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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

リブート第2回「授業を工夫するためにICTを活用する -望月陽一郎 先生-授業で工夫しているICT活用ポイントとは?-」

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現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました(2013/07/23初公開分をリブート)


リブートシリーズ・・・2013年から不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。


中学校で教諭をされておられる望月陽一郎先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺いました。望月先生は1980年代後半から現在まで、学校現場でITの活用に取り組まれていらっしゃいます。

【望月陽一郎先生・略歴】
大分市中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経て、現職。

[片岡より]
今回のリブートシリーズでは、当時と今の違い(2013年から4年経っているため)をふまえて、

  • 文章全体の再校正
  • 見出しの追加

等を行いました。


前回は「望月先生が実践されてきた学校におけるICT活用」がテーマでした。

【前回の概要】

  • 取り組んできた学校におけるICT活用(1980年代から2000年代まで)
  • これからは「教室におけるICT活用」をめざすべきであること

などを伺いました。

今回は望月先生が学校の授業で工夫されている「ICT活用のポイント」についてお話を伺いました。

授業で工夫している「ICT活用のポイント」について

-望月先生が授業で工夫している「ICT活用のポイント」を教えて下さい。

望月 先生:以前から、生徒が持っている教科書と同じものを「拡大投影」し、その効果を実感してきました。

-そうなのですね

「拡大投影」することについて

望月 先生:子どもたちは「提示されているもの」と「手元にあるもの(教科書やノート)」と比較します。自分の持っているものと提示されているものが少し違うと混乱することもあります。

実物投影機(書画カメラともいう)で子どもたちが使っている教科書を拡大投影して授業を進めている先生は以前から多くいらっしゃいます。

私はそれを少し進めて、教科書の画像を拡大投影しています。

-なるほど。自分の教科書と先生が「大きく提示している」ものが同じほうが子どもたちは混乱しなくてすむのですね。てっきり先生用の特別なもの(デジタル教科書やデジタル教材など)を投影されているのかと思っていました。

望月 先生:私はEpson iProjectionという無償アプリ(2017年現在は、Panasonic Wireless PJ という無償アプリを使用している)を使って画像を拡大投影し、大切なところにマーカーを入れています。

もちろん提示だけでなく、「黒板に書く板書と併用」しています。

子どもたちが、今どこの話(活動・説明)をしているのか自分の教科書と比較して見ることができることがポイントです。

-そうなのですね。先生が今どこを話しているのかわかりやすいのはとてもいいことですね! 黒板と併用した上で、マーカーを入れてある教科書を投影してもらえるならば、生徒さんは大事なところがわかりやすくてよいと思います。

画像だけとしても生徒さんにとってはわかりやすいでしょう。それに他の先生が真似しやすい気がします。

望月 先生:説明だけでどこの話をしているかわかる子どもだけでなく、それだけではわかりにくい子どもたちに対して「わかりやすく示す」ことが大切です。

-それは大切ですね。私もパソコンの授業をとしていたとき、「生徒がどこを話しているのか見失わないように説明しなさい」と、よく指導されました。

望月 先生:このアプリを使うと・・・

「その場で画像を撮影し、拡大投影してマーカーを入れる」という使い方もできます。

-とてもいいですね。

望月 先生:また、限られた授業時間の中で「先生が板書するのに必要な時間」を短縮することで、他の活動にあてる時間もできますしね。

「シンプルな活用方法こそ応用ができやすいものだ」と思います。

-そのとおりですね。大事なことだと私も思います。

望月 先生:わざわざPowerpointやkeynoteで毎時間のスライド作成をするのは、時間がもったいないです。私にとっては、「画像もデジタル教材」ということです。

小テストを「フラッシュ型教材」で行うことについて

また、

毎時間最初に小テストを行っていますが、一時間完結型授業ではあっても「子どもたちが前の授業の振り返りをする」ところから入るようにして継続性を持たせています。

ポイントは、

  • 「問題をテレビに提示」することで、小テストの解答用紙はいつも同じものを使うことができる。毎時間別なプリントを作る必要がない分、準備時間の短縮もできる。
  • フラッシュ型教材型にしているので、簡単に問題を複製して作成できる。

などです。

-毎日小テストを行なって、前の授業の振り返りをできるのは非常によいですね。反復することで生徒さんの学び・理解がしっかり定着できそうな気がします。

望月 先生:毎時間テスト用プリントをつくる先生もいますが、授業では進度がクラスによりまちまちになることがあります。時には途中で終わることも。そのため進度に合わせたプリントを常に作り印刷しつづけなくてはならなくなり、そのやり方では大変です。

