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あなたの「常識」はもう通用しない?変化の時代を生き抜くための思考リセット術

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その「常識」、本当に正しいですか?

「これはうちの会社の常識だ」。その常識、いつから見直されることなく「当たり前」になっているでしょうか?これまで必死に身につけたその常識が、もし今の時代の変化に取り残される原因になっているとしたら。

しかし、変化がこれほどまでに激しい現代において、経験によって築かれた「常識」こそが、時として大きなリスクとなり、組織の成長を阻む足かせになることを、私たちは自覚しなければなりません。特に、組織を率いる経営者やリーダーであれば、その影響は計り知れません。

この記事では、なぜ過去の成功体験がリスクになるのか、そしてこれからの時代を生き抜くために、いかにして私たちの思考を「リセット」し、新しい常識を築いていくべきかについて、具体的な事例を交えながら掘り下げていきます。

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成功体験という名の「不良資産」

誰よりも多くの成功を積み上げてきたからこそ、経営者や役職者という立場にいるのかもしれません。しかし、皮肉なことに、その輝かしい成功体験こそが、もはや「不良資産」になっている可能性があります。この厳しい現実を受け入れなければ、真の改革のスタートラインにさえ立てません。それどころか、気づかぬうちに競合から引き離され、市場での存在価値を失っていくことにもなりかねないのです。

「改革の足かせとなっているのは、自分自身かもしれない」。

まずは、そう考えてみることです。その上で、過去の経験という色眼鏡を外し、「いま」の常識に照らして最適な決定を下していく必要があります。

では、どうやって既存のやり方をアップデートすれば良いのでしょうか。どう作り替えればいいのでしょうか。しかし、そう考えること自体、すでに過去の経験に引きずられた発想と言えるかもしれません。

既存のものを修正するのではなく、一度すべてを捨て、あるいは忘れて「リセット」する覚悟がなければ、この激しい変化に対応することは難しいでしょう。

なぜGAFAは世界を席巻できたのか?

その好例が、GAFAMと呼ばれる巨大テック企業です。名だたる大企業を尻目に、Google、Amazon、Facebook(現Meta)、Appleがなぜあれほどまでに世界を席巻できたのでしょうか。それは、彼らに守るべき過去の経験や、それに裏打ちされた「常識」がなかったからです。

  • Amazonは、既存の小売業の常識であった「店舗を持つ」ことをせず、オンライン書店から始まりました。もし彼らが従来の小売業の常識に縛られていたら、「AWS(Amazon Web Services)」という、今や世界最大のクラウドコンピューティングサービスを生み出すことはなかったでしょう。AWSは、社内の余剰サーバー能力を外部に貸し出すという、全く新しい発想から生まれた事業でした。

  • AppleがiPhoneを発表したとき、当時の携帯電話業界の常識は「物理的なキーボード」でした。しかし、Appleはそれを捨て、全面タッチスクリーンのスマートフォンという新しい常識を創り出しました。

彼らは、既存の業界の「あるべき姿」を疑い、テクノロジーを駆使してゼロベースで新しい価値を創造したのです。この歴然たる事実から、私たちは学ぶべきです。

まずは「古いことを捨てる」ことから始める

では、具体的にどうすれば良いのでしょうか。もはや時代にそぐわない「古いこと」を、「なぜ続けているのか」という疑問を持つことなく続けてはいないでしょうか。新しいことを始めるためには、そんな現実を真摯に見つめ、まずは時代遅れの古いことを「捨てる」ことから始めなくてはいけません。

つまり、新しいことを始めるためのスペースを作るために、これまでの組織の慣例、業績評価基準、意思決定の方法といった「古い常識」を一度手放す必要があるのです。少し乱暴に聞こえるかもしれませんが、それほど振り切って考えなければ、これからの時代に生き残ることは難しいのです。

