加藤高明さんが語る「ユーザが使いやすい企業サイト」の秘訣とは
問題提起
今回の記事は2つの問題提起があります。
- 「企業のウェブサイトって、本当にユーザに使いやすいのか? 」
- 働きたいと希望しているチャレンジドが、納税者となり自立の道を切り開くにはどうしたらよいのか
という観点です。
チャレンジドは、Yahoo!辞書[ 新語探検 著者:亀井肇 / 提供:JapanKnowledge ] で以下のように説明されています。
「障害をもった人」のこと。近年、アメリカで「ハンディキャップド」に代わって用いられるようになっている。神様からチャレンジという使命を与えられた人、試練に挑戦する使命を与えられた人という意味である。
(中略)
障害をマイナスとして捉えるのではなく、障害をもつ故に体験するさまざまな事象を自分自身のため、あるいは社会のためにポジティブに生かしていこうという意味合いである。
この言葉は鳩山由紀夫・元首相が所信表明演説の時に知的障害者を社員の7割以上雇用している日本理化学工業の大山会長を紹介した際、「友愛」と共に使われた言葉のようです。社会福祉法人プロップ・ステーションの竹中ナミさんが広めた言葉でもあります。
今回はウェブデザイナーとして、チャレンジドとしても活躍されている加藤高明さんにお話をお伺いしました。
加藤さんは「出産時の医療ミスにより脳性マヒとなり、運動機能に重度の障害を残す。」というご本人が書かれているように(注)手の動きに制限があります。
注:ウェブ制作会社ピックファット 加藤高明略歴をご参照ください。
加藤さんは「重度障害があっても働きたい」と考え、地道な訓練(社会福祉法人プロップ・ステーション 等)と在宅でのウェブサイトの制作を数年間、積み重ねられてきました。
現在はウェブ制作会社を個人で起業され、ウェブサイトのアクセシビリティ・ユーザビリティの講師としても活動されています。
参考:ウェブ制作会社「ピックファット」(加藤高明さんの会社)
http://www.pickphat.com
学生時代はNPO法人国際ボランティア学生協会(IVUSA)に所属し、インド・韓国・中国などで様々なボランティア活動に参加。他の学生と共にインドで壁のペンキ塗りもされています。
手で刷毛(はけ)を握ることができないならば、ゴム手袋をしてガムテープで刷毛を巻けば良いと考え、ペンキ塗りの作業を完了。彼のスゴイところはやる前から無理だとへこたれないところです。
「できない」ではなく「どうすればできるか」を考え、ウェブ制作等に取り組まれています。
加藤さんは当ブログ第1回の「みなさまは目で見ると入力できるパソコンをご存知ですか?」に注視入力パソコンtobii(トビー)のデモンストレーターとしても登場してくださいました。注視入力パソコンは目で画面を見るとパソコンの操作ができるパソコンです。
第一番目の問題提起「誰もが使いやすい企業サイトとはどんなサイトなのか」。加藤さんの意見をお伺いします。
企業のウェブサイトは本当にユーザにとって使いやすいのか?
