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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

リブート第1回「教育とICTを学校現場で実践する取り組み ~望月陽一郎先生のお話より~」

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現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました (2013/06/26初公開分をリブート)


リブートシリーズ・・・2013年から不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。


中学校で教諭をされておられる望月陽一郎先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺いました。望月先生は1980年代後半から現在まで、学校現場でITの活用に取り組まれていらっしゃいます。

【望月陽一郎先生・略歴】
大分市中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経て、現職。

[片岡より]
今回のリブートシリーズでは、当時と今の違い(2013年から4年経っているため)をふまえて、

  • 文章全体の再校正
  • 見出しの追加

等を行いました。


○学校におけるICT活用の「現状」について

  • 先生の情報教育に関するこれまでの取組
  • 学校におけるICT活用について
  • 先生が授業で工夫しているポイント(ICTに限らず)

等をポイントに、シリーズでお話を伺っていきたいと考えています。

第1回は望月先生が実践された学校でのICT活用についてお話を伺いました。

1980年代の「学校におけるICT活用」はどうだったのか?

-今回は、先生が学校で取り組んでおられることを中心にお話を伺えればと思っています。よろしくお願いいたします。まず先生は大分市で教諭になられたあと、大分県教育センターに異動されています。「学校におけるICT活用」に取り組み始めたのは、教育センターへの異動がきっかけになったということでしょうか?

望月先生:そうではありません。若い頃から学校現場で「視聴覚教育」「情報教育」などでICT活用を進めていたため、教育センターに異動して情報教育に関する業務を担当することになったということです。

-なるほど。そうなのですね。ずっと以前から「視情報教育」「情報教育」を担当されていたのですね。理科と兼任されていたということでしょうか?

望月先生:理科という専門教科と、視聴覚・情報教育の担当という意味合いは違います。

初任者の頃から、「校内視聴覚担当」という校内分掌を担当していました。分掌はそれぞれの先生方が受け持っている校内の仕事のことです。

-そうなのですね。先生がPCを使うようになったのはいつ頃ですか。

望月先生:PCを初めてさわったのは、1984年頃。大学時代です。

-年代も教えてくださりありがとうございます。1984年だとまだDOSの時代ですよね。先生はDOSのPCを使われていましたか?それともMacintoshを使われていたのですか?

望月先生:DOSではなく、まだBASICの時代です。大学の研究室にあったPC8801を使わせてもらい、卒業研究の一環で、AMeDASアメダス(自動気象データ収集システム)のデータ解析プログラムなどを自作したのです。PC8801付属のマニュアルしかなかったため、すべて独学でした。

【参考】
▼AMeDASアメダス(自動気象データ収集システム)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%80%E3%82%B9

かつての先生方はプログラミングをして、デジタル教材を作られていたのか?

-失礼しました。1980年代からもうプログラミングをされていたのですね。今でもプログラミングはされていますか?

望月先生:今は仕事が忙しくプログラミングする暇がないです。する必要性も実は感じていません。今は「自分でプログラムする時代」ではなく、「すでにあるデジタル教材を、アプリを使ってどう活用するか」の時代です。それがメインの使い方なのです。

-確かにデータをアプリでどう使うかは大事ですよね。先生方はデジタル教材を、プログラミングを組んで作っているのかと思っていました。「アプリを使って」ということでよろしいのでしょうか?

望月先生:デジタル教材を使うことはあっても、学校の先生方がいちいちプログラミングする必要はないと思います。逆に質問したいのですが、学校の先生方が教材をプログラミングして作っている例があるのでしょうか?

-Excelのマクロで教材を作られている学校の先生のサイトを見かけたので、簡単なプログラミングをされる先生もいるのかなと思った次第です。私が見かけたのは「VBA」で作ったものでした。

【参考】
▼VBA Visual Basic for Applications https://ja.wikipedia.org/wiki/Visual_Basic_for_Applications

望月先生:毎時間の授業のため、毎回VBAで教材をプログラミングするのは大変です。私が理想としているのは、「あまりICTに詳しくない」という先生でも取り組むことができる活用です。ExcelなどのVBA(プログラム言語)は、習得・作成にかなりの時間が必要です。毎時間の授業のために使うのは「現実的ではない」と思います。

-詳しくない先生も取り組むことができるという点は非常に大切ですね。

PowerPointでデジタル教材を作ると、どれくらい時間がかかるのか?

