リブート第16回「アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善(その1)」
現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました(2016/06/28初公開分をリブート)
リブートシリーズ・・・2013年から不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。
中学校で教諭をされておられる望月陽一郎 先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎先生・略歴】
大分市中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経て、現職。
【前回の概要】前回(リブート第15回目)「アクティブ・ラーニングとICT活用について」では、「アクティブ・ラーニングを促すための授業術」について伺いました。
- 子供たちが授業へ主体的に参加する姿がアクティブ・ラーニングであること
- コミュニケーション活動(ジグソー法など)を行えばアクティブ・ラーニングになるわけではないこと
- ICTは必要な場面で日常的にさりげなく使用していること
などをご説明くださいました。
16回目の今回は、「アクティブ・ラーニングの視点から望月先生が行った授業改善」の工夫についてお話を伺いたいと思います。
―今、行っている実践を教えてください。
望月先生:今年度(2016年当時)小規模校に異動しました。新しい学校であらためて「アクティブ・ラーニング(今は「主体的・対話的で深い学び」)の視点」からの授業改善に取り組みはじめているところです。
今年度(2016年当時)新しく取り組んでいるのは、
- リフレクション(振り返り)シートのポートフォリオ
- KPシートバンクシステム
というものです。
【実践1】リフレクション(振り返り)シートのポートフォリオ
―望月先生が取り組んでいる「リフレクション(振り返り)シートのポートフォリオ」とは? 「ポートフォリオ」ということは、リフレクションシートをフォルダにおさめていく、というイメージだと思いますが、どのようにしているのでしょうか?
望月先生:今年度も、毎時間授業の最後に時間をとって子供たちにリフレクションシートを書いてもらっています。
- 子ども自身の授業への取組(自己評価)
- 授業の理解度・感想(授業の評価)
です。
これ自体は、ずっと取り組んできたことで、子供たち自身が授業にいかに取り組んだかを振り返らせることができるだけでなく、書いてもらった感想などから私自身も授業を振り返ることができます。子供たちの視点から、授業を評価してもらうことにより、授業改善を日々行っています。
これまでも一枚ずつ目を通しコメントを書いたり質問に回答したりして子どもに返却してきましたが、それは単発だったと思い始めました。
そこで、少人数で全校の生徒とかかわることができる環境をいかして、より細かくフォローができないかと考えたわけです。
―それがリフレクションシートのポートフォリオにつながったわけですか?
望月先生:個人ごとのファイルに、返却したリフレクションシートを次々おさめてもらっています。シートにはその時間の小テスト回答欄も載っているので、シート自体をそのまま子ども自身の「授業記録」と考えてもらい、ファイリングしていったらどうだろうと考えました。
―リフレクションシートをポートフォリオにおさめていった結果、子どもたちにどんな変化があったのでしょう?
望月先生:たとえば、学期末テストに向けて、授業でどんな内容を学んだのか、小テストでどんな問いをされ自分がどう解答したのか、自分がその時どんなところができていなかったのか、自分の感想・私のコメントをファイルから探すことで見直すことができると思います。
単発で終わっていたリフレクションシートを、時系列で並べて保管することで、年間を通した学びへの取組になるのではないかと思います。
その結果は、テスト以降・学期末に書いてもらう子供たちのリフレクション(振り返り)で見えてくるでしょう。
【実践2】KPシートバンクシステム
―次に、KPシートバンクシステムとは何ですか?
望月先生:「バンクシステム」とはアニメ作成現場などで出てくることばだったと思います。アニメでは毎回同じ絵を使う場面(決め場面とか)があると、以前使用したセルをとっておいて(バンク=銀行)再利用しています。
KP法(紙プレゼンテーション)で使ったA4のシートも、バンクして再利用することで、
- 子供たちに前の授業とのつながりを意識させる。
- 私自身がシートを再利用することで授業を時間的に効率化できる。
メリットがあります。
―KP法とは紙芝居プレゼンテーションのことですよね?YouTubeに動画がありました。
出典:伝えるということ 川島直さんのKP法(https://m.youtube.com/watch?v=6ROgvpY4x6U)
―「KPシートバンクシステム」を導入してみて、どうですか?以前と変わった点はありましたか?
