メガネが似合うお年頃

私は子供のころから近視で目が悪く、小学2年生の頃からメガネを掛けなくてはいけないほどの視力になっていました。
あのころのメガネは、いまのようにおしゃれなものではなく、
銀ぶちの細いフレームか、太いセルロイドのフレームぐらいしか選択肢がありませんでした。
子供にとってメガネは決して快適なものではありません。
運動すればずれるし、麺類を食べたらすぐに曇る。
それに、どんなフレームを選んでも「勉強ばかりしてる子」か「おとなしい子」に見えました。さらに、当時はまだメガネを掛けている子供が少なかったので、当然のごとくみんなから「メガネ、メガネ」と呼ばれます。
そんなわけで、メガネというものが嫌で嫌で仕方がなかったのを覚えています。メガネを掛けた自分の顔を見るのも嫌で、鏡も避けていたように思います。
それからようやく解放されたのは、高校生になってコンタクトレンズにしてからの事です。。
しかし、当時のコンタクトレンズの素材と私の目が合わず、ソフトコンタクトレンズにしたり、またハードコンタクトレンズにしたり、色々と試行錯誤を繰り返しました。
それでも、メガネ生活に戻ることは考えられず、意地でもコンタクトレンズで通していました。
そして、いつしかコンタクトレンズも進化し、楽なソフトコンタクトレンズで無理なく過ごせるようになりました。
とはいうものの、メガネを手放せた訳ではありません。24時間コンタクトレンズを入れている訳にはいかないので、外出時にはコンタクトレンズ、家ではメガネという生活サイクルです。
あいかわらずメガネを掛けた自分の顔が嫌で、写真を撮られるときは必ずメガネを外すといったことを繰り返していました。
しかし、最近になってふと気付いたのです。
なにげなくメガネを掛けた自分の顔を鏡で見てみると、案外メガネがよく似合っているのです。ちょっと自意識過剰かなとも思いましたが(笑)、どうやらこれには物理的な根拠があるようです。次にあげてみたいと思います。
1. 顔の骨格と皮下脂肪の変化
加齢とともに、顔の筋肉や皮下脂肪は少しずつ減り、
若いころよりも骨格の輪郭がはっきりしてきます。
頬が少しこけ、顎のラインが締まり、目の周りも彫りが深くなる。
これにより、メガネのフレームが「顔に埋もれず」「立体的に」見えるようになります。
2. 目の位置とバランスの変化
顔の加齢変化の中でも意外に大きいのが「目の位置」です。
皮膚や筋肉の重力変化で、目がわずかに下がったり、外側が下がる傾向があります。
これにより、眉から目までの距離(アイホールの高さ)が広く見えるようになります。
メガネのフレーム、とくに上縁が眉のラインにかかるタイプは、
この変化によって顔の黄金比に近づくことがあります。
つまり、若いころは「メガネに負けていた」顔が、
歳を重ねることで自然にバランスが取れてくるのです。
3. 肌のトーンと反射の関係
若いころの肌は光を多く反射するため、
ツヤや明るさが強く、メガネのレンズやフレームが「異物」として浮きやすくなります。
それに対して、年齢を重ねると皮脂量や水分量が落ち、
光の反射が減ってマットな肌質になります。
その結果、フレームの質感(マット・メタルなど)が肌と調和しやすくなり、
光の反射バランスが変わって「なじむ」ようになります。
4. 表情の深みとフレームの調和
歳を取ると、顔に「線」が増えます。
それは皺だけでなく、表情の癖や感情の軌跡ともいえます。
フレームの直線や曲線が、
そうした"表情の線"と呼応して見えるようになります。
若いころは顔の印象が均一で、
フレームが主張しすぎて見えます。
しかし、成熟した顔はディテールが増え、
フレームがそのディテールの一部として機能するのです。
5. 心理的効果
見た目だけでなく、年齢を重ねると、本人の所作や視線も変わります。
視線は落ち着き、動作も静かになってゆきます。
これにより、メガネの持つ"知性""落ち着き""信頼感"の印象と一致してきます。
つまり、「似合う」という印象は外見だけでなく、態度の一致によっても強化されるのです。
なるほど、私もとうとうメガネが似合うお年頃になったという訳です。
これからは、新しいメガネとの付き合い方が始まるかもしれません。
そういう意味では、年齢を重ねてゆくのも悪いことばかりではないのでしょう。
とにもかくにも、若いころは「どう見られるか」を気にするものです。
しかし、年齢を重ねると「どう生きてきたか」が顔に出てくるものです。
そういった味わいのある顔には、メガネがよく似合うのかもしれませんね。