望月先生:私もVBA研修で講師をしていましたので、「プログラミングする・プログラミングを身につける・プログラミングを身につけさせる」大変さを経験してきました。

-VBAは他の言語に比べれば作りやすいと思うのですが、それでも大変ですよね。パワーポイントのアニメ機能で教材を作られていた先生も前に見かけました。そのような作り方のほうが理にかなっていそうですね。

望月先生:パワーポイントのスライド教材作成もけっこう時間がかかります。研修の中で実際にスライド教材を作成してもらうことがよくありましたが、たったひとつの教材を作るのにもかなりの時間が必要です。

-スライド教材は作成にどれくらい時間がかかるのですか?

望月先生:2日間の研修で、学校の先生方が使い方を習い、どの授業の教材を作成するか決めて作成・発表する段階でスライド数枚くらいでした。

1時間の授業の準備をするには、デジタル教材でなくとも、授業と同じ時間がかかるとよくいわれますね。

-それは厳しいですね。毎日準備に時間がかかると、授業に差支えがでてしまいますものね。デジタル教材を自作するとなるともっと大変ですね。

望月先生:参加された先生方の感想にも、

  • おもしろい。効果がありそう。・・・でも時間がかかりそう。

というものが多くありました。そのとおりだと思います。

-本当にそのとおりですね。

インターネットの活用へ。1990年代の「学校におけるICT活用」

望月先生:実際、1990年代、教材作成のための「オーサリングソフト」が一時期導入されかけましたが、結局ほとんど使われないままでした。つまり教材づくりには時間がかかりすぎるということです。

【参考】
▼オーサリングソフト https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%84%E3%83%BC%E3%83%AB

  • 1980年代はBASICでプログラミングした自作教材
  • 1990年代は動画やインターネットで使える自作教材

を作って授業で使ってきましたが、やはり作成時間がすごくかかったものです。

-先生のように高いスキルがあればBASICや動画、インターネット教材を自作して活用できるだろうと思います。しかしICTに慣れていない先生だと使うのも難しいでしょうし、自作するのは無理な気がします。

望月先生: 1990年代当時は、Macで画像を元に動画を作るのに数十時間も試行錯誤していましたからね。ひとつ作り上げるのに夜遅くまでかかりきりでした。

-それは負担が大きいですね...。今(2013年)はウェブで検索すれば様々な情報が見つかりますが、1990年代だとまだ本やマニュアルで調べるのが中心な感じですか? 私がYahoo!で検索を始めたのが1998年でしたが、まだウェブサイトは大学とか研究機関が中心だったような?曖昧な記憶があります。

望月先生:そうですね。その頃1990年代前半、私が公開授業で取り組んだのが、

  • パソコンにセンサーを接続した気象観測
  • 子どもたちが乾湿計を使った気象観測

それぞれのデータを子どもたちにExcelでグラフ化させる活動や、

  • ひまわりの画像を組み合わせた動画の動きを見て翌日の天気を予想させる。

という活動などでした。

2台のPC、Macをそれぞれ2台のプロジェクタにつないで「拡大投影」しながら「子どもたちに考えさせる」授業でした。

-すごい! 1990年代前半は私がまだ高校生の時です。そんな近未来的な授業どころか学校にPCがなかった気がします。

望月先生:1994年頃の話です。

-1995年の時点では、「短大の情報処理の授業はDOSのPCで文字入力だった」と友人から聞きました。ずいぶん内容やレベルが違いますね。

望月先生:そんなことはないですよ。1996年頃にはインターネットを使えるようになりましたから、学校HPを作成公開したりインターネット教材を作ったりしていました。

-それはすごいですね。私がExcelを見たのは大学に編入学した1996年に指導教官のPCでした。工学部のパソコンルームはWindows 3.Xでした。

1996年は大学のパソコンでメールを送るようになりましたが、インターネットを活用した授業なんて大学でも目にしませんでした。大学のPCはTELNETでメールのやりとりは出来ましたが、指導教官が個人で買ったPC(Win95)でないとウェブサイトを見るのも一苦労でした。

モバイルの活用へ。1990年代の「学校におけるICT活用」

望月先生:1998年頃の理科九州大会では、まだ会場の学校にインターネットが接続されていなかったので、分科会の教室からPHSで自分のPCをインターネットに接続しネット上に置いておいたデータを開いてみせ、発表しました。今ではすぐできる簡単なことですけど。

-1998年にPHSの活用ですか。モバイルを活用しての発表はすごいですね。理系だとそれは普通なのでしょうか? 私は文学専攻だったのでローテクな環境過ぎたのかな、と思えて来ました。

望月先生:当時普通にPHS(パルディオ611S)でPCをネット接続していましたね。PCに接続できる専用のPHSを使っていました。

【参考】
▼パルディオ611S http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AA611S

-確か1998年はDDIポケットがPHSを利用した通信でがんばっていた記憶が。そしてiモードでドコモの携帯も流行り始めていたような記憶があります。一般の先生方が望月先生のようにネットを活用するようになられたのはいつくらいなのでしょうか?

