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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

「主体的・対話的で深い学び」を促すための「板書・教材提示のバランス」

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 NPO法人で子供たちの居場所づくりのお手伝いをしていたことがありました。学校に行けなくなったお子さんや、学校には行けているものの学校の居心地が良くはないお子さん、何らかの特別な教育的ニーズがあるお子さん、家庭にご事情があるお子さん、など様々な状況の子供たちとふれあうことができました。

 「子供たちがより良い教育を受けられるように思うけれども、一体、何をどうしていけばよいのだろう? 」と思っていました。教育関係の勉強会に参加するようになり、現役で学校の先生をされている方に教育現場のことをお尋ねしようと思ったのが2013年でした。

 それから3年半にわたって、望月陽一郎先生(中学校教諭)に「主体的・対話的で深い学び」を実現するための取り組みを取材しています。今回はなんと第20回目になりました。

 現代の学校の先生方は非常に忙しい中、校務や子供たちの部活動の顧問を行うなど多彩なご活動をされています。取材を続ける中で、先生方の負担を減らし、子供たちにとってより良い学びになる授業を行うにはどうしたらよいだろうか? という気持ちが芽生えています。

今回は授業の中で大事な要素の一つである「板書と教材提示」についてお聞きしました。

【望月陽一郎 先生・略歴】
大分市 中学校教諭(理科担当)。大分県教育センタ- 情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経て、現職。
https://www.facebook.com/yoichiro.mochizuki/aboutを参照。

授業における「板書」について

‐記念すべき第20回目のインタビューとなりました。2013年6月から望月先生に教育現場のことをお話しいただいたのですが、大事なことを質問していませんでした。1時間の授業の中における「板書とICT機器などによる提示のバランス」についてです。これは、先生方のICT活用指導力にも関係すると思うのですが、いかがですか。

望月先生:最近では、板書の例を集めるサイトなどもありますが、実際には板書例を見ただけではあまり参考になりません。

‐どうしてでしょう。私は面白いなあ、参考になるなと思いました。私の場合は、関係性を図説したい時は板書、箇条書きで大事なところを書き出したい時はパソコンのテキストエディターに入力してスクリーン表示していました。プログラミングのソースコードにコメント入れして説明することも多かったです。

 ただ、学校の教科によって、板書が多かったり少なかったりすると思います。たとえば、理科だと望月先生のように実験の様子をiPadのカメラで写したりするでしょうし、算数・数学だったら問題を書いてから計算式や補足を先生が書いていた印象があります。

 国語ならば詩の本文とか、大事な文章を先生が最初に書き、生徒の意見などを黒板に追加して書き込んでいた記憶があります。板書の仕方をいろいろ検討したら面白そうだなと思うのです。

望月先生:そういった板書のさまざまな工夫がなりたつのは、「授業の一部分」として、です。一時間の活動の流れや、先生方の発問・子供たちの反応(リフレクション・授業評価)などを含めて「授業全体」としての例で見ないと、板書だけを見てもあまり意味はないのです。

‐確かにそれはそうですね。

「板書・教材提示のバランス」について

望月先生:先生方のICT活用指導力を考えるにあたっては、授業の中での「板書・教材提示のバランス」について考えていくことになります。

 一年間の理科の授業における「ICT機器による提示」についての子供たちの感想を多い順番に見てみると、

  • 教科書を大きく映して、大切なところを示してくれわかりやすかった。【教科書】
  • 教科書をズームしてくれたのでわかりやすかった。【拡大】
  • 印をつけてくれたりしたことで、後からでも振り返りやすかった。【振り返り】
  • ただ言葉で聴くだけではわかりにくいので、画面があってよかった。【理解】
  • 理科室の後ろからでも見やすかった。【見やすさ】
  • 図形などで説明してくれたのがよかった。【図示】
  • 画面に集中できた。【集中】
  • 短時間で説明してくれたのがよかった。【効率化】
  • 実験の説明のとき、道具の写真に直接書き込んで説明してもらえるのがよかった。【説明】
  • 教科書以外の資料も見やすかった。【資料】
  • その場で写真を撮って見せてくれたのがわかりやすかった。【撮影】
  • 教科書・ノートに記録しやすかった。【記録】
  • 苦手なグラフが、画面だとわかりやすかった。【グラフ】
  • オシロスコープの大画面がわかりやすかった。(アプリ)【表示】
  • 前で先生がやっていること(実験)が見やすかった。【距離】
  • 画面が明るく見やすかった。【見やすさ】
  • いつも出してくれている大きな時計(アナログ)が便利だった。【時間】
  • 授業がスムーズに進んだ。【スムーズ】

などでした。【】で書いたのはそこから見えるキーワードです。

 もちろん、

  • 後ろの席のとき、見えにくかった。【座席】
  • 光の反射で見えない時があった。【画面】

という声もありました。

子供たちの評価から見ると、「見やすさ」「記録」「効率化(スムーズ)」などが見えてくると思います。

‐黒板に書かれたものをただ写す時間ってありますよね。

望月先生:先生が(板書を)書く時間+子供たちが(ノートなどに)写す時間が、一時間のうちにどのくらいを占めるか、つまり授業設計ですよね。

‐私の学生時代の話ですが、先生が重要キーワードを黒板に書き始めてから書き終わるまでに、30分近くかかるという授業が実際にありました。授業の前半30分はノートテイキングで、残りで教科書を説明するという形式で、私は書き写すのに疲れてしまいました(笑)。

 確かにあまりに膨大な量の板書を書き写すのは時間的にもったいない、と思います。先生の板書が授業のメインになってしまうと、子供たちが考えたり話し合ったりする時間はどう確保すればよいのでしょうか。

