AIワークロードはデータセンター配線・ケーブル市場を再編するのか
調査会社のMordor Intelligenceは、2026年5月にデータセンター用配線・ケーブル市場の分析レポートを公表し、2025年の209億ドルから2031年には329億ドル規模へ拡大し、年平均成長率(CAGR)は7.86%に達すると示しています。
DATA CENTER WIRE AND CABLE MARKET SIZE & SHARE ANALYSIS - GROWTH TRENDS AND FORECAST (2026 - 2031)
生成AIに対応するGPUクラスタの拡張、ハイパースケール拠点の地理的分散、データ主権法の整備による国内製造シフトが同時並行で進行する状況です。光プレフォーム製造の3カ国集中、銅・アルミ価格の振れ幅、光ファイバー端末加工の人材不足が、設備計画の前提を再定義しています。配線は調達品から戦略資産へと位置づけが変わりつつあると考えられます。
今回は、AIワークロードと光ファイバーの需要構造、400Gから800Gへの移行が促す技術競争、原材料価格と人材制約による市場再編、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。
329億ドル市場へ拡大する配線インフラの全体像
Mordor Intelligenceによると、データセンター用配線・ケーブル市場は2025年の209億ドルから2026年に225億ドル、そして2031年には329億ドルへ到達すると予想されます。CAGR7.86%という水準は同種の電線市場の中でも高く、AI需要が従来のIT投資サイクルから外れた独自の成長軌道を生み出していることを示しています。
セグメント別では、光ファイバーが2025年に46〜59%程度の売上シェアを占め、ケーブル種別の中心的存在となっています。データセンター類型別ではハイパースケールが支出の約半分を占有し、コロケーションが約28%、エッジ・マイクロ拠点が残りを構成する形です。地域別では北米が30.43%でけん引役を担う一方、アジア太平洋がCAGR8.12%で追い上げる構図となり、需給の地理的均衡は速やかに変化する状況です。
こうした拡大の裏側で、設備投資の優先順位、調達リードタイム、規格適合という三つの軸での競争が同時に進んでいます。市場規模の伸びだけを追っても、産業構造の全体像はつかみにくくなっています。

AIワークロードが書き換える配線設計の常識
AI・HPCワークロードのインターコネクトには500ナノ秒未満の低遅延が必要となります。銅配線では7メートルを超えると要件を満たせず、Cat6Aを光配線へ置き換える流れが続いています。1兆パラメータ規模の大規模言語モデルを学習させるためには、ラックあたり1万本を超える光ファイバーが配置される設計が想定されます。10MW級の敷地ではおおむね400キロメートルの光ファイバーと150キロメートルの中圧ケーブルが消費されるといいます。
NVIDIAは2025年にH100およびH200を300万基出荷したとされ、MicrosoftはAzureのコンピュート時間のうちAI関連が62%を占めると開示しています。AI比率が1ポイント増えるごとに、ラックあたり1.3キロメートル分の光ファイバーが追加される試算もあり、AIの普及は配線需要を比例ではなく加速度的に押し上げる構造を持つと考えられます。
配線設計は受け身の仕様にとどまらず、シリコンと光モジュールとの共同設計が前提となる時代に入りつつあります。

100Gから800Gへ、24カ月で完了した移行
2024年半ばから2026年半ばまでのおよそ24カ月で、ハイパースケール側のインターコネクトは100Gから400Gへ移行を終え、2025年第4四半期から800Gの実装が始まったとされます。AristaやCiscoが投入したスイッチはOM5マルチモードあるいはOS2シングルモード光ファイバーを必要とし、8波長×100Gでの伝送に対応します。GPUの遊休時間がハイパースケーラーにもたらす機会損失は1時間あたり約45ドルとされ、配線更新を急がせる経済合理性が働いています。
Corningは2026年1月にノースカロライナ州の光ファイバープラントへ5億ドルを追加投じ、プレフォーム炉とドロータワーの拡張で生産能力を35%引き上げ、リードタイムを8週間に短縮するとしています。光プレフォーム製造は世界的に3カ国に集中しており、地政学的ショックが起これば納期が倍化する供給リスクを抱える状況です。
技術競争の重心は、速度の伸長から「供給確実性」へと移りつつあると考えられます。

