きたいと思います。

まとめ。One Teamは「主客一体」。ゲストとホストの立場を乗り越えて「最高のプロジェクトチーム」を双方が作る努力をしてこそ、プロジェクトは成功できる。
今日はここまで。

Comment(0)