リブート第15回「アクティブ・ラーニングとICT活用について-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-」
現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました(2015/12/25初公開分をリブート)
リブートシリーズ・・・2013年から不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。
中学校で教諭をされておられる望月陽一郎 先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎先生・略歴】
大分市中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経て、現職。
【前回の概要】前回(リブート第14回目)は「子どもたちが主体的に取り組む授業」の実践例として、望月先生が取り組まれている理科の授業におけるジグソー法の事例をお話しいただきました。
- 「主体的・対話的で深い学び(2015年当時は「アクティブ・ラーニング」と表現)」という視点に基づいて、単元デザインを実施
例:「動物について、これまで学んできたことを活かしながら、種類ごとの特徴を調べて分類してみよう」(動物分野のまとめ)として、3時間をひとつのテーマで進行 - 1次プレゼンテーション(説明者が他のグループから来た取材者に説明)、2次プレゼンテーション(取材者が自分のグループに戻り、各自が報告)を行うことで、子どもたちに自発的な学びを促す
※「よい発表の様子を写しておき、参考になるよう映す」という工夫も - ICTを子供たちのジグソー活動を補助する場面で使用
(1.視点を示す場面 2.動きを示す場面 3.時間を示す場面 4.視点を示す場面)
先生がジグソー法に取り組んだのは、「アクティブ・ラーニング(子どもが主体的に学びに取り組む)へ向かうための一つの工夫とする」意図があったそうです。
【筆者注】ジグソー法は「あるテーマについて複数の視点で書かれた資料をグループに分かれて読み、自分なりに納得できた範囲で説明を作って交換し、交換した知識を統合してテーマ全体の理解を構築したり、テーマに関連する課題を解いたりする活動を通して学ぶ、協調的な学習方法」( http://coref.u-tokyo.ac.jp/archives/5515 より引用)を指します。
「アクティブ・ラーニング(今は「主体的・対話的で深い学び」)」について、田村学文部科学省初等中等教育局視学官が以下のように解説しています(2015年10月時点)。
例えば活用の場面で「より積極的に自分の考えを他者に伝える」、習得の場面で「何のために習得するのか、自身にどのような成長があるかを自覚的に習得する」さらには「個別ではなく子ども同士で教え合う、教えてもらう」といった場面でも、子どもの思考は活性化しています。このような学習の状況を授業場面の中に作っていくことがアクティブ・ラーニングにつながります。
そうすると、これまで国内で積極的に行われてきた授業改善の取り組みは、まさにアクティブ・ラーニングであると言えるのです。特に小学校の先生方は熱心に取り組まれており、例えば問題解決的な学習や発見学習、体験活動やグループディスカッション、ディベートなどさまざまにあります。そういったものもアクティブ・ラーニングに含まれると思いますし、もちろん言語活動もアクティブ・ラーニングの範疇に含まれます
15回目の今回は、「アクティブ・ラーニング」とそれに伴うICT活用についてお話を伺いたいと思います。
先生が考える、アクティブ・ラーニングとは
―前回のジグソー法のインタビューは1日でいいね!が100以上増え、現時点(2015年当時)では250いいね!をこえるほど大変反響が大きかったです。ジグソー法への関心がこんなに高いとは驚きました。
望月先生:アクティブ・ラーニングは、こういうコミュニケーション活動のことであるという誤解もまだある、ともいえますね。本来、こういった表面的な手法のことではなく、これらを通して子供たちが授業へ主体的に参加する姿、が、アクティブ・ラーニング(今は「主体的・対話的で深い学び」)だと思うのです。ネット上のタイムラインを見ていると、誤解がまだ多いようです。
―前回のインタビューで、望月先生が「あくまで子どもたちのジグソー活動をサポートする役割として、ICTを活用しています」とおっしゃったことは、授業におけるICT活用について非常に重要だと感じました。
先生は「ICTを使ったアクティブ・ラーニング」について、現在どのように取り組まれていますか?
