リブート第13回「デジタル教材『ランダムフラッシュカード』-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-」
現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました(2015/8/7初公開分をリブート)
リブートシリーズ・・・2013年から不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。
中学校で教諭をされておられる望月陽一郎 先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎先生・略歴】
大分市中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経て、現職。
【前回の概要】
前回(リブート第12回目)は、理科が専門の望月先生がアルコ-ルランプなどの実験器具とICT機器とのかかわりや、実験でのタブレット活用例などについて、3つの観点から説明してくださいました。
・火気の扱い方とICT機器とのかかわり
※ガスバーナーの使い方を説明する際、「タブレットのカメラで撮影してもらう」。
・薬品とICT機器とのかかわり
※実験の際に一つ一つの「行動を分ける」ことを意識させる中で、「タブレットにつかない よう」注意させている。
・デジタルとアナログの使い分けについて
※「実験においてICT機器を活用する場合とは、実験を行うにあたって『困り』がある場合」である。
13回目の今回は、望月先生が授業で活用されている自作のデジタル教材について、さらに詳細をお伺いしたいと思います。
自作のデジタル教材について
-たとえば小学校の算数の授業で展開図を説明するとき、デジタル教材を使うと「アニメーションで説明できる」ので、子どもたちがイメージしやすいというメリットがあります。理科でも、デジタル教材ならではの強みがあるのではないかと思います。望月先生が普段使っている理科のデジタル教材について教えていただけますか。
望月先生:最近(2015年当時)、子供たちが化学式を覚えるための教材として、スライドを使った「デジタルフラッシュカード」を作りました。
-その教材を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
望月先生:タブレットミーティング(グル-プ活用)で使えるのではないかと考えたものです。グループの一人がタブレットを持ち、化学式の問題を出し、それをグループの人たちが答えて練習するというフラッシュカードです。子供たちはグループ活動を普段からしているのですぐできると思いました。
しかし、これまでスライドによる「デジタルフラッシュカード(フラッシュ型教材)」を作り使ってきましたが、
- いつも同じ順番で表示される。
- 繰り返すと、次に何が出るかを予想する子供が出てくる。
という欠点がありました。
そこで、
- 表示される順番が毎回変わる「ランダムフラッシュカード」
を考えることにしました。
それを可能とするため、PowerPointのマクロを使うことにしました。
-マクロを使われたのですね。マイクロソフトの公式サイトに、「マクロの記録は・・・Microsoft PowerPoint 2013 またはPowerPoint 2016では利用できません。代わりに、Visual Basic for Applications (VBA)を使ってマクロの作成や編集を行うことができます。」と書かれています。
参照:PowerPoint でマクロを作成する
▼ https://support.office.com/ja-jp/article/PowerPoint-でマクロを作成する-5b07aff6-4dc9-462f-8fc9-66b4c5344e7e?ui=ja-JP&rs=ja-JP&ad=JP
-マクロは操作を記録することで作業の効率化を図るために使うものだと思い込んでいました。ランダムフラッシュカードにマクロを使おうと思った望月先生のアイディアがすごいですね。「出てくるカードの順番をランダムに変える」ということは、VBAを組まれたのですか?
望月先生:そういう機能を持たせられないかと、検索して調べたPowerPointマクロのいくつかを組み合わせ、スライドショーするたびに表示される問題の順番が変わるフラッシュカードができました。(すべて並び替えられるため、問題カードのみ)
-使ってよかった点や、子供たちの反応を教えていただけますか。
望月先生:化学式を覚えるグル-プ活動で、子供たちに「ランダムフラッシュカード」を使って練習してもらったところ、「これやりやすい!」という感想でした。(マクロの実行も子供たちに操作してもらいました)
-たしかに毎回、出題順が同じだと飽きてしまいますよね。しかし、毎回出てくる順番が変わるとなると、子供たちは暗記で対応できなくなります。子供たちが「おおっ!? 」という感じになって、内容に集中できそうですね。
望月先生:何度かグループで練習した後、小テストしてみたところ、満点をとる子供が多くでました。
ただグループで声を出し解答するだけでなく、グループの中で
- 全員で答えるのではなく順番に解答するなど、出し方をあれこれ変えてみる。
- わからない人にはアドバイスしたり、あらかじめ配られていた化学式一覧プリントで覚え方を教えあったりする。
などさらに工夫している様子も見られました。
-子供たちが自発的に工夫して学習に取り組んでいるのがとてもいいなあ、と思いました。フラッシュカードを使うと、子供たちもゲーム感覚になって集中して取り組めそうですね。「ランダムフラッシュカード」を使ってみて今までと変わったところがありますか?