望月先生:今年度から始めたので、子供たちから見た効果は比較ができないのでまだ分かりませんが、 KPシートを再利用し、黒板上にイメージマップ(キーワードを中心とした構造)を創り出すこともできるので、前の授業(さらに、単元を通して)とのつながりを意識させることができているように思います。
テレビに提示するのと違って、黒板上で構造化できます(提示と板書の組み合わせ)からね。また、板書の時間を節約できることで、授業時間を有効に活用できることにもつながっています。手に持ってフラッシュカード的に使うこともあります。
すでに理科準備室に大量のKPシートが、学年別にバンクされています。1年間たつとかなりの枚数になるでしょうね。
まとめ
「アクティブ・ラーニング(今は「主体的・対話的で深い学び」)の主体は子どもたちである」ことを踏まえて、望月先生が授業改善されていることが伝わってきます。
今回のインタビューを通して、「子どもたちの思考が、学びに向かってアクティブになることがアクティブ・ラーニングである」ことを再認識しました。
先生の目線でアクティブ・ラーニングをとらえるのではなく、
- 子どもたちが学びに向かう姿はアクティブか
- 子どもたちの学ぶ態度・思考はアクティブか
という視点から授業を見直し、工夫していくことが重要なのではないでしょうか。
子どもたちの学びを先生方が理解するために、「リフレクションシート」を活用することは大変有効だと思います。
私の体験ですが、以前の勤務先では毎回、1~3文程度だけ生徒さんたちに授業の感想(リフレクションシート)を書いてもらうことになっていました。
少ない分量でしたので、生徒さんたちが毎日、意欲的に書いてくれました。生徒さんからの質問・疑問への回答は次の日にフィードバックをし、さらにやりとりをしました。
「授業中に質問するのは気が引ける」という生徒さんにも負担が少ない点や、先生に要望を伝えやすい点が、授業中以上に率直な疑問・感想・意見を引き出せたのではないかと考えています。「授業を通して発見したこと」を書いてくれる点は特にありがたかったです。
今回取材した「リフレクションシートのポートフォリオ」および「KPシートバンクシステム」の取り組みが、皆さまのご参考になることを願っています。
【補足】ポートフォリオの定義について
「ポートフォリオ」という言葉は、業界によって意味・使い方が異なります。
【ポートフォリオの使い分け】
業界 |
ポートフォリオが指すもの |
金融 |
投資家が投資している金融商品の組み合わせ |
教育 |
ポートフォリオ評価(法) |
クリエイティブ |
今までの自分の作品を集めて自己PRとして利用するもの |
(注)意味(ポートフォリオが指すもの)の部分は、「ポートフォリオとは - Portfolioの意味と3つの業界での使い方」から引用
たとえばウェブデザイナーにとっての「ポートフォリオ」は"作品集"です。一方、教育系の仕事では"ポートフォリオ評価"を指します。当ブログはIT関係の読者が多いため、参考として前掲記事から教育業界の「ポートフォリオ評価(法)」の解説をご紹介しますね。
これは、生徒たちが学習過程で残したレポートや試験用紙、活動の様子を残した動画や写真などを、ファイルに入れて保存する評価方法です。従来の科目テストや知力テストだけでは測れない個人能力の総合的な学習評価方法(質的評価方法)とされ、様々な教育分野で取り入れられています。
(中略)
教師と共に生徒自身も自己評価を行いながらステップアップしていくというものであるため、保存する情報は生徒たちが自分のことを客観的に見ることができるように意義のあるものを取捨選択していく方式となります。
※ https://creator.mynavi-agent.jp/knowhow/article/what-is-a-portfolio より引用
みなさまのご参考になりましたら幸いです。
>>リブート17回「アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善(その2)」(4月1日公開予定)につづく
Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki
引用記事
▼伝えるということ 川島直さんのKP法
https://m.youtube.com/watch?v=6ROgvpY4x6U
▼ポートフォリオとは - Portfolioの意味と3つの業界での使い方
https://creator.mynavi-agent.jp/knowhow/article/what-is-a-portfolio
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の45の取組みが紹介されています。