リブート第19回「リフレクションシートから見る『主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)』の視点」
教育現場のICT活用について伺いました(2017/01/16初公開分をリブート)
リブートシリーズ・・・2013年から不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。
この春まで中学校で教諭をされておられた望月陽一郎 先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎先生・略歴】
元中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経験されています。
【前回の概要】前回(リブート第18回目)では「子どもたちが望月先生の授業をどのように感じ、受け止めていたのか」についてお話を伺いました。望月先生は「毎時間の授業でリフレクションを行っていますが、学期末にも学期全体のリフレクションを書いてもらい、子供たちに感想(先生への通知表)をまとめてもらって」いるそうです。
その結果、子供たちからは「リフレクションのおかげで、先生がぼくたちのわからないところを次の時に補足してくれるのがわかりやすい」との声が出ているそうです。今回は望月先生が授業で使用している「リフレクションシート」から見た授業の工夫を中心に伺いました。
「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」とは
―新年(2017年当時)最初のインタビューとなりました。まず昨年(2017年当時の2016年)のふり返りとして、これからの授業改善のキーワードとなっている「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」について、先生の現段階でのとらえ方を教えていただけますか。
望月先生:文部科学省の資料にあるタイトルなどから、「アクティブ・ラーニング」という言葉に代わり「主体的・対話的で深い学び」がメインになってきていますね。
【参考】中央教育審議会(第109回) 配付資料
▼http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/1380836.htm
―なるほど。確かに資料のタイトルを読んでも「アクティブ・ラーニング」という言葉がメインではなくなっていますね。
望月先生:これは、大学などでいう「アクティブ・ラーニング」という手法と、授業改善に向けた「アクティブ・ラーニングの視点」。別のものをさしていると思われる2つの混同を避けるためだと思います。
- 「アクティブ・ラーニング」・・・手法、やり方
- 「アクティブ・ラーニングの視点」・・・子供たちが学びに向かっているか、学習者側からの視点
これを新しい言葉で置き換えると、
- 「アクティブ・ラーニング」・・・手法、やり方
- 「主体的・対話的で深い学び」の視点・・・子供たちが学びに向かっているか、学習者側からの視点
となりますから、こうしてみると整理できます。「アクティブ・ラーニング」という手法で、「主体的・対話的で深い学び」を促す、という表現もできますね。
言葉の使い分けでいうと、例えば
- 新しいことに取り組む(実践する)
- みんなに広げる(啓発する)
というこのふたつは実は向いている方向が違います。前者は自分の前を向き、後者は横あるいは自分の後ろにいる人たちを向いています。啓発するには、取り組んできたことをより一般化してわかりやすい言葉に置き換えていくことが必要です。
―「新しいことに取り組む」(実践)と「みんなに広げる」(啓発)のスタンスが違うという点に着目するのはなぜですか?
望月先生:自分だけが実践するのであれば、他の先生にはできない・合わなくてもよいのです。時々そういう実践例を見ることがありますが、それは「すごい」と言われることでしょう。
一般の先生方に広げていくためには、他の先生が使いやすい・取り入れやすいものに「一般化」「汎用化」して提示しなければなりません。これができていいないと、「あの先生はすごい」「あの先生だからできる」に終わってしまいます。
―そうですね。授業を完全にマニュアル化することは不可能だと思いますが、先生がおっしゃるように使いやすい・取り入れやすいものに「一般化」「汎用化」する必要を確かに感じます。一般の先生方にとって、「取り入れやすく」「自分たちで実施できる」と感じられるのはとてもよいことだと思います。
そして「一般化」「汎用化」したものが、「子どもたちにとって本当に役立つものか」先生方一人一人がよく検討する必要があると思います。望月先生が過去のインタビューで強調されてきた「授業でのリフレクション」をすることが重要なのかなと。
子供たちのリフレクション(子供たち自身の振り返り・授業を評価)からわかったこと
望月先生:その授業で何をつかんだか、その授業が自分のためになったか、判断するのは、先生側ではなく、子供たち。リフレクションをせずにまだまだ手法を集める段階でとまっている先生も多いかもしれませんね。
私は毎時間リフレクションシートを書いてもらっていますが、2学期の理科授業のリフレクションもテーマごとに書いてもらいました。(びっしりと文章を書いてくれました)
①小テスト(毎時間最初に行う前時間の振り返り)について 多い順
- 語句が覚えられ、よい復習になった。
- 自分が間違えたところが苦手だとわかった。
- 全部○だと次もがんばろうと思う。
- テスト前の情報交換の時間に友だちと教えあえてよい。
- 定期テストにも同じような問題が出てよかった。
これらの文章から、子供たちが小テストに対してどう取り組んでいるかが見えますよね。
②実験・観察について 多い順
- グループ内で楽しく、考えながらできた。
- しっかり安全に気をつけてできた。
- いろいろなオリジナルの機器で、実験のしくみがよくわかった。
- 実験前の説明がテレビで大きく映されわかりやすかった。
- 準備片付けをきちんとしてくれるので実験に集中できた。ありがとうございます。
時間を効率化できるところ(説明をテレビで提示、実験器具をパッケージしておく)を工夫して本来の目的(実験で確かめるなど)に集中し安全を意識してできたようです。
③リフレクション(毎時間最後の授業振り返り・感想(評価)・質問)について 多い順