望月先生:他の理科の先生からも「使ってみたい」という要望があり、タブレットと「ランダムフラッシュカード」の使い方を説明し、実際に使ってもらいました。
-マクロはデータの中身をいじったり、使う環境(ソフトのバージョンなど)が変わったりすると動かなくなることがあります。デジタルフラッシュカードは他の先生が使っても大丈夫でしたか?また、他にメリットがありましたか?
望月先生:タブレットごと使ってもらったので、トラブルはありませんでした。また、「ランダムフラッシュカード」の他のメリットは、
- マクロが表示スライドの内容や枚数に関係しないようにしているので、問題を書きかえたり、スライドを追加削除したりするのが簡単である。
- 内容を書きかえれば、理科に限らず他教科でも使える。
などがありますね。
-とてもいいですね! 「マクロが表示スライドの内容や枚数に関係しない」という作り方、とても大事な点だと感じました。他の先生が使いやすいように汎用性が高い作りにするのは大切なことだと思います。教材が他教科でも使えるのは、大きな魅力ですね。
望月先生:欠点は、
- Windowsタブレット+PowerPointでしか動作しない。
ということです。
-なるほど。iPadやAndroidタブレット用のOfficeもありますが、マクロが使えませんものね。スライドを再生するだけならできますが。
参照元:さまざまなプラットフォームの PowerPoint 機能の比較 Microsoft
▼ https://support.office.com/ja-jp/article/さまざまなプラットフォームの-PowerPoint-機能の比較-90986850-227c-4b25-938e-1c5838166b8b
参照元:PC版と何が違う?Office for iPadでできること、できないことまとめ 週刊アスキー
▼ http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/273/273155/
-PC版と比較すると、サポートされている機能がまだ少ない(2015年当時)ようですね。Windowsタブレット+PowerPoint以外の組み合わせでも、マクロ機能が使えるようになったら、格段にデジタル教材が作りやすくなりそうですね。
望月先生:OSが違うと難しいのかもしれませんが、教材づくりをする際にプログラミングできると、できることが広がりますからね。
まとめ
今回は、望月先生がPowerPointのマクロ機能を利用して自作した「ランダムフラッシュカード」について伺うことができました。スライドショーをするたびに、出てくる問題が変わるフラッシュカードは、子供たちの能動的な活動へのメリットが大きいようです。
- マクロが表示スライドの内容や枚数に関係しないので、問題の書きかえ、スライドの追加削除が自由。
- 理科だけでなく、他教科でも使える。
という点は、作成する先生にとっても大きなメリットになるのではないでしょうか。
「Windowsタブレット+PowerPointでのみ動作する」という制約があることを頭に置いて使えば、Windowsタブレットがある学校にとって大変便利なデジタル教材ではないかと思いました。
iPadは教育現場でとても便利なタブレットです。しかし、PowerPoint for iPadは、PC版に較べると、スライドアニメーションやコメントなどの編集や追加ができないところがあります。PowerPointアプリのサポートの範囲がさらに拡がると、デジタル教材の可能性が更にひろがるのではないかという印象を受けました。
お忙しい中、詳細にお話しくださった望月先生とインタビューを読んでくださったみなさまに感謝の気持ちでいっぱいです。この記事が読者の皆さまの教材作成やICT活用のご参考になる事を願っております。
>>リブート14回「ICT活用とジグソー法について-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-」(2月15日公開予定)に続く
Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の45の取組みが紹介されています。