望月先生:
- 子供たちの実態にあわせたワークシート
- 毎時間のリフレクションシート
- 提示による時間の効率化
- 時計表示による時間の可視化
- 発表時の共有
など、ICTを日常的に使うことで子供たちのアクティブ化を促しています。さらにこの学期末は、「アンコール授業」に取り組みました
―「アンコール授業」とは、どのような内容ですか。
望月先生:実は定期テストで電気分野の結果がよくなく、子供たちのリフレクション(振り返り)の内容にも表れていたため、そこをフォローする工夫はないかと、考えたものです。
学期末のまとめに、
- グループごとにアンコールしたい(もう一度授業を受けたい)内容を話し合わせる。
- 各グループからのアピール(先生へのプレゼンテーション)を行う。
- それぞれのグループに対して、アンコールされた内容をもう一度行う。
という取組です。
―その取組は子どもたち、とっても嬉しかったのではないでしょうか。アンコール授業はどのような感じで行われたのですか。
望月先生:通常の授業と並行しながらあらかじめ「学期末にアンコール授業を行うこと」を予告し、主旨を説明しました。
次の週には、
- アンコールしたい(もう一度授業を受けたい)内容の個人調査を実施(簡単なアンケート)。
- アンケート結果をグラフで提示してみんなで確認する。
授業進度のめどがついたところで、
- アンコールしたい内容についてグループで話し合い、先生へのアピール文を作成し、グループごとに公開アピール。
一種の公開プレゼンテーションですね。この際には、アピール文をその場で写したものをテレビに大きく映しながら、代表者がアピールを行いました。
その次の本番(アンコール授業)では、
- グループごとにアンコールされた内容の授業を受ける。
を行いました。
―なるほど。子どもたち自身に聴きたいことの優先順位を考えさせる(絞らせる)のですね。段取りがとても丁寧だと思います。
最初に予告した上で、子どもたちへの聞き取り調査→子どもたち自身によるアピール文作成→授業へともっていくのはいいなあと感じました。このように段階を踏んでいけば、子どもたちが主体的に取り組もうとするでしょうから。
先生の「アンコール授業」形式だとグループごとに知りたい内容を教えてもらえるから、子どもたちのやる気が出たでしょうね。
ひとつ訊いてみたい点は1グループにどれくらいの時間を取ったかです。望月先生のように経験豊富ならば問題ないと思うのですが、私の場合は時間配分をどれくらいにしたらよいのかで迷うと思います。時間配分をうまくとらないと、複数グループへの授業が1時間で納まらないような気がします。
望月先生:そこも事前に説明しました。
- 1グループだと 50分/6グループ=約8分ずつである。
- 2グループ同じ内容だと、グループを合わせて行えば16分になる。
グループ合同で行うには、グループ間でやりとりして合意ができたことをアピール文に入れること、としました。
機会は一度なので、自分たちにとってどの部分が必要なのか、どうアピールすればよいのかしっかり考えさせ、話合わせました。そういう姿が大事だと思うのです。
―「自分たちに何が必要なのか考えなさい」と言われることで、子どもたちは真剣に取り組みそうですね。
望月先生:本番の「アンコール授業」では、
- それぞれのグループの要望に応じたワークシートを別々に準備。(事前)
- 順番を提示し、自分たちの番以外のグループは教えあいを行うよう指示。
- 最初の班から、教卓の前に集まりワークシートを受け取り着席。テレビに大きく映したワークシートに書き込みながら説明。ワークシートに書き込んだり私の話からメモをとったりしていく子供たちに、その場で質問や問題を出しながら受け答え。
- 時間が来たら次のグループに交替。終わったグループは、他の部分などの教えあいに移行。
50分で4~6種類の授業を行いました。
―この取り組みをやった後のリフレクションでの子供たちの感想はいかがでしたか。
望月先生:リフレクションシートの感想には、「もう一度受けることができよくわかった」「少人数・短時間なのでとても集中できた」「機会があるならもう一度アンコール授業を受けたい」など多く見られました。
―子どもたちが"アクティブ・ラーナー"になるとは、このようなことを言うのでしょうね。子どもたちの様子が私にも伝わってくるようです。
最後にこのインタビューを読んでいる先生方に向けて、アンコール授業に取り組んでみた結果とまとめをお願いできますか。
望月先生:アンコール授業は、私にとっても子供たちにとっても必要だから企画したものです。
- 単元のまとめだからこそできた。
- 通常の授業と並行して少しずつ取り組んできた。
