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日本を環境立国にするために、ITベンチャーを飛び出して起業しました。

エンジニアが増えればヨガのインストラクターが増える

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アメリカ西海岸を中心に起こっている、IT産業の集積による乗数効果によって、数多くの雇用が生み出されている。それは工場などの製造業に比べても大きな経済波及効果がある。

シアトルのカフェで働くウェイターというブルーカラー職種が、ミシガンの工場で働く事務員というホワイトカラー職種よりも給与が高いと聞いて、何を思い浮かべるであろうか。ウェイターのような単純労働は代替可能で、アルバイトでもできてしまうので給与が安いと思われがちである。一方で事務員のような知識労働は高学歴な人に職業訓練を施す必要があるために給与が高くなる、というのが我々が20世紀に抱いてきた常識であった。

良い大学に入り、良い会社に就職して知識と経験を得てキャリアアップしていけば、給与も右肩上がりに高くなるというのは21世紀現在にはもはや幻想であって、多くの労働者の給与はまったく別のメカニズムによって規定されるようになりつつある。

年収は「住むところ」で決まる  雇用とイノベーションの都市経済学

年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学

シリコンバレーやシアトル、ポートランドなど、アメリカ西海岸を中心にIT産業の集積が起こっている。年収の高いハイテク産業に従事するクリエイティブクラスが増えることによって、彼らにサービスを提供する地域産業も活性化するのだ。GoogleやAppleなどの企業はグローバルから多くの富を地域内に流入させ、そこで働く従業員が外食やフィットネス、医療、教育などに消費することで地域産業は潤う。

ハイテク産業は決して多くの従業員を雇用しているわけではない。カリフォルニア州クパティーノにあるApple本社で働く社員は約1万2000人と、直接雇用者の数にしてみれば工場誘致などをした方がインパクトが大きいかもしれないが、Appleはすでにアメリカの国家を凌ぐ現金を保有している企業である。

つまり、ハイテク産業においては従業員1人当りの生産性は飛躍的に伸びていき、グローバルから富を集積させる働きを担う。新たな貿易の主要産品として、クリエイティブな創造物が海を越えて売れる時代においては、ハイテク産業を地域に誘致することこそが最大の経済振興政策となる。

一方で、ベビーシッターが赤ちゃんの面倒を見る、美容師が髪を切るといった地域社会に密着した非貿易産業は、生産性の飛躍的な向上はあり得ない。1人が対応できる規模には限界があるし、そうすると需要に応えるために従業員を増やすといったインセンティブが働くようになる。

つまり、ハイテク産業が集積している地域においては、その豊富な消費需要によって非貿易産業の雇用も増え、またその雇用条件が向上していく傾向にある。シアトルでクリエイターが快適に過ごせるカフェを提供するためには、そこで働くウェイターの給与も高く設定して良質なサービスを提供する必要があるのだ。

実際にApple一社による雇用乗数効果は、1万2000人の従業員からその5倍、6万人以上の非貿易産業における雇用を創出していると言われている。それはカフェのウェイターやベビーシッターのようなブルーカラーから、医師や弁護士のような専門職まで含めた多様な雇用を生み出しているという研究結果が出ている。

地域に工場を誘致するために、用地を無償提供したり法人税を安くするといった政策が行なわれてきたのはご存じの通りである。その結果、より安価な人件費を求めて工場は海外に移転していき、多様性のない雇用によって多くの失業者が溢れるという結果になったことは、多くの地域が学んできた。

21世紀の都市経済学と地域活性化について、実例を踏まえてその最先端の動向を学べる良書である。

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