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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

リブート第17回「アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善(その2)」

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教育現場のICT活用について伺いました(2016/07/15初公開分をリブート)

リブートシリーズ・・・2013年から不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。


この春まで中学校で教諭をされておられた望月陽一郎 先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。

【望月陽一郎先生・略歴】
元中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経験されています。


【前回の概要】前回(リブート第16回目)「アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善(その1)」では、

  • 【実践例1】リフレクション(振り返り)シートのポートフォリオ
  • 【実践例2】KPシートバンクシステム

という、2つの実践例について伺いました。

オルタナティブ・ブログの最近(2016年当時)の記事ランキングで最高5位になり、読者の関心の高さが伝わってきました。先生の周りの反響はいかがでしたか。

望月先生:校内で紹介しました。また、知り合いの方々から多くシェアしていただいたのもうれしかったですね。

先日(2016年当時)、他校の理科の先生方に、「アクティブ・ラーニング(今は「主体的・対話的で深い学び」)の視点」について話をさせていただく機会があり、その際、授業で子供たちが取り組んだ「プログラミング学習」についても紹介しました。

―そうだったのですね! ぜひ詳細を伺いたいです。


【実践例3】理科授業における「プログラミング学習」とは

―さて、現在の学習指導要領でも「プログラミング教育」はすでに中学校では技術・家庭科で行っていると以前にお話くださいました。望月先生も理科でプログラミング教育を行っていると聞きましたが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか。

望月先生:今(2016年当時)「小学校におけるプログラミング教育の必修化」が話題になっています。それは、プログラミング教育という教科ができたりするのではなく、各教科の内容の中で「プログラミング思考を身につけさせる」ことと示されています。

残念ながら、これを「コーディング(プログラミング言語を用いた記述)を教えること」と思っている方が少なからずおられるようですね。

参考資料
▼小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について (議論の取りまとめ)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/07/08/1373901_12.pdf
(プログラミング教育の実施に当たっては、コーディングを覚えることが目的ではないことを明確に共有していくことが不可欠である。...という記述があります。)

今回、理科の授業で「プログラミング学習」に取り組んでみたのは、「話題のプログラミング教育を先取りしてどんな工夫ができるか、子供たちと一緒にやってみよう」と考えたからです。子供たちも初めて取り組むので積極的でした。

また、「誤解」を受けないよう、タブレットやPCを使わずワークシート(紙ベース)での活動にしました。

質問1:その「誤解」とは

望月先生:プログラミング学習に取り込むというのは、「タブレットやPCを使うことだ」という誤解です。先ほど述べた「コーディング(プログラミング言語を用いた記述)を教える」のだという誤解に近いものがありますね。

私は、子供たちが論理的に考え、課題を解決していくためにどんな組み合わせ・順番で行っていけばよいのかを工夫することが「プログラミング的思考の育成」だと考えています。そこで今回は、ワークシート(紙ベース)で実践することにしました。

―職業訓練校のプログラミング講座でも、先輩講師が冒頭に必ず、初心者の生徒さんに紙ベースでアルゴリズムを考える練習をさせていました。「プログラミング的思考」を育てるのは、私も大切なことだと思います。

質問2:具体的にはどのような取り組みをされているのですか?

望月先生:中学校1年生の理科では、植物分野に取り組んでいます。そのまとめとして、「ある植物を分類するためのプログラムを考えてみよう」という活動を組み込みました。それまで取り組んできたことのまとめをさせるとともに、身につけた知識を単発のもので終わらせるのではなく、関連・連結したものとして深めていくことを目的としました。

・グループごとにプログラミングを考える。

子供たちはこれまでのノートや教科書を見ながら話し合い、自分たち独自の分け方を考えていました。それは私から「一番よくできたプログラムを採用して形にしてあげるよ」という目標を提示されていたからです。

・グループごとに公開プレゼンをする。

その後、それぞれで作ったワークシート上のプログラムによって、私が提示する写真の植物(教科書等にないもの)を実際に分類してみる公開プレゼンをしてもらいました。同じプログラム(分類の手順)ができていそうでいて、実際には意外とグループごとに違っていました。これがプログラミングのオリジナル性ですね。

途中で分類がつまってしまう場面もありましたが、「リベンジさせてください!」というグループもありました。

最後にその中の一つを採用して、keynoteにより「質問に答えていくと分類させるプログラム」を作成しました。形にしたものを見ることで、子供たちは「次回は私たちのグループが採用されたい!」と意欲を燃やしていました。

発展として、次の単元の「どのように物質を区別するか」実験手順を、プログラミングワークシートを使い考えてもらったところ、グループでそれぞれ手順を工夫することで、必要な実験器具を選択 → 実験、と筋道を立て効率的に思考する力につながっています。

―子どもたちがアルゴリズムを考えたということですね。自分たちの取組が採用されたら、子どもたちはうれしいでしょうし、学習やプレゼンに「アクティブに取り組む」意欲が湧きますね。

質問3:以前のインタビューではパワーポイントを使っている(デジタル・フラッシュカード)とお話がありました。今回、keynoteを使ったのはなぜでしょうか。

望月先生:以前は、Microsoft・NECからサポートしていただいていましたが、その後は学校にあるiPadしか使えないので、keynoteを使いました。以前紹介したマクロでスライドをランダム表示させる「デジタル・フラッシュカード」は残念ながら今は使えないのです。

▼デジタル教材「ランダムフラッシュカード」-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-
http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2018/02/flashcard.html


