「行動」が「知識」を鍛える/AI時代の営業のプライド構築術
「その営業スタイル、5年後も通用しますか?」
AIが進化し、顧客の情報収集能力が格段に上がった今、旧来のやり方は通用しなくなっています。しかし、AIを最強の武器に変え、営業としての確かな「プライド」を築く方法があります。本記事では、これからの時代に本当に求められる「営業力」の正体と、その具体的な鍛え方を考えます。
営業力の本質は「知識力」です
私は、営業力の根幹をなすのは「知識力」であると考えています。自社の製品やサービスに関する深い知識はもちろん、お客様の業界や事業、さらにはテクノロジーや世の中の動きといった幅広い知識、いわば常識や教養こそが、営業力の源泉です。なぜなら、お客様が本当に求めているのは、単なる製品説明ではなく、自社の課題を解決してくれる「答え」や「未来への道筋」だからです。
変化の激しい現代において、この知識を常に最新の状態にアップデートし続けることの重要性は、ますます高まっています。例えばITの世界では、かつて「クラウド」とセットで語られた技術は「仮想化」でした。しかし今、お客様とクラウドの話をするならば、「コンテナ」や「マイクロサービス」「サーバーレス」といったクラウドネイティブの知識がなければ、本質的な対話はできません。
また、「知っていること」が少ないと、新しい情報が入ってこないという悪循環に陥ります。例えば、IT営業であっても、スマートフォンやスパコン「富岳」にも使われているプロセサーの会社「ARM」を知らない人がいます。この「ARM」というインデックスがなければ、ARMの親会社がソフトバンクであることや、最新のMacBookに採用されていることなどの関連ニュースが流れてきても、それらを認識できず、知識として蓄積されません。人は、知らないことは認識すらできません。
情報の感度とは、この「知っていること=情報のインデックス」をどれだけ持っているかで決まります。だからこそ、まずはインデックスを増やす努力が不可欠なのです。深く知ることではありません。まずは入口を手に入れることです。入口さえあれば、深く知ることはいつでもできる時代です。
営業の知識不足は、個人の問題だけでなく、組織全体の生産性にも影響します。あるIT企業では、エンジニアの稼働率が高すぎることが問題になっていました。原因を調べると、営業担当者がお客様の要望を技術的に理解できず、どんな相談でもすぐにエンジニアを同行させていたのです。結果、エンジニアは専門外の会議や、技術以前の初歩的な説明に時間を奪われ、本来の業務に支障をきたしていました。これも、営業の知識力不足が招いた典型的な失敗例です。
プレゼンテーションの技術や交渉術も確かに大切ですが、それらは確かな知識という土台があって初めて活きるスキルです。中身が伴っていなければ、どんなに巧みな話術もお客様の心には響きません。
AI時代だからこそ「知識」のアップデートが価値になる
「知識が重要だと言っても、覚えることが多すぎる」と感じるかもしれません。しかし、あなたには、AIという強力なパートナーがいます。AIは、私たちの知識力を飛躍的に高めるための最高の手段となり得るのです。
例えば、以下のような活用法が考えられます。
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情報収集の効率化: AIに「最新の〇〇業界の動向を3分で要約して」と頼めば、膨大な情報の中から重要なポイントだけを瞬時に把握できます。これにより生まれた時間を、お客様との対話や戦略立案といった、人間にしかできない付加価値の高い活動に充てることができます。
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専門知識の深化: 「クラウドネイティブとは何か、初心者にも分かるように説明して」と質問すれば、複雑な概念を自分のレベルに合わせて学ぶことができます。競合製品の技術的な特徴をAIに解説させ、自社製品の優位性をより明確に語るための準備をすることも可能です。
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提案の壁打ち相手として: お客様への提案内容をAIにレビューしてもらい、「この提案に考えられるリスクは?」といった客観的なフィードバックを得ることで、提案の質を高められます。人間同士では気付かなかったり、遠慮して指摘しづらかったりする論理の穴や想定される反論を、AIは客観的に洗い出してくれます。
これらのAI活用が、なぜあなたの知識力を本質的に鍛えることに繋がるのでしょうか。それは、AIに知識の「作業」の部分を任せることで、人間は最も重要な「思考」の部分に集中できるようになるからです。
AIが要約した情報をただ眺めるだけでは、知識は身につきません。重要なのは、AIによって生まれた時間で「この情報はお客様にとって何を意味するのか?」と一歩踏み込んで考えることです。情報収集という作業から解放され、情報同士を結びつけて新たな意味を見出す「洞察」にこそ時間を使うべきなのです。
また、AIへの問いかけは「自分は何を理解していないか」を自覚することから始まります。得られた答えに「なぜ?」「具体例は?」と対話を重ねることは、知識を断片から体系へと育てる「能動的な探求」そのものです。さらに、AIから客観的なフィードバックを受けることで、自分の思考の癖や盲点に気づかされます。これは、自分の考えを強制的に見つめ直し、思考の質を高めるための、極めて効果的なトレーニングと言えるでしょう。
AIは、単に答えをくれる便利な道具ではありません。AIとの対話を通じて、人間が「思考する機会」を増やし、その「思考の質」を高めてくれる「知のトレーニングパートナー」なのです。AIに代替されるのではなく、AIを「知の相棒」として活用し、そこで得た知識に人間ならではの経験や共感を掛け合わせること。それがこれからの営業に求められる姿です。
プライドを育てるのは「想」ではなく「行動」
ここまで知識の重要性とその鍛え方について述べてきました。では、その学びを継続させるための、最も根源的なエネルギーは何でしょうか。それこそが、自身の仕事に対する「プライド」なのです。