ITビジネスの現場で起きている「常識」の変化

ITビジネスの世界に目を向けると、このことがより明確に理解できます。

多くの企業が「DX」や「攻めのIT」へと、IT投資の舵を切ろうとしています。その目的が企業の競争力強化や差別化であるならば、そのノウハウやスキルは企業の核(コアコンピタンス)となるため、本来は社内に蓄積すべきものです。つまり、これからのIT投資の主役は「内製化」であり、これまでITベンダーの仕事の源泉となっていた「外注」の対象ではなくなっていくのです。昨今のAI駆動開発や、すぐに利用できるクラウド・サービスの普及は、この「内製化」の勢いをさらに加速させています。

この変化は、SI事業者やITベンダーのビジネスモデルを根底から揺るがします。 多くのベンダーは今も「DX案件」と称して新規獲得を模索していますが、その実態は、もはや顧客企業の『内製化支援』です。 本気で顧客を支援するなら、AI駆動開発、クラウドネイティブ、アジャイル、DevOpsといったモダンなITが前提となります。 この新しい常識を理解せず、ただ流行りの言葉を並べているだけでは、顧客の期待に応えることは到底できません。それは『常識の欠如』と言わざるを得ないでしょう。

そして、内製化支援における業績評価は、提供した工数や売上・利益ではありません。「お客様の事業が成功したかどうか」で評価されなければなりません。当然、従来の請負や準任といった契約形態では対応できず、顧客と一体となって成功を目指す、新たなパートナーシップが求められます。

顧客に提供する価値も、労働力やプロジェクト管理能力だけではありません。圧倒的な技術力と、顧客の業務を深く理解し「あるべき姿」を提言できる能力、そして何よりも「スピード」です。時間をかけて完璧な要件定義を行い、その通りにシステムを構築するという前時代的な常識では、もはや顧客のニーズに応えることはできないのです。

アジャイル開発、DevOps、クラウド、コンテナ、マイクロサービスといったキーワードは、まさにこの「スピード」を追求する文脈から必然的に生まれてきたものです。もし、これらの言葉がピンとこないのであれば、それこそが過去の「常識」にとらわれている証拠であり、リセットすべき対象なのです。

評価基準が変わらなければ、現場は動けない

売上と利益という『古いものさし』だけでは、これからの新しい価値は測れません。新しい仕事の内容に即した、きめ細やかな評価基準が必要です。

  • お客様の業績にどれだけ貢献したか

  • どれだけ多くの試行錯誤を繰り返したか

  • お客様から次の案件も依頼されるような信頼関係を築けたか

こうした新しい基準を示すことで、上司が叱咤激励しなくても、現場は自らの役割を理解し、目標達成に向けて自律的に学び、行動するようになります。

新しい常識の波:AIが変える未来

そして今、私たちは「AI」という、さらに大きな常識の変化の波に直面しています。

かつて、世の中のデファクトスタンダードであるクラウドサービスを「セキュリティが心配だ」という理由で社内利用を厳しく制限している企業がありました。しかし、今やそれは完全に「非常識」です。セキュリティの常識そのものが、クラウドを前提とした「ゼロトラスト」という考え方に大きくシフトしたからです。

同様のことが、AIの世界でも起きています。

  • ソフトウェア開発の世界では、GitHub CopilotのようなAIが、人間が書くコードをリアルタイムで補完・生成しています。「コードは人間が一から書くもの」という常識は、もはや過去のものとなりつつあります。

  • ビジネスの現場では、会議の議事録はAIが自動で作成・要約し、外国語のメールはAIが高精度で翻訳してくれます。これまで多くの時間を費やしていた作業が、AIによって瞬時に終わるのが新しい常識になろうとしています。

生成AIの登場は、文章作成、デザイン、企画立案といったクリエイティブな領域でさえ、その常識を覆しつつあります。このような新しいテクノロジーに関心を持ち、自ら使ってその可能性を肌で感じること。その感覚こそが、凝り固まった既存の「常識」を打ち破る鍵となるのです。

60年前に未来を予見した言葉

1965年、インテルの共同創業者であるゴードン・ムーアは、自身の論文『Cramming more components onto integrated circuits』中で、半導体技術の指数関数的な発展、のちに「ムーアの法則」と呼ばれる有名な予測を発表しました。その論文の結びで、彼はこう記しています。

「(集積回路の発展によって)家庭用コンピューターという驚くべきものや、誰もが持てる携帯用通信機器、そして、おそらくは自動操縦の自動車まで登場するかもしれない。」 (原文: "such wonders as home computers--or at least terminals connected to a central computer--, automatic controls for automobiles, and personal portable communications equipment.")