望月先生:コンピュータ室がネットにつながったのは1990年代後半くらいから2だったと思います。当時は、40台つなぐとネットが遅くなりなかなかつながりませんでした。

1999年にモバイル環境を使って、文化祭をネット公開(その場で撮影しながら順次学校HPに更新する)という取り組みもしました。半リアルタイム更新ですね。かなりいろいろトライしていました。このあたりまでが、2000年頃までの話です。

-話をまとめてくださり、ありがとうございます。1990年代後半当時で半リアルタイム更新はすごいですね。HTMLソースコードをタグ打ちしないといけなかった時期だったような気がします。ホームページビルダーとかFrontPageはまだ出始めだった気がしますし。

【参考】
▼HTML HyperText Markup Language https://ja.wikipedia.org/wiki/HyperText_Markup_Language

【参考】
▼ホームページビルダー https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%83%93%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC

【参考】
▼FrontPage https://ja.wikipedia.org/wiki/Microsoft_FrontPage

「普通教室におけるICT活用」について

望月先生のICT活用は1990年代の時点ではかなりハイテクだったのではないかと思いましたが、他の先生は当時PCなどICTに関わるものをどれくらい活用されていたのでしょうか?

望月先生:もちろん今(2013年)でもWebページのソースは、タグ(HTML)で打ったりします。ビルダーは使ったことがありません(2013年当時 2017年現在、学校ではホームページビルダーで更新している)。また、コンピュータ室は当時から技術・家庭科の技術の授業を中心に使っていました。

-技術の時間に使われていたのですか。

望月先生:当時は導入されたばかりでしたから、コンピュータ加配教員の先生がサポートしていました。今でも技術・家庭科では情報分野がありますから、そのときにコンピュータ室を使っています。ただ、技術で使っていると、他教科では使えないという問題があります。

-そうだったのですね。私は自分が中1の時に技術・家庭科で木工をしたくらいしかなかったので、技術・家庭科に情報分野があることを知りませんでした。

望月先生:30クラス近くの学校でもコンピュータ室は1教室しかないのです。複数の学年・複数の教科・複数の先生が授業する中学校では、空きをさがして使うのは難しいと思います。

-他教科では使えませんね。

望月先生:そのため、今からは「普通教室におけるICT活用」がメインと考えているわけです。

教育センターでの11年間は先生方の情報教育研修と県内の教育インターネットの管理を担当していました。研修の内容は、前半は「ソフトの使い方」が中心でしたが、後半になると「授業でのICT活用」「情報モラル教育」が中心になりました。そういう変化がありましたね。

-当時だとソフトの使い方から説明しないと使えないですよね。情報モラル教育についてその頃から教育センターで先生方向けの研修があったのですね。今(2013年)ならば教室でのICT活用はiPadなどを使えば可能だろうと思います。しかし2000年頃だと難しかったでしょうね。

望月先生:そういう点から見ても、今はとても「ICT活用が簡単」になってきているのです。

-確かにそんな印象を受けます。

望月先生:【視点】今は、自分でプログラムして・・・というような特別な技能を持った先生方だけの活用を進めるのではなく、「すべての先生方がどう授業でICTを活用していくか」を進めるべき。

それがこれからの情報教育、ICT活用にとって大切なことだと思います。

-確かに。そのとおりですね。

すべての先生方がどう授業でICTを活用していくか

望月先生:授業で子どもたちが「わかる」ためにどんな教材がよいか、かなり毎日悩みます。「わからない子どもがわかるようになる」ことが、本当に「効果がある」ことだと思いますしね。

-そのとおりですね。「わからない子どもがわかるようになる」ことが、本当に効果があることだと私も思います。高校や大学は偏差値などである程度、輪切りされている感はあります。もちろんよく見れば様々な学生たちがいますが、学力という面ではだいたい同じくらいの子を集めている感じがします。

望月先生:今も、毎日の授業の中でいろいろとICTの活用を進めています。「授業パターン」が少しずつできてきました。

-認知特性だけ見てもいろいろなお子さんがいますよね。私も一律に同じ指導を押し付けるのは現状にそぐわないと考えています。

それら授業の様子については、次回具体的にお聞きしたいと思います。

>>リブート第2回「授業を工夫するためにICTを活用する -望月陽一郎 先生-授業で工夫しているICT活用ポイントとは?-」(2017/08/15 公開予定)に続く

Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki.

参考記事

修正履歴:2017.8.2 12:35 冒頭の「改訂」を「再構成」に修正。2017.08.03 15:05 次回の記事の公開予定日を追加。

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