しかし、ここで言うプライドとは、「〇〇が好きだ」という漠然とした想いや、根拠のない自信のことではありません。プライドとは、日々の具体的な「行動」の積み重ねによって、一歩一歩、自分の手で築き上げていくものです。
- お客様の成功のために、何ができるかを考え行動する。たとえ小さなことであっても、お客様の「ありがとう」に繋がる行動を続ける。
- 与えられた目標を達成するために、あらゆる手を尽くして行動する。うまくいかなくても、その原因を分析し、次のアプローチを試すという行動をやめない。
- 自社の製品を誰よりも深く理解するために、学び、試し、行動する。実際に製品を使い込み、開発者の意図まで汲み取ろうと行動する。
このような一つひとつの行動が、小さな成功体験となり、自信を生み出します。その自信の蓄積が、やがて「自分はこの仕事のプロフェッショナルだ」という、確信に満ちたプライドへと昇華していくのです。
プライドがなければ、新しい言葉や技術が出てきても「難しそうだ」「仕事に関係ない」と、無意識に避けてしまいます。しかし、行動に裏打ちされたプライドがあれば、「まずは調べてみよう」「自分の仕事にどう活かせるだろうか」という知的好奇心が生まれます。その繰り返しが知識を増やし、さらに次の行動へと繋がる成長の好循環を生むのです。それは、単なる「仕事」を、自分だけの「専門性」へと高めていくプロセスそのものです。
行動の先に、未来をデザインする営業の姿がある
製品情報や見積もり、値引き交渉は、いずれAIやウェブサイトが完全に代替するようになるでしょう。これからの営業に求められるのは、単なる「物売り」ではありません。
豊富な知識を駆し、お客様自身も気づいていない課題を発見し、未来の成功への道筋を共にデザインしていく。お客様にとって、製品の供給者ではなく、事業を成功に導く「信頼できるパートナー」になること。お客様の事業に深く入り込み、対話を重ね、ITの力で新たな価値を「共創」していく。それがこれからの営業の役割です。
「どうすれば、プライドを持てるようになるでしょうか。」
そんな疑問を持つ人もいるかもしれません。しかし、そう考えてしまうことこそ、プライドを持っていない証拠と言えるでしょう。プライドは他人から与えられたり、教えられたりするものではありません。
プライドがないのなら、まずは必死で仕事に打ち込むことです。考えるのではなく、行動すること。 形から始めることです。そうした行動を続ける中で、きっと営業という仕事がどのようなものかが見えてきます。そして、プライドも自然と高まっていくでしょう。
まずは行動を起こすこと。今日の一つの「行動」が、明日の「知識」を生み、その知識の蓄積が、誰にも奪われないあなたの「プライド」となるのです。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第50期
次期・ITソリューション塾・第50期(2025年10月8日[水]開講)の募集を始めました。
2008年に開講したITソリューション塾は、18年目を迎えました。その間、4000名を超える皆さんがこの塾で学び、学んだことを活かして、いまや第一線で活躍されています。
次期は、50期の節目でもあり、内容を大幅に見直し、皆さんのビジネスやキャリアを見通すための確かな材料を提供したいと思っています。
次のような皆さんには、お役に立つはずです。
・SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
・ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
・デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
・IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
・デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
詳しくはこちらをご覧下さい。
※神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO(やまと)会員の皆さんは、参加費が無料となります。申し込みに際しましては、その旨、通信欄にご記入ください。
期間:2025年10月8日(水)~最終回12月17日(水) 全10回+特別補講
時間:毎週 水曜日18:30~20:30の2時間
方法:オンライン(Zoom)
費用:90,000円(税込み 99,000円)
内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- ITの前提となるクラウド・ネイティブ
- ビジネス基盤となったIoT
- 既存の常識の書き換え前提を再定義するAI
- コンピューティングの常識を転換する量子コンピュータ
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- 【特別講師】クラウド/DevOpsの実践
- 【特別講師】アジャイルの実践とアジャイルワーク
- 【特別講師】経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 【特別講師】特別補講 (選人中)
*「すぐに参加を確定できないが、参加の意向はある」という方は、まずはメールでご一報ください。事前に参加枠を確保します。決定致しましたらお知らせください。
8月8日!新著・「システムインテグレーション革命」出版!
AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。
本書は、「システムインテグレーション崩壊」、「システムインテグレーション再生の戦略」に続く第三弾としてとして。AIの大波を乗り越えるシナリオを描いています。是非、手に取ってご覧下さい。
【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。