「情報1」の授業に取り組んでいくには?
情報教育に関するさまざまな取り組みをされている望月陽一郎 先生に、今シリーズでは高等学校で2022年4月から開始された「情報Ⅰ」の授業についてお話を伺いたいと思います。第3回目の今回は「情報Ⅰ」にどう取り組むのかについてお聞きします。
【望月先生 プロフィール】
大分県立芸術文化短期大学非常勤講師。Forbes Japan電子版オフィシャルコラムニスト。公立中学校理科教諭(理科)・大分県教育センター指導主事(情報教育)・大分県主幹等を経験されています。プログラミング関係では、自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』」をサイトにて公開されています。
望月陽一郎 個人サイト:http://mochizuki.net/
●「情報1」に取り組んでいくには?
-2022年4月から「情報Ⅰ」の授業が開始され、教育現場の先生方が新たなご対応をされていることと思います。そこで、望月先生にいくつか質問をさせてください。
以下の記事によると、臨時免許状・免許外教科担任で情報科を教えている教員が多い都道府県もあるようです。
参考記事:「情報I」2022年4月スタート、目的・学ぶ内容は?(8/30更新)https://reseed.resemom.jp/article/2022/01/21/3169.html
記事によると、「高校教諭普通・特別免許状(情報)をもっているが、情報科を担当していない教員が約6,000人いる。」とのことですが、情報の教員免許をお持ちなのに情報科を担当していないというのは何故なのでしょうか?
参考資料:高等学校情報科担当教員の専門性向上及び採用・配置の促進について(2021.3通知)
https://www.mext.go.jp/content/000166300.pdf
(4P 高等学校情報科担当教員に関する現状について)
望月先生:2003年度から新しい教科「情報」が始まる前、早期の養成を行うため、「講習」が行われ、現職の先生方が多く受講して短期間で免許を取得しました。それらの先生方は情報の免許を持っているはずですが、数学や理科などの先生方が多く情報がメインではなかったため、「情報」の授業をしていたかわかりません。
免許を持っている=「情報」の授業をしているのではないということです。私も当時、講習の講師を担当しました。
-そのようなご事情があったのですね。望月先生は「講習」の講師を担当されたとのことですが、どんな講習だったのでしょうか。
望月先生:20年近く前なので、記憶をたどってみると、
- 高校から出張の形でいろいろな教科(数学や理科ほか)先生方が参加する。
- 一定期間毎日研修を受ける。
- 情報教育に関するさまざまな講義・実習を受ける。
- 講師は大学や教育センター職員。
- 講習終了後、高校「情報」の免許が授与される。
というものだったと思います。私は中学校籍でしたが、いくつかの実習の講師を担当しました。
受講した先生方は、自分が持っている主教科の免許にプラスする形で、「情報」の免許を取得して、新しく始まる教科も担当することができるようにしたわけです。
-前回のお話でも、「情報Ⅰ」の内容はプログラミングだけではない、ということでした。
記事によると、「特に『データ活用』については、数学Iや数学Bと関連する内容が多くなる。情報科の教諭は、関連する数学での学習内容を事前にある程度知っておくと同時に、学習時期についての確認、調整なども行っておく必要がある。」とのことでした。https://edtechzine.jp/article/detail/5817
望月先生:理科でもそうですが、他の教科で学んだ分野(数学など)と関連することがありますね。その場合、分野の順番を変えることもありますね。
-数学の授業の進捗も考慮した上で、情報Ⅰの授業を行う必要がありそうだと私は感じています。他教科の先生との連携も重要になりそうですが、望月先生はどうお考えですか?
望月先生:私は中学校勤務でしたから、高校のことに詳しくありませんが、年度末に翌年度の「教育課程」をつくる際に、他教科の先生方と話し合い(授業の時期など)分野を配置していました。
-そのようなご対応をされているのですね。「情報Ⅰ」にどう取り組むのが良いのか、望月先生のお考えを教えていただけますか?
