[書評]地域再生の罠
「地域再生」という言葉が一人歩きしている昨今ですが、この言葉にとって重要なのは 主語が誰か ということです。行政や土建業コンサルタントによる箱モノありきでの地域再生プランが上手くいかない理由について、アンチテーゼとともに痛快に明かされています。
地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書)
この本で紹介されているのは、コンパクトシティやB級グルメ、駅前ショッピングモールの再開発といった、巷では成功事例としてもてはやされている地域再生ばかりです。しかし、その真の姿を深堀りしていくと、住民不在の建設・誘致や西欧の安易な模倣といった動きが目立ちます。
それは、一部の事業者だけが潤う私益のために他の住民が疎外されたり、住民のライフスタイルをまったく考慮せずに机上だけで議論されたプランが実行されるという、もっとも重要な地域住民の意向がまったく反映されないために失敗しているのです。
たとえばコンパクトシティは、お年寄りにやさしい街中ですべての用事が済むという街づくりがコンセプトですが、実際の中高年層は郊外に住みたいという欲求が強く、敢えて街中の喧噪に身を置きたい高齢者は少ないでしょう。
さらにコンパクトシティを志向しているにも係わらず、赤字の路面電車を廃止したり、寺社の門前に大型高層ビルのショッピングモールを建設したりといった住民ニーズをまったく無視した結果、失敗した事例が多数紹介されています。
同様にB級グルメについても、肝心の地元の若者のまったりと気心の知れた仲間と過ごしたいというニーズを無視して価格不明瞭、デートに使えない雰囲気の地場産業応援の店を展開しても、オヤジ目線の押しつけでしかありません。
そのような前提に立った著者の3つの提言に関しては、地域再生を担う者にとって傾聴に値します。縦割りの個別最適ではなく、地域社会全体での全体最適で見た場合のそれぞれのセクターの役割について、いろいろと考えるきっかけを与えてくれる良書です。
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