「情報1」がどうして話題になっているのか
情報教育に関するさまざまな取り組みをされている望月陽一郎 先生に、今シリーズ(全3回予定)では高等学校で2022年4月から開始された「情報Ⅰ」の授業についてお話を伺いたいと思います。第1回目の今回は「情報Ⅰ」がどうして話題になっているのかについてお聞きします。
【望月先生 プロフィール】
大分県立芸術文化短期大学非常勤講師。Forbes Japan電子版オフィシャルコラムニスト。公立中学校理科教諭(理科)・大分県教育センター指導主事(情報教育)・大分県主幹等を経験されています。プログラミング関係では、自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』」を個人サイトにて公開されています。http://mochizuki.net/
●第1回「情報Ⅰ」がどうして話題になっているのか
-2022年4月から高等学校で「情報Ⅰ」の授業が開始され、教育現場の先生方が新たなご対応をされていることと思います。そこで、望月先生にいくつか質問をさせてください。
様々なメディアで情報科「情報Ⅰ」の授業開始について取り上げられていますが、なぜこれほど「情報Ⅰ」が話題になっているのでしょうか。
望月先生:10年に一度、学習指導要領改定があります。高校では、今年度の1年生から順次新しい学習指導要領に沿った授業内容に変わっていきます。その中で注目されているのが、
共通必履修科目である「情報Ⅰ」ですね。2024年度からの大学共通テストでも国・数・理・社・外国語そして情報が必須受験科目になります。
-なるほど。そのような事情があったのですね。「情報Ⅰ」が大学共通テストでの受験科目に追加されるというのはインパクトがありますね。また、今までは「GIGAスクール端末は、iPadを利用する高校が多いのかな?」と思っていましたが、Chromebookを利用する高校も増えているようです。
参考:公立高校でChromebook1人1台環境、3年間の活用で見えためざす学びの方向性――岡山県立林野高等学校の取り組みhttps://www.watch.impress.co.jp/kodomo_it/1to1/1289199.html
導入する端末が情報科の授業に与える影響はありますか?
望月先生:情報の内容はさまざまな分野にまたがります。その中でたとえばプログラミングの分野だけでいうと、ブラウザ版でプログラミングするなら影響は少ないと思いますが、iPadとChromebookでは、つくったプログラムを転送することに違いが出ることがあるかもしれません。iPadはそのままでは機器とUSB接続できない場合があるからです。
-なるほど。そのような不安もありますね。そして、「情報Ⅰ」が共通必履修科目になることで、教室のネットワーク環境の充実・安定がより求められるのではないかと思います。現状では、学校の無線LANなどのネットワーク環境はどの程度、充実しているのでしょうか?
望月先生:まだまだ学校や自治体ごとに違っているのではないかと思います。「情報Ⅰ」だけでなくすべての教科でGIGAスクール端末を使うことを考えると、ネット環境の増強は大切ですね。
-たしかにそうですね。
また、以下の記事によると、臨時免許状・免許外教科担任で情報科を教えている教員が多い都道府県もあるようです。そのような状況で先生方が日々の授業や共通テスト対策まできちんと行うことができるのか不安に感じております。現場の現状はどうなっているのでしょうか?
参考:「情報I」2022年4月スタート、目的・学ぶ内容は?(6/6更新)https://reseed.resemom.jp/article/2022/01/21/3169.html
望月先生:新課程が高校1年生からなので(2年生は今年も来年も旧課程)、今年度「情報Ⅰ」の授業をしている学校と、していない学校があるようです。その場合、来年度どう教えるか対策をすればよい、と見ている学校もあるのかもしれません。
共通テストについては、2025年1月受験生が最初の学年となるので、過去問による対策は難しいとも言えますね。
-過去問による対策が難しいという状況の中、2025年1月に向けて先生方がどのように対策されていかれるのか気になりました。
望月先生:まだ授業が始まったばかりですが、情報の「サンプル問題」が大学入試センターから公開されています。これから少しずつ内容がわかってくるのではないでしょうか。
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7ikou.html
-『情報』のサンプル問題を拝見したのですが、サッカーの戦略の立て方や比例代表選挙の当選者を決定する仕組みのプログラミング(各政党に配分する議席数(当選者数)を決める方法)など、高校生の興味を引くモチーフを扱っていて作り手の創意工夫を感じました。
また、2011 年の東日本大震災の後にまとめられた報告書「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方について」を題材にして、なぜ震災時にSNSが活躍したのかなどを考えさせる問題も興味深かったです。『情報Ⅰ』の現実の生活で活用できる題材を扱っていこうという姿勢がサンプル問題からも見受けられた感があります。
そして、「モノクロの画像を 16 画素モノクロ8階調のデジタルデータに変換する手順」の問題やIPアドレスの問題は、私が約20年前に情報処理二種(現・基本情報技術者)やドットコムマスターを受験した時と同じような出題形式になっており比較的試験対策しやすいと推察されます。
しかし、例えば「比例代表選挙で各政党の当選者数を決める仕組み」を考える問題はアルゴリズムをしっかり考えられるスキル・練習が必要でしょうし、『政治・経済』の知識があると有利なのではないかと思いました。そこで、次回は情報Ⅰのプログラミング分野についてもお聞きできればと考えています。
今回は情報Ⅰがなぜ話題になっているのかをテーマに、様々なお話をしてくださりありがとうございました。現時点では新課程と旧課程が入り乱れた状況のようなので大変そうですが、また次年度以降に改めてお話を伺えればと思いました。
望月先生、次回もどうぞ、よろしくお願いいたします。
>>「『情報Ⅰ』のプログラミング分野について」(第2回)に続く(2022年8月公開予定)
追記 2022年7月19日 15:40
ご指摘をいただき、「必修科目」を「必履修科目」という言葉に修正しました。
追記 2022年7月19日 21:30
学習指導要綱「情報」の表記に従い、「共通必履修科目」に修正しました。
追記 2022年9月5日 22:45
記事の題名が文字化けしていたため、「情報Ⅰ」を「情報1」に改めました。