「変われない」は、もう通用しない。AIが"言い訳"を過去にする3つの理由
「変わらなくてはいけない。そのことはよく分かっています。しかし、組織が大きいと、なかなか変えることができません。」
「変わろうと思っています。でも、何から始めればいいのか判断がつかなくて、なかなか実践に移せません。」
「チームを作り、変革の取り組みをスタートさせました。ただ、なかなか成果は出ませんね。(この会社は、去年も同じことを言っていました)」
いつの時代も変化はありましたが、現代の変化は根本的に性質が異なります。そして、その変化の核心を理解しないまま、これまで通りの言い訳を続けているとしたら、その代償はあまりにも大きいでしょう。
しかし、冒頭のような言い訳をもっともらしく語り、変わらない、変われないことを仕方のないことと正当化しようとしている人たちがなんと多いことでしょうか。
なぜ、これまでの言い訳は許されてきたのか?
このようなことがまかり通り、結果としてなんとかなっていたのは、かつて社会を支えていた「生産者と消費者が一体となった安定した経済サイクル」が存在したからです。そして、そのサイクルを回すエンジンこそが「知的力仕事」、すなわちルールや作業パターンがある程度決まっている知的労働でした。
「知的力仕事」とは、例えば以下のような業務です。
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大量のデータを収集し、決まったフォーマットの報告書を作成する
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過去の事例を検索し、マニュアルに沿って顧客からの問い合わせに回答する
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会議の議事録を作成し、関係者に要点をまとめて共有する
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仕様の決まったプログラミングや、手順通りのシステムの運用管理
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顧客を訪問し、言われた通りに注文を受ける御用聞き営業
かつては、多くの労働者がこの「知的力仕事」を担うことで、企業は安定的に製品やサービスを生み出し、収益を上げていました。そして、労働者はその対価として得た給与で、モノやサービスを購入する「消費者」となりました。
つまり、企業にとって従業員は「労働力」であると同時に、自社や他社の製品を買ってくれる「顧客」でもあったのです。この安定した経済サイクルこそが、企業経営における巨大な「バッファ(緩衝材)」として機能していました。多少、新しい技術への対応が遅れたり、経営判断に時間がかかったりしても、国内に安定した雇用と巨大な消費市場が存在したため、事業はすぐに立ち行かなくなることはありませんでした。変化への対応が少しばかり遅くても許容される、そんな時代だったのです。
もう「言い訳」が許されない3つの理由
しかし、この言い訳がこれからもそのまま許されることはありません。なぜなら、社会の前提であった経済サイクルそのものが、AIによって根本から覆されようとしているからです。
1. AIが「知的力仕事」を代替し、安定サイクルを破壊するから
第一の理由は、これまで経済サイクルを回すエンジンだった「知的力仕事」の価値が、AIによって根底から破壊されるからです。
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報告書作成や顧客対応: AIは膨大なデータ分析やレポート作成を瞬時にこなし、会議の音声をリアルタイムで文字起こしして議事録の草案を作成します。また、24時間365日、人間をはるかに超える速度と精度でマニュアル通りの顧客対応を行います。
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プログラミングやシステム運用: AIは仕様書からコードを自動生成し、システムの異常検知や定型的な運用タスクを自律的に実行します。
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御用聞き営業: 顧客の過去の購買データからAIが需要を予測し、最適なタイミングで発注を促すことで、人が訪問する必要さえなくなります。
企業が自ら生み出した雇用によって消費市場を支えるという、かつての安定した『生産者=消費者』のサイクルが崩壊し、経営の安全装置であったはずの国内市場がその機能を失っていくのです。これは単なる業務効率化の話ではありません。社会構造の変化そのものであり、「組織が大きいから」といった社内事情を理由にした言い訳が、もはや企業の存続を脅かす致命的なリスクになることを示しています。
2. 「不確実性」が日常になったから
第二に、不確実性の常態化です。「経済政策不確実性指数(EPU)」の歴史的な高止まりが示すように、パンデミック、地政学的リスク、世界的なインフレといった未曾有の変動を経て、もはや「不確実性」は一時的なリスクではなく、事業を取り巻く「常態」となりました。
安定した経済サイクルという前提が崩れた今、過去の成功体験やデータに基づいた計画は、明日には全く通用しなくなります。そして、この事態に対処するために、単に業務の仕組みをデジタルに置き換え、AIを活用するだけでは不十分です。真に求められるのは、予期せぬ変化に素早く対応し、軌道修正できる組織としての「俊敏性(アジリティ)」であり、それは働く人たちの行動や思考様式、すなわち企業の文化や風土そのものの変革なくしては手に入りません。「何から始めればいいか分からない」と立ち止まって分析に時間をかけている間に、市場環境は変わり、ビジネスチャンスは失われてしまいます。テクノロジーの導入だけでなく、組織文化の変革まで含めて、行動しないことこそが最大のリスクなのです。
3. 顧客と市場の変化が待ってくれないから
そして3つ目は、顧客と市場の変化の加速です。デジタル技術の浸透により、顧客の価値観、情報収集の方法、購買行動は、かつてないスピードで変化しています。SNSで一夜にして新たなトレンドが生まれ、数ヶ月後には忘れ去られることも珍しくありません。
また、ビジネスモデル自体も、従来の『所有』から『利用("X"aaS)』へと移行し、顧客との関係性を一度きりの取引から継続的なものへと変えなければならなくなるなど、根本的な変革が起きています。このような時代に、「社内の準備が整うまで」「失敗しない確証が得られるまで」と行動を遅らせていては、顧客はあっという間に、よりスピーディーで魅力的な価値を提供する競合他社へと流れていってしまいます。顧客の変化に取り残されることは、事業の終わりを意味します。
言い訳をやめ、正解を創り出すために
もはやこれまでの言い訳が、事業の継続や企業の存続に決定的なリスクになりました。前提が変わったのですから、この言い訳は通用しなくなったのです。
変わり続けることが当たり前という価値観がなくては生き延びることのできない時代になったのです。冒頭に挙げたような言い訳を恥ずかしいと感じ、自らの信条に反するとさえ思えない人たちは、残念ながら、これからの時代に必要とされない存在になっていくでしょう。この厳しい現実をしっかりと直視し、受け入れなければなりません。
この問いに用意された正解はありません。それは、不確実性が高いからです。
ならば、言い訳を探す時間を、最初の一歩を踏み出す時間に使いましょう。小さな実験を繰り返し、そこから学び、素早く方向転換する。未来の正解は、その試行錯誤のプロセスの中にしかありません。正解は与えられるものではなく、自らの手で創り出すものなのです。
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