- 自分がその授業で何がよくて何がよくなかったか意識するようになった。
- 理科の質問をするとシートに答えてくれて、とても参考になった。
- 一言の返事を読むのが楽しみです。
- ルーブリック(自分がどの段階であったか)の判定ができるようになった。
- シートを入れたファイル(ポートフォリオ)が厚くなり見直しに役立った。
一番多い答え(何がよくて何がよくなかったか意識)は、全員の7割近くを占めていて、授業に対して意識して取り組んでいると子供たち自身が書いてくれたようです。
④KP法(紙プレゼンテーション)、テレビでの提示、iPadの活用について 多い順
- 教科書でチェックするところがテレビに映されるのでよく確認できた。
- 大きく教科書やプリント、器具などを映してくれるので説明が分かりやすかった。
- 宇宙の分野で、アプリで宇宙空間が大きく映しだされていてよくわかった。
- 黒板が先生で隠されてしまうことが少なくよく見える。
- KP法は時間短縮になる。
ここについては1学期とあまり変わりませんでしたが、理科室内を小さなプラネタリウムとして授業を進めたことで、3年生の「地球と宇宙」での理解がしやすかったようです。
―望月先生の公開授業を動画でちらと見せていただいたことがありますが、スクリーンに表示されている文字がくっきり・はっきり見えているのが印象的でした。何が大切かわかりやすいのでありがたかったです。何が表示されているか明確に見えるから、子どもたちも迷わずに理科の実験や問題に取り組めるのでしょうね。
私は目が悪くてめがねをかけているので、「字が大きく、教室の後ろから見える」とそれだけでも授業への好感度や集中力が高まります。よく見えないときは、授業について行けない感じがして、授業に取り組む意欲・モチベーションが下がってしまいます。
望月先生の公開授業を拝見して
―望月先生の公開授業の一部を動画で拝見させていただき、印象的だったのは、
- 子どもたちが集中して実験やワークに取り組めるように先生が冷静なトーンで声かけをされていた。
- グループワークの時、子どもたちが活発に話し合いをしていた。
- 理科の実験中に楽しげな雰囲気で満ちていた。
- どこに集中したらいいのかわかりやすい。 などでした。
大型テレビに時折アナログ時計が大きく映し出されていたので、時間の感覚がとてもわかりやすかったです。おそらく時計アプリを使われているのでしょうね。
また、先生がiPadを譜面台のようなスタンドにおいて、立って操作しているのもいいなと思いました。片手で持ったり、テーブルに置いたりすると、動きの制約が出てしまうと思います。望月先生は冷静な話し方かつ遠くまで通る声なので、子どもたちが興奮しすぎることなく授業が進行できているのかなと感じました。
大型テレビの使い方と子どもたちとの掛け合い(対話)がとてもお上手で、子どもたちの思考か活性化している印象を受けました。「どこに集中したらいいのかわかりやすい」ということは、「主体的・対話的で深い学び」を実現するために非常に重要なのではないかと考えさせられました。
指導者の目線と子どもたちの目線の違い
望月先生:子供たちのリフレクションには、苦情もちゃんと書かれています。
- 小テストでヒントが多すぎるときがあります。
- もっと難しい問題を出してほしい。
- 先生の実験が後ろから見えにくいときがあった。
- 先生はわかっているつもりでもわかりづらい人もいます。
- たまに光の反射や人とかぶって見えにくいことがあった。
なるほどと思い、これらの意見は3学期(2017年当時)に活かして改善しようとしているところです。
このように学習者が「主体的・対話的で深い学び」に向かっているか、その「学習者視点」から授業改善をしていくことが大切だと思います。
プログラミング的思考の重要性
―望月先生、年初(2017年当時)から貴重なお話をありがとうございました。最近「プログラミング教育」「プログラミング的思考」という言葉が多く見られてきましたが、先生はどうお考えですか。
望月先生:プログラミングを過去教えていた(先生方向けの研修で)経験からいうと、
- 「プログラミング的思考」ができる人は、「プログラミング」ができるようになることが多い。
- 「プログラミング」ができるからといって、「プログラミング的思考」ができているとは限らない。
ということです。プログラミング的思考とはいわゆる論理的思考(ロジカル・シンキング)の一つと捉えることができます。これは理科で実験や観察する場合でもとても大切なものです。
―プログラミング的思考についてもお話しくださり、大変ありがとうございました。
プログラミングを学んでみても文法や書き方がわかるだけで、自分でオリジナルプログラミングすることは苦手な人もたくさんいます。ロジカル・シンキングが苦手な人はアルゴリズムでつまずくので、職業訓練校でもフローチャートを作成しながらアルゴリズムのトレーニングをする時間を取っていました。
論理的思考(ロジカル・シンキング)はプログラミングに限らず、望月先生がおっしゃるように各教科の授業で、もっと大きく言えば仕事や日常生活でも必要になってきます。子どもたちに早い段階でロジカル・シンキングを育てられる場を設けるのは非常に大切なことだと思います。
今回も大切なお話をありがとうございました。
おわりに
「文部科学省の資料にあるタイトルなどから『アクティブ・ラーニング』という言葉に代わり『主体的・対話的で深い学び』がメインになっています」というご指摘が興味深かったです。一部メディアでは「アクティブ・ラーニングを導入」とか「アクティブ・ラーニングという手法」という表現が使われていました。先生のおかげで言葉の整理ができた気がします。
文部科学省が「主体的・対話的で深い学び」という表現を使用するようになったということをふまえて、「主体的・対話的で深い学び」を促す、知的に興味深い授業が展開されることを願っています。
そして、受験期の中学校でお忙しい中、インタビューにお答えくださった望月先生と、記事を読んでくださった皆さまに感謝の念が堪えません。今年(2017年当時)も教育現場からのお話を取材し、お伝えしていきたいと思います。最後までお読みいただき、大変ありがとうございました。
>>リブート20回「『主体的・対話的で深い学び』を促すための『板書・教材提示のバランス』」(5月15日公開予定)につづく
Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の45の取組みが紹介されています。