【実践例4】「プロジェクション・ワークシート」の取り組み

質問1:アクティブ・ラーニング(今は「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善としての、「プロジェクション・ワークシート」の取組について教えてください。

望月先生:これは他の先生が、私のICT活用を見て「やってみたい」という相談から話が広がったものです。

理科で「力の作図をしてみよう」という授業の後、リフレクション・シートを読むと、「どうもわかりにくかった」という感想があり、悩みました。そこで子供たちが持っているワークシートを直接黒板に映し(タブレットで撮影し投影)、そこにチョークで作図をしながら説明してみました。ワークシート自体をプロジェクターで投影する「プロジェクション・ワークシート」です。

子供たちの持っているワークシートをそのまま投影し書き込むので、子供たちは、自分のシートと比較しながら考えたり同じようにやってみたりすることができます。これはいわゆる「スライドで説明する」ということとは少し違いますよね。

それをたまたま見ていた他教科の先生が、「自分も同じようなことをやってみたい」と相談にきたため、使い方をアドバイスしたわけです。

―タブレットを使って、プロジェクションマッピングのようなことをされているのですね。黒板にシートを映してチョークで書き込んでいくと、自由度があり子どもたちにとってもわかりやすいでしょうね。

質問2:他教科の先生に使い方をアドバイスされたとのこと。具体的にはどのようなアドバイスをされたのですか。

望月先生:iPadの使い方自体については、そその先生ご自身がiPhoneを使われていたので、必要ありませんでした。

説明したのは、

  • 学校のiPadとプロジェクターのつなぎかた。
  • 画像を表示する工夫(アイデア)
  • iPadへの画像の送り込み方

などです。後は授業で使っている様子を見学に行ったりヘルプに答えたりですね。

質問3:望月先生が担当している理科と他の教科では、工夫の仕方は異なりますか。それとも同じですか。

望月先生:もちろん異なります。

以前、教職員研修(ICT研修)を担当していたときは、いろいろな教科の先生方をまとめて行っていました。こちらが示すのもどの教科にも共通する使い方のヒントであって、「授業での工夫の仕方」を考えるのは、その先生自身です。
この場合でいえば、「プロジェクション・ワークシート」というヒントですね。

私は理科で作図に使っていましたし、たとえば英語ではアクティビティのための画像表示に使ったりします。

相談に来た先生が今はプロジェクターをよく使っています。また、その様子を他の先生が見て、「いいですね、使ってみようかな」とも言っています。そういう広がりから新しいプロジェクターを学校で購入することにもつながりました。

―他の教科の先生方にも取組が広まっているのですね。たとえば、パワーポイント上にマウスで書き込むこともできますが、手書きに比べると書きにくさがあります。黒板にチョークで手書きできるところがいいなあ、と思いました。

望月先生: これらを通して子供たちがアクティブに取り組んでいく姿が実現できること。それが「アクティブ・ラーニング(今は「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善」につながると思います。

参考資料
▼「総則・評価特別部会、小学校部会、中学校部会、高等学校部会における議論の取りまとめ(案)」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/siryo/attach/1374151.htm
「主体的・対話的で深い学び」とは、特定の指導方法のことでも、学校教育における教員の意図性を否定することでもない。教員が教えることにしっかりと関わり、子供たちに求められる資質・能力を育むためにはどのような学びが必要かを絶え間なく考え、授業の工夫・改善を重ねていけるようにすることで、子供たちの「主体的・対話的で深い学び」を実現しようとする営みなのである。...という記述があります。)

まとめ

今回は主に

  • 「理科の授業の中で行ったプログラミング学習」について
    (なぜ紙ベースで行ったのか、先生の意図・狙い)
  • 「プロジェクション・ワークシート」を実践した、他教科の先生の事例

についてお話を伺いました。

プログラミング学習で大切なのは、

  • プログラミング言語を教えることよりも「プログラミング的思考」を育てることの方が重要である。

と考えていらっしゃることが伝わってきました。

私が勤務していた学校のプログラミング科でも、アルゴリズムおよびフローチャート作成のトレーニングが重視されていました。プログラミング的思考が身についていると、使用言語が変わっても適用しやすいですし、プログラミング以外のことにも役に立つからです。

私の経験談になってしまいますが、デザイン科内のプログラミング講座だと、時間数が足りない関係でいきなりスクリプト言語を教えてしまうことが多かったです。プログラミング初心者が多いにも関わらず、アルゴリズム等を学ぶ時間をあまり作れなかったので、歯がゆくなることもありました。

望月先生のお話の中で、

「小学校でのプログラミング教育の必修化」が話題になっています。それは、プログラミング教育という教科ができたりするのではなく、各教科の内容の中で「プログラミング思考を身につけさせる」ことと示されています。

というご指摘がありました。

学校教育内でプログラミング的思考を育てることができれば、社会人になってから役立つ場面がたくさんあると思います。「小学校でのプログラミング教育の必修化」が良い形で実現されていけば、と願っています。望月先生の事例が、多くの先生方のお役に立つことを私も願っています。

【追記】

初の試み(2016年当時)として、何を質問したのかわかりやすくするために、質問1、質問2・・・という表記を使いました。読者のみなさまにとってわかりやすいかどうか、表記についてもご感想をいただけましたらうれしいです。

>>リブート18回「アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善 学期末の子供たちの感想編」(4月15日公開予定)につづく

Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki

参考記事

先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の45の取組みが紹介されています。

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