約60年も前に、現代の私たちの生活を的確に予見していたことに驚かされます。同様の、しかしもっと速いスピードでの変化が、AIによってこれからもたらされることは間違いありません。

未来から「いま」を振り返る

過去の経験に裏打ちされた「常識」は、懐かしい思い出として大切に心にしまっておきましょう。そして、それを一度リセットし、まっさらな目で「いま」を素直に受け止めてみませんか。

未来に向かって流れる大きな川の行く末を眺め、その未来の地点に立って、そこから「いま」を振り返ってみるのです。そうすれば、おのずと何をすればいいのかが見えてくるはずです。

「捨てる」「リセットする」とは、いまの現実を先入観なしにありのまま受け入れ、新しく始めるためのスタート地点に立つことなのです。

もちろん、リセットした結果、既存のやり方や資産が新しい「あるべき姿」にとっても有効だとわかることもあるでしょう。使えるものは、どんどん活用すべきです。しかし、重要なのはその順番です。過去の延長線上で考えるのではなく、まず未来の視点から理想を描き、そこに今のピースが当てはまるかを判断するのです。

もし、捨てるかどうかの判断に迷うものがあれば、それは過去の「常識」というバイアスに思考が引きずられている証拠かもしれません。そんな時は、思い切って一度「捨てる」と決断してみてはどうでしょうか。本当に必要不可欠なものであれば、必ずまた必要になります。しかし、多くの場合、私たちは先入観によって不要なものを「必要だ」と錯覚しているだけで、捨ててみても全く問題がないことに気づくはずです。

明日から、あなたの目の前にある「当たり前」を一つだけ、疑ってみませんか。その小さな一歩が、未来を切り拓く大きな変化の始まりとなるのです

【募集開始】次期・ITソリューション塾・第50期

次期・ITソリューション塾・第50期(2025年10月8日[水]開講)の募集を始めました。

2008年に開講したITソリューション塾は、18年目を迎えました。その間、4000名を超える皆さんがこの塾で学び、学んだことを活かして、いまや第一線で活躍されています。

次期は、50期の節目でもあり、内容を大幅に見直し、皆さんのビジネスやキャリアを見通すための確かな材料を提供したいと思っています。

次のような皆さんには、お役に立つはずです。
・SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
・ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
・デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
・IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
・デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん

詳しくはこちらをご覧下さい。

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO(やまと)会員の皆さんは、参加費が無料となります。申し込みに際しましては、その旨、通信欄にご記入ください。

期間:2025年10月8日(水)~最終回12月17日(水) 全10回+特別補講
時間:毎週 水曜日18:30~20:30の2時間
方法:オンライン(Zoom)
費用:90,000円(税込み 99,000円)
内容:

  • デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
  • ITの前提となるクラウド・ネイティブ
  • ビジネス基盤となったIoT
  • 既存の常識の書き換え前提を再定義するAI
  • コンピューティングの常識を転換する量子コンピュータ
  • 変化に俊敏に対処するための開発と運用
  • 【特別講師】クラウド/DevOpsの実践
  • 【特別講師】アジャイルの実践とアジャイルワーク
  • 【特別講師】経営のためのセキュリティの基礎と本質
  • 総括・これからのITビジネス戦略
  • 【特別講師】特別補講 (選人中)

*「すぐに参加を確定できないが、参加の意向はある」という方は、まずはメールでご一報ください。事前に参加枠を確保します。決定致しましたらお知らせください。

8月8日!新著・「システムインテグレーション革命」出版!

AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。

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神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

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八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。

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