望月先生:先ほどの記事にもありますが、「・・・今やっていることがまったく変わるわけではない。基本は現行の情報科の内容をしっかりとやること。・・・」そのとおりだと思います。これまでは受験科目ではないということもあって、重要度を高く見ていなかったかもしれませんし。
受験科目になったから力を入れるということではなく、
- 今の情報社会に必要な基本的な力
- 将来の仕事にも役立つ一般的な「情報活用力」
を身につけるのが、教科「情報」だと私は考えています。それは、高校段階だけでなく、小学校から始めることなので、小学校・中学校の先生方とも無関係ではありません。
-「情報活用力」を身につけるのが大事という点、確かにそうですね。
文部科学省の資料でも、「『情報活用能力』は,世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え,情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して,問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力」と示されており、グローバル化が進む世の中で生き抜く力を培うために重要な要素だと思います。
参考資料:第2章 情報活用能力の育成 - 文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20200608-mxt_jogai01-000003284_003.pdf
-「小学校・中学校の先生方とも無関係ではない」という点も確かにその通りだと感じたのですが、高校の先生方が小学校・中学校の先生方と連携を取るのは大変なのではないかという印象も受けました。
もちろん熱心な先生方が学会や研究会・勉強会等で自主的に交流を重ねられているのではないかとも思うのですが、現場の先生方はどのように他校種の先生方と連携を取られているのでしょうか?
望月先生:小学校なら小学校、中学校なら中学校、というように、同じ校種の先生方との交流がメインになっており、他校種の先生との交流がほとんどないのが実態です。そのため、「小中連携」という形で合同研修会を行って、それぞれの授業を見合ったり、情報交換をしたり、ということが始まっていますね。
義務制の学校と高校だと、さらに交流がないのではないでしょうか。
高校でどんな授業を行っているのか、逆に高校の先生が中学校の授業内容を知る機会もほとんどないのではないかと思います。
小学校の先生方は、中学校・高校でどんな授業が行われているのか、内容がどう変わってきているのか知る必要があると思いますし、高校の先生方は、小学校・中学校でどんな授業・内容が行われているのかもっと知っていくと、どこから始めればよいのか、どこにポイントを置いていけばよいのか見えてくるものがあるのではないでしょうか。中学校はもちろん、小学校と高校を見ていく必要がありますね。
これらは、「情報」に限ったことではありません。
このようなしくみができると、「情報」の授業も自然と内容が絞られ・充実していくのではないでしょうか。
高等学校「学習指導要領」総則にも、
「現行の中学校学習指導要領を踏まえ,中学校教育までの学習の成果が高等学校教育に円滑に接続され,高等学校教育段階の終わりまでに育成することを目指す資質・能力を,生徒が確実に身に付けることができるよう工夫すること。・・・」と書かれていますね。
参考資料:高等学校 学習指導要領(平成 30 年告示)
https://www.mext.go.jp/content/1384661_6_1_3.pdf
-現場の先生方の状況を教えてくださり、ありがとうございます。
今後の教育を考えていくうえで望月先生がご指摘されたように、情報科に限らず「小学校の先生方は、中学校・高校でどんな授業が行われているのか、内容がどう変わってきているのか知る必要があると思いますし、高校の先生方は、小学校・中学校でどんな授業・内容が行われているのかもっと知っていく」ことが重要だと感じました。
現在の日本の教育システムでは難しい面もあるかとは思いますが、「小中連携」という形で合同研修会を行う動きもあるとのことですし、どのようにすれば小学校・中学校・高校の先生方がよりお互いのことを知り、連携していけるのかを今後、さらに検討していく必要性を認識することができました。
-お忙しい中、情報Ⅰおよび教育現場の状況についてについて色々、ご教授くださり、大変ありがとうございました。
今回のシリーズはおかげさまでITmediaオルタナティブブログの人気記事にもランクインし、読者の皆様の情報Ⅰへの関心の強さが伝わってきました。望月先生、記事を読んでくださった読者の皆様、今回もありがとうございました。
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