エッジ拠点とコロケーションが補完する地理的分散
エッジ・マイクロデータセンターは2025年中に8,000拠点以上が新設されたとされ、2031年までのCAGRは8.23%と見込まれています。自動運転や産業IoTのように10ミリ秒以内の応答を要する用途では、5G基地局やタワーへの埋め込み型ファシリティが進み、IP67コネクタを採用した事前端末加工型のファイバーが選ばれています。単価は1メートルあたり35%程度の上乗せとなりますが、空調機器の省略と工期短縮が相殺する構図です。Schneider Electricのモジュール型プラットフォームでは、設置工期を14日から3日へ圧縮した実績が報告されています。
地域別ではアジア太平洋のCAGRが8.12%、米中対立を背景とした投資シフトもあり、インドネシア・マレーシア・ベトナムには各500MW以上のIT負荷増が見込まれる状況です。一方の欧州ではEUタクソノミー対応によって、配線取得コストが1メートルあたり0.15〜0.25ドル上乗せされる試算となり、コスト構造に制度コストが取り込まれる形となっています。
配線市場の競争軸は、技術仕様だけではなく規制対応力を含む総合的な調達能力へと広がっています。
銅・アルミ価格と人材不足が映す制約の構造
2025年の銅先物相場は1月のトン当たり8,200ドルから4月に10,100ドルまで上昇し、年末には8,900ドル付近に戻りました。23%の振れ幅は固定価格契約を結んでいた製造業者の利益を圧迫し、電力ケーブルは原価の60〜70%を銅が占めるため打撃が大きく出ています。アルミニウムも中国雲南省の精錬所停止を受けて不安定な値動きとなり、原材料調達の安定化が事業継続条件として再定義されています。
Prysmianはペルーの銅鉱山に3億4,000万ドルを投じて15%の株式を取得し、トン当たり8,600ドルで2029年まで銅を確保する垂直統合策に踏み込みました。ヘッジ能力を持たない地域メーカーは入札から撤退するか高値で応札せざるをえず、シェアの再分配が進む状況です。
加えて、高密度光ファイバー端末加工の技能者不足が北米・欧州・新興アジアで顕在化しています。工事原価には人件費の希少性が織り込まれ、プレターミネーション製品への置き換え圧力が増していると考えられます。
上流統合と規格適合が決める競争優位
Prysmian、Nexans、Corning、Belden、CommScopeの上位5社は2025年時点で38%程度のシェアを保持し、残りは地域メーカーとハイパースケーラーの内製アームに分散しています。CorningとPrysmianはプレフォーム炉への投資を進め、リードタイム変動を抑える上流統合を志向する一方、PanduitやTE Connectivityはアプリケーション工学とジャストインタイム物流を競争軸としています。
2025年7月にPrysmianが取得した中空コアファイバーの特許は遅延を31%低減できるとされ、業界の関心を集めていますが、既存接続との互換性の問題から本格展開には時間を要する見込みです。中国のYangtze Opticalは標準シングルモード品で22%安く提供しており、価格決着の領域では西側メーカーがシェアを失う場面が増えています。
IEC 60332やISO/IEC 11801への適合には自社試験設備が必要となり、大手に有利に働きます。価格差が縮小する局面では、センサ埋込みジャケット、リサイクル素材、48時間納入といったサービス領域での差別化が競争優位を決める要素となっています。
今後の展望
データセンター配線市場の拡大は、AI投資の循環、エネルギー制約、規制適合という三層の力学によって規定される形へ進むと考えられます。需要側ではGPUクラスタの大規模化と液冷導入がラック当たり配線量をさらに押し上げ、1ラック10万本級のファイバー実装も技術的視野に入りつつあります。供給側ではプレフォーム3カ国集中という構造リスクが残り、米国・インド・EUによる国内製造インセンティブが地理的な再配置を促す状況です。
原材料面では銅・アルミの長期契約や鉱山持分の取得が事業継続の前提となり、ファイバー端末加工の人材育成が産業政策と接続する局面に入ってきました。規格と規制が配線コストの30%前後を実質的に決定する流れもあり、配線は調達品から事業基盤の構成要素へと位置づけが変わりつつあります。
配線インフラを設備投資の延長ではなく、AI時代の事業競争力を支える戦略資産として見直す契機として捉えることが、次の競争力につながります。