私の場合は定形の解答用紙なので、同じプリントをたくさん印刷しておくことができます。発想の転換ですね。

-フラッシュ型教材は、ウェブで調べた限りでは「プレゼンテーションソフトのアニメ機能を使って作るものかな?」と理解をしました。

  1. 望月先生は、どのような教材を作られているのか。
  2. なぜフラッシュ型教材なのか。

の2点を伺いたいです。

望月 先生:それは解釈が少し違うのではないでしょうか?こちらを参照してみてください。

※フラッシュ型教材とは https://eteachers.jp/how-to/flash_material/

  • スライドに文字のみ
  • すばやく提示して
  • 子どもたちに解答させる

というイメージですね。

-教えてくださり、ありがとうございます。私の理解がずれていました。恐縮です。

望月先生はフラッシュ型教材をいつごろから利用されていらっしゃいますか。

望月 先生:はい。教育センターの研修をする中で、フラッシュ型教材に出会いました。もう5年以上前だと思います。

フラッシュ型教材は、英語などで使われる「フラッシュカードのデジタル版」といえます。

-なるほど。質問ばかりで恐縮なのですが、英語のフラッシュカードはどのようなものか伺ってもよろしいですか?

そして、印刷した小テストよりもフラッシュ型教材の方がよいと思う意図を伺ってもよろしいでしょうか?

望月 先生:フラッシュカードは、大きめの厚紙に単語や意味などが書かれたもので、先生が子どもたちに向けてカードをぱっぱっと入れ替えて見せていきます。それに対し、子どもたちがすばやく意味を答えたり単語を答えたりする教材ですね。瞬間的に見せるので、フラッシュ(Flash=瞬間)カードなのだと思います。

フラッシュ型教材はそれをデジタル化したもので、プレゼンテーションソフト(PowerPointやKeynoteなど)でスライドをカードとして作成し、スライドショーすることで次々に見せていくことができます。

「特別なソフト」を使って作るのではなく、「知っているソフト」をどう活用するかがポイント

プレゼンテーションソフトは多くの先生方がたいてい使ったことがあると思います。「特別なソフトを使って作る」のではなく「知っているソフトをどう使うか」、そこにポイントがあるのです。

-なるほど。

望月 先生:フラッシュ型教材については、全国でセミナーもたくさん行われています。

※フラッシュ型教材サイト「eTeachers」 http://eteachers.jp/

理科でフラッシュ型教材をよく使います。たとえば重要語句を覚えさせたり化学式を覚えさせたりする場面です。子どもたちも積極的に取り組みますよ。

フラッシュ型教材は作成も簡単(複製して文字のみ打ち替える)なので、ICTにくわしくない先生でも作ることができますね。

-詳細な説明をありがとうございます。確かにPowerPointやKeynoteならば先生方も馴染みがありそうですし、文字のみ打ち替えるなら教材を作成する際の手間と時間がかなり少なくなりそうですね。

フラッシュ型教材はずいぶんたくさんの教材が「eTeachers」http://eteachers.jp/ に上がっていますね(2017年7月現在14,356ファイル)。それだけ教材として役立っているのだろうと感じました。(2017年7月現在登録会員数34,840人)

望月 先生:先月(2013年当時)、同じ学校の英語の先生からiPadでフラッシュカードを作って使ってみたいと相談がありました。さっそくkeynoteによるフラッシュ型教材の作り方を説明したところ、次の日からすぐに授業で使い始めているようです。

-Keynoteで作成するとiPadで使えるのでいいですね。比較的簡単に作成できますし。

望月 先生:今年度(2013年度)から大分市内の中学校にiPadが導入されました。その中にkeynoteがプリインストールされていました。

Keynote for iPadなら、ひとつフラッシュ型教材を作っておくことで、簡単に「複製」ができます。複製したスライドを開き「文字のみ打ち替える」と完成。教材を増やすことが短時間でできます。

-配布されたiPadに最初からKeynoteが入っていたのですね。それはいいですね。教材作成の負担がかなり減ると思います。

望月 先生:PCでフラッシュ型教材を作成しても、同じように短時間で作成できます。

「フラッシュ型教材」を活用する目的とは?

-ちなみにPCやiPadを使わないで手作りで小テストを作ると、負担はどれくらいちがうのでしょうか?

望月 先生:ワープロで問題文を作って回答枠を作って印刷して。それを毎時間。中学校ではクラスによって進度が違うので、クラスにあわせていくと・・・けっこう大変です。

-アニメーションはつけないのですね。

望月 先生:プレゼンテーションソフトを使っていても、フラッシュ型教材にアニメーションは不要。だから短時間で作成できるのです。紙のフラッシュカードに、アニメーションは存在しないでしょう?