子供たちの頭の中をアクティブに

望月先生:板書しても書かなくてよいという場面もあるかもしれませんが、では先生が板書しているものを書かなくてよいのか、ノートに写したほうがよいのかは、誰が判断するのでしょう。先生が指示するのかな。それとも子供たちに判断させるのでしょうか。

‐板書を多く書くと先生は説明しやすいものの、子供たちにとっては情報量が多くなりどこに注目したら良いのか、がわかりにくいかもしれませんね。大事なところだけ書くくらいでちょうどよいかなあ?と思った次第です。

 板書するのが授業のメインになってしまうと、子供たちに向き合う時間も少なくなってしまいますね・・・。まとめて書くか、話しながら適宜書き増やしていくかで、子供たちの授業への印象も変わりそうです。

 子供たちがノートに書き写した後、後で振り返り、子供たちが「授業の中で何が大事だったか」わかるような板書であってほしいです。先生が板書を大量に書きすぎる、もしくは要点がわかりにくい板書だと、後で子供たちがわからなくなりそうな気がします。

望月先生:板書とICT機器による提示を組み合わせることで、「簡潔で見やすく」「記録として振り返りができる」「効率的(スムーズ)な」授業を設計することも、「授業づくり」といえると思うのです。

板書以外の方法について

‐望月先生は「リフレクションシートから見る『主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)』の視点」の回で、以下のようなことをお話しくださいました。

④KP法(紙プレゼンテーション)、テレビでの提示、iPadの活用について 多い順

 ・教科書でチェックするところがテレビに映されるのでよく確認できた。
 ・大きく教科書やプリント、器具などを映してくれるので説明が分かりやすかった。
 ・宇宙の分野で、アプリで宇宙空間が大きく映しだされていてよくわかった。
 ・黒板が先生で隠されてしまうことが少なくよく見える。
 ・KP法は時間短縮になる。

 板書以外の方法(KP法<紙プレゼンテーション>、テレビでの提示、iPad)も活用されることで、子供たちの理解を促す取り組みをされています。子供たちの頭の中に授業内容が残りやすいように、板書や教材の掲示をする際、どのようなことを意識されていますか。今までのまとめを兼ねて、改めてお話しいただけましたら助かります。

望月先生:最近話題になっているアクティブ・ラーニングという手法やプログラミング教育などについても、「一時間の授業」をどう単元全体を見通してデザイン(設計)していくかの中の一部分になると思います。

 そういった全体の授業デザインの中に、「板書」もあれば、「ICT機器による提示」もあるので、議論をしていく時には、俯瞰してみることが大切になると思うのです。

‐今回も大切なお話をありがとうございました。

おわりに

‐私は数年前にある大学で「国語科教授法」で板書の書き方の練習をしたことがあります。すでに定年退職された先生(確か教員歴40年近く)に、

  • 字がうまいか下手かよりも、教員が文字を丁寧に書いているかが大事(丁寧に書いていると、子供たちが読みやすいから)
  • 国語科の場合は縦書きなので、黒板に文章をまっすぐ書けると良い(文章がまっすぐに書かれていると、子供たちは見やすいし、しかも美しく見える)
  • 詩を書き写すときは段落の間の空け方も意識する(音読するときの間がわかりやすいように)
  • 紙を黒板に見立てる → 何を・どこに書くかを事前に紙に書き、整理しておくと良い

等のことを教えていただきました。

 小中高の先生方の板書の例は本やインターネット上に多数、事例が紹介されています。見とれてしまうほど美しい字で、しかも矢印の一つ一つも絵のように美しい板書の多く存在します。先生方の真摯な想いが伝わってきます。適切に整理し、まとめられている板書だと、写真を見ただけでも授業内容が頭に入ってくる印象を受けます。

 ただ、「時間をかけて美しい板書を書く」行為がメインになってしまうと、「子供たちが活動する時間が少なくなってしまう」ということも生じるだろう、と感じました。素早く丁寧で、美しい板書が書けるだけの熟練したスキルがあれば、素晴らしいことに思います。ただし、そこに至るまでにそれなりの時間・経験が必要そうなので、バランスの取り方が難しいのだろうな、とも思いました。

 望月先生の事例のように板書以外の方法(KP法、テレビでの提示、iPadなど)もうまく併用しながら「授業を構成するスキル」の重要性を実感しました。子供たちの「主体的・対話的で深い学び」を促すための板書・教材の提示について改めて考える必要があると、自戒の念を込めて思いました。

 そして、3月半ばという時期、高校受験は一段落したものの、卒業式、新年度に向けての準備があることを考えると、教育現場は大変お忙しいのではないかと思います。そのような中でインタビューにお答えくださった望月先生、記事を読んでくださった皆さまに感謝の念が堪えません。大変ありがとうございました。

参考記事

先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の45の取組みが紹介されています。

まとめ記事

今までに取材した「授業でのICT活用のポイント」「学校でICT機器を活用する時のポイント」「教材作成時に気をつけたい著作権の問題」などについては、以下の記事にポイントをまとめました。ぜひご参考にされてくださいね。

第16回~19回目のインタビューは下記のURLからご覧いただけます。

▼アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善(その1)
https://blogsmt.itmedia.co.jp/kataoka/2016/06/active-learning.html

▼アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善(その2)
https://blogsmt.itmedia.co.jp/kataoka/2016/07/active-learning.html

▼アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善 学期末の子供たちの感想編
http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2016/08/active-learning.html

▼リフレクションシートから見る「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の視点
http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2017/01/reflection-sheet.html

編集履歴:2017.3.28 17:34 「記録として振り替えられる」→記録として振り返りができる」に修正。

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