- 個人の希望からグループの話し合い(考えをまとめる)に進めてきた。
- 「アピール」がプレゼンテーションのよい機会になった。
- 少人数で集中できたことは、授業に向かう姿勢の再確認になった。
などが結果としていえるのではないかと思います。
―ありがとうございました。このやり方だと、他の教科でも行えそうですね。
望月先生:「汎用性がありますね」と、このアンコール授業を紹介した先生方から言われました。もちろんICT機器を日常的に活用していますが、子供たちもそのメリットがわかっています。他のグループの画面を見て参考にしている子供も多かったですね。
―「ICTはあくまでも日常的なものとしてさりげなく使う」のが大事だな、と先生のお話を聴いていて感じました。
前回お話しいただいたジグソー法など、コミュニケーション活動を通した授業への主体的な参加がアクティブ・ラーニング(今は「主体的・対話的で深い学び」)であるということが肝なのかなと思いました。
コミュニケーション活動を行えばアクティブ・ラーニングになるわけではないことを失念しないようにしなくては、と身が引き締まりました。ありがとうございました。
まとめ
今回は、「子どもたちが主体的に取り組む授業」の続きとして、理科の授業におけるアクティブ・ラーニング(今は「主体的・対話的で深い学び」)に向けた取組について伺いました。「ICTを日常的なものとしてさりげなく使う」という点も重要ですね。
ただし、ジグソー法やICT利活用はあくまでも手段・ツールに過ぎないという点を意識して、授業に取り組む必要があるのではないか、と感じました。手段・ツールがメインになってしまうと、本末転倒だからです。
私が中学生だった頃(二十数年くらい前)の話になってしまいますが、電気分野はまぎらわしい様々な要素が連続して授業に登場したので理解が難しかったです。
回路・電流・電圧の時に直列・並列回路が出てきたまではよかったのですが、熱量、静電気、磁界などいろいろな要素の区別がつきにくくてまいりました。
しかも、「フレミングの左手の法則」「フレミング右手の法則」の違いはさらにややこしくなります。当時、私のクラスを担当してくださった理科の先生もさまざまな工夫をしていた記憶があります。
京都理科大学の「フォーラム理科教育 No.6」に掲載された「中学校理科第1分野-電気-に関する理解度調査」には、
特に豆電球や電圧計、電流計などを含む電気回路の接続に関しては高校生、大学生ともに理解度は非常に低かった。基本的なことがらについての理解を深める学習が必要である( http://natsci.kyokyo-u.ac.jp/~rigaku/forum/6gou/6gou19-30.pdf p.19より引用)
と書かれています。P.28からp.30に調査結果が載っています。
教える側からしても大変な分野ではないかと思います。先生方のご苦労・ご苦心が調査結果からも伝わってきました。
2013年6月から望月先生のインタビューを始めました。先生のお話が尽きず、15回目まで続けることができました。来年(2015年当時)で3年目に突入するとは、思いもよりませんでした。取材を受けて下さっている望月先生や、インタビューを読んで下さっている皆さまがあってのことだと思います。大変ありがとうございます。
2015年の締めとして、「ICTを活用して効果的にアクティブ・ラーニング(今は「主体的・対話的で深い学び」)に近づく」をお題にお話ししていただきました。
実際に子どもたちと向き合っている学校の先生ならではの事例を、さらに質問していければと考えています。この記事が、読者の皆さまの授業作りのご参考になる事を願っております。
>>リブート16回「アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善(その1)」(3月15日公開予定)に続く
Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の45の取組みが紹介されています。
参照記事
▼学習指導要領の改訂の方向性とアクティブ・ラーニング - 学校とICT
http://www.sky-school-ict.net/shidoyoryo/151218/
▼沖花彰、辻井智子「中学校理科第1分野-電気-に関する理解度調査」(「フォーラム理科教育」No.6 2004)
http://natsci.kyokyo-u.ac.jp/~rigaku/forum/6gou/6gou19-30.pdf
▼中学理科の電気分野の公式総まとめ! - 塾講師station
http://www.juku.st/info/entry/537