-確かにないですね。

望月 先生:プレゼンテーションソフトだからプレゼンテーションにしか使えないわけではありません。

文字だけのスライドでも、りっぱなデジタル教材です。前回話した「最近のデジタル教材にプログラミングは不要と思う」と答えた理由になりますね。

-はい、そう思います。以前、ウェブ上で見かけたLD(学習障害)のお子様向けの漢字練習教材はPowerPointのアニメーション機能を使ってお手本を見せていたので、デジタル教材では必ずアニメーションを使うものだと思い込んでいました。

望月 先生:それは漢字の「筆順を覚える」のが目的の教材だからでしょう。

-言われてみれば、そうですね。

望月 先生:フラッシュ型教材を使う場面は、「漢字を覚えているか、声に出して確認」するのが目的です。授業のまとめで確認するために、みんなで声に出して答えることもあるでしょうし、授業の最初に前回の授業で出た漢字を覚えているか、みんなで確認するために使うこともあるでしょう。

-同じ漢字に関するデジタル教材でもニーズが違うと、教材の作り方が違うのは当然ですよね。自戒を込めて、思い込みはいけないと思いました。

望月 先生:一時間の授業の流れ(導入・展開・まとめ)の中で、どの場面でどんな教材を使うか、それぞれの先生方の考え方で違いますし、題材によってまたクラスの実態によっても変わるのです。「授業づくり」。

-様々な場面で使われていると思いますが、フラッシュ型教材は反復して学びを定着させるのに良さそうですね。

望月 先生:教育センター時代、先生方の要望にあわせて「動きのあるデジタル教材」をAdobe Flash(動きのあるインタラクティブなコンテンツを作成する・・・プログラミングが必要な場合もある)で作成してきました(2017年現在ではFlashが動作しない端末が多くなっている 2020年にFlashのサポートが終了)が、「フラッシュ型教材」は、先生方自身が簡単にスライド作成できる教材といえます。

※Adobe Flash https://ja.wikipedia.org/wiki/Adobe_Flash

-先生方が自分で簡単に作成できるという点はとても大切だと思います。「フラッシュ型教材」のメリットが先生のお話で理解できました。ありがとうございます。

「理科のプリント(リフレクションと質問)」について

望月 先生:もともと20代の頃から前述の小テストを毎時間行ってきました。その1枚のプリントの中で授業の振り返り(リフレクション)と質問の受付をしています。

理科に興味を持っている子どもはかなり多いので、その時間の内容だけに限らず理科に対する疑問・質問を受け付けられないか?他の子どもにももっと理科に関心を持ってもらえないか?と考え、プリントの中で質問の受付を始めたわけです。

  • 毎時間の小テストプリント(リフレクションシートを兼ねる)に子どもたちが質問を書く。
  • 毎時間の授業後、私が質問を抜き出しておく。
  • ある程度たまったところで、回答プリントとして全員に配布。

-そのような方法でしたら、子どもたちも質問しやすいですね。

望月 先生:これもひとつの「ICT活用」ですね。その都度デジタルデータにしておくことによりあとで再利用するわけです。

-確かにそうですね。みんなの前で質問するのは気後れしますが、望月先生の方法ならば訊きたいことを素直に質問できそうです。このようなICT活用ならば、子どもたちにとっても学びやすく記憶にも定着しそうですね。ITスキル云々ではなく「ちょっとした工夫」で授業に差が出そうですね。

「授業づくり」するためにICTを活用することについて

望月 先生:「授業づくり」とはそういうことでは?ICT活用しなければならないと身構えることではなくて。

  • 「ICTを活用」して授業を工夫する。
  • 「授業づくり」するためにICTを活用する。

微妙な違いですけどね。私は後者を先生方によく話します。

-私は

  • 「ICTを活用」して授業を工夫する。
  • 「授業づくり」するためにICTを活用する。

を混同していたようです。

望月 先生:前者だとICTにくわしくない先生は負担を感じやすく消極的になりやすくなります。後者だと、ICT活用は有効な場面でつかえばよいということで、くわしくない先生でも取り組みやすくなります。

「フラッシュ型教材」は、

  • 準備がしやすい。
  • 取り入れる活動場面がイメージしやすい。
  • 子どもたちも先生も取り組みやすい。

など、後者向けの教材といえますね。

私は、それを「小テスト」に応用しているということです。

-確かに「授業づくり」するためにICTを活用すると、汎用性が高くなりますね。後者を意識すると先生方も授業づくりしやすいと思います

次回はもう少し「提示の工夫」について、望月先生に続きのお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

>>リブート第3回「望月陽一郎先生によるICT機器の活用・啓発の取組」(2017/09/1 公開予定)に続く

  Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki.

参考記事

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