使いやすい企業サイトを考えるために知っておきたい前提条件
加藤さんのウェブアクセシビリティの講座に参加して発見したことは「プロが製作した企業サイトでもよく見てみると使いにくい点がたくさんある」ということでした。
以下、加藤先生の了解をいただき講座内容の一部を紹介します。
※講座に関する部分では加藤さんの敬称を先生とします。
ウェブを利用する際、
- 利用者がいる
- 利用者は全員が全く同じではない(多様性)
ということを意識してサイトを製作する必要があります。
加藤先生の場合は、手の運動障害があるため「紙の本」ではなく「ウェブ」から情報を入手されているとのこと。
ウェブサイトが使いにくかったら情報を入手できなくなります。私見では「使いにくいウェブサイトが増えてしまうと情報格差が生じる」というリスクを感じました。
「使いやすい企業サイトのポイント」を考える上で理解しておきたい前提条件があります。
講師の加藤先生がパソコンを操作される際は、
- キーボードのキーの場所に穴が空いたカバーを付け、同時に複数指が複数のキーを押さないようにする
- ジョイスティックを使う
- 固定キーの機能を利用する
- 注視入力パソコンを活用する
など様々な工夫されています。
キーボードにカバーをかけるのは一度に一つのキーを押すことが大変だからとのこと。パソコンを操作する際はキーボードが動かないように ゴムマットを敷きます。細やかな工夫があるとわかりました。
キーボードやマウスを操作する方法は、
- 手で操作
- 足で操作
- 口に棒をくわえて操作
- 頭に棒をつけて操作
という複数段階があります。
※声で操作するものは「身体を利用した操作方法」と次元が違うと判断し外しました。
加藤先生は手でパソコンを操作されていますが、腕も手も全く動かない場合はマウスを足で操作したり、口に棒をくわえたりしてキーを押します。頭に棒をつけて操作した場合、首に負担がかかるので、神経を痛めないように気を付ける必要があるようです。
私見ですが、「身体に負担がかかることを承知で、パソコンを操作したいと望むユーザが居る」ということを強く感じました。
Windowsの固定キー機能は、キーボードのキーを2つ同時に押せない際にONにして、使用されるとのこと。指一本で「ctrl+c」を同時に押すことできないときに使用するそうです。
このような前提を踏まえた上で様々な企業サイトの使いやすさ・使いにくさを解説していただきました。
使いやすい企業サイト、使いにくい企業サイト
メニューにプルダウンを使用する企業サイトは多いのですが、
- マウスを動かすことに時間がかかるとメニューが消えてしまう
- 間違ってメニューの軸からマウスのカーソルがずれてしまうとメニューが消えてしまう
というデメリットもあるとのこと。
改良して欲しい点として、
- クリックして次に何かをするまではメニューが表示されていて欲しい
- プルダウンメニューを全部表示できるボタンが欲しい
- プルダウンよりクリックしてメニュー一覧ページに飛んだほうが使いやすい
という内容を伺いました。
別なサイトの解説では
- Flashのメニューのまとが広い(伸びる)ので、どれを選んでいるのかがわかりやすい
- 別ウィンドウは使いにくい
- 閉じるボタンが小さい
という点をご指摘されました。
別ウィンドウが使いにくい理由として、同じ大きさでもう一個開かれてしまうと間違って閉じてしまいそうだからとのことでした。
閉じるボタンが小さいという点は、大きさが大きければカーソルを当てやすいので、大きいボタンがあれば良いとのことでした。
その他、
- フォームのラベルにも要素づけして欲しい
- インラインフレームにカーソルを奪われてページ全体を動かせなくなることがある
- Flashが勝手に動き過ぎるサイトは使いにくい
- リンクのスポットが大きい方が使いやすい(リンクはブロックレベル要素にして欲しい)
- マウスの選択でFlashアニメの項目が止まるとありがたい
- 大きい戻るボタンが欲しい
- 1ページずつ戻れるサイトだと使いやすい
という話が出ました。
加藤先生によると「Flashのサイトは作り方が良ければ、逆に操作しやすい」とのこと。例えばあるFlashのサイトはリンクの的が小さいけれども、色の変わり具合でカーソルがどこにのっているのかわかりやすいそうです。
加藤先生から「サイト制作者がわざわざユーザが使いにくくしているところはないか」という問題提起もいただきました。
- 何が使いずらいの気がつく
- どうしたら使いやすいのか?
の意識を今までよりも強く感じる必要があるのではないでしょうか。
私見ですが「HTML5かFlashか」とどんな技術を使用するのかに気を配るよりも、使う人にとって使いやすいのかに気を配れるとユーザ・お客さまにとって好感が持てるサイトになるのではないでしょうか。
>>「みんなと同じようにタックスペイアになりたいを実現するために」に続く