95%の営業リサーチがAI起点となる2027年、人間の役割をどう定義し直すか
米調査会社のガートナーは2026年5月20日、米ラスベガスで開催したCSO・営業リーダー向けカンファレンスにおいて、AIを活用した「Next Best Action(次の最適行動)」を営業担当者に提供している組織は、そうでない組織と比較して商業的成長を達成する確率が2.6倍に達するとの調査結果を公表しました。
同時に発表された買い手側の調査では、共感や判断、文脈理解といった領域で人間の営業担当者がGenAIを上回る評価を得ており、AI活用と人材の役割再設計をどう両立させるかが、営業組織の競争力を分ける局面に入っています。今回は、ガートナー調査が示す成長確率2.6倍の構造、AIワークフローの再設計や買い手データが示す人間の優位領域、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。
成長確率2.6倍の背景にある組織設計の差
ガートナーは2026年5月20日、米ラスベガスで開催した「Gartner CSO & Sales Leader Conference」で、AI活用と営業成果の関係に関する調査結果を発表しました。2025年8月から9月にかけて227人のCSO(最高営業責任者)を対象に実施した調査によると、営業担当者にAIを活用した「Next Best Action(次の最適行動)」を提示している組織は、商業的成長を達成する確率が2.6倍に達するとしています。営業担当者へのAIスキル教育を優先する組織は、高い売上成長を実現する確率が2.4倍となる結果も示されました。
着目したいのは、AI導入の有無そのもので説明できない差が広がっているという点です。多くの企業がAIツールを既存の営業プロセスに重ねる形で導入していますが、それだけでは成果に直結しない状況も生じています。
ガートナーのシニアディレクターアナリストであるGreg Hessong氏は、「成果を上げている営業組織は、既存の働き方にAIを上乗せしているのではなく、AIが実行・推奨・調整を担い、人間の判断や顧客価値の創出に注力できるよう、業務そのものを再設計している」と説明しています。AI活用の競争軸は、ツール選定から組織設計へと移っているといえます。
営業ワークフローの再設計とリサーチ起点の転換
ガートナーは2027年までに、営業担当者のリサーチ作業の95%がAIから始まるようになると予想しています。2024年時点ではこの比率は20%を下回っており、わずか3年で営業現場の入り口が大きく変わる見通しです。情報収集の起点がAIに置き換わることで、リード分析、競合調査、提案準備にかかる時間配分が再構成されます。
この変化が示すのは、ツール選定の議論を超えた業務設計の見直しです。これまでの営業組織は、案件管理ツールやCRMをいかに使いこなすかという観点でデジタル化を進めてきました。AIが推奨や次の行動を提示する段階に入ると、人間の担当者は「提示された選択肢の中からどれを採るか」「いつ顧客と接触するか」「どの提案を顧客文脈に合わせて修正するか」といった、判断と関係構築に集中することが求められます。
現場では、AIが出力する膨大な推奨内容と、限られた営業時間との調整に摩擦が生じています。すべてを試す運用は現実的とはいえず、推奨の優先順位付けと、人間が介在する場面の設計が課題となっています。
買い手645社の声が示す人間の優位領域
ガートナーは同時期に645人のB2B買い手を対象とした調査も実施し、AIと人間の役割分担に関する別の角度の知見を示しました。買い手は、購買プロセスの次の段階へ進む支援を受けたと答える割合が、人間の営業担当者の場合にGenAIを28ポイント上回りました。購買判断への確信を得たという回答は32ポイント、自社のニーズを理解してもらえたという回答は39ポイント、自社にとっての便益を定量化してもらえたという回答も21ポイント、人間の営業担当者がGenAIを上回っています。
加えて、購買グループ内の機能不全が少ないほど、質の高い案件成立に至る確率が13倍に達するという結果も示されました。営業担当者と接触時間が長い顧客ほど、購買グループ内の摩擦が低く抑えられる傾向があるといいます。
AIはアカウントリサーチ、パーソナライズされたメッセージ作成、シグナルモニタリング、Next Best Actionの提示などに適しています。共感、判断、文脈理解、価値の言語化といった領域では、人間の営業担当者が引き続き差別化要因となっている状況です。役割分担の設計がそのまま成果に反映されると考えられます。
AIエージェント時代に求められる組織能力
ガートナーは、営業リーダーが取り組む方向性として、AI主導環境向けの役割再定義、AIで増強されたワークフローへの整合、そして将来的にはAIエージェントを統括する役割の準備の3点を挙げています。AIエージェントとは、目的を与えれば自律的に複数のタスクを連携実行するソフトウェア群を指します。複数のエージェントが同時に動く前提で、人間の管理職や担当者の役割をどう設計するかが、次の論点となります。
この再設計には、報酬制度や評価指標の見直しも伴います。商談件数や架電回数といった活動量ベースのKPIは、AIによって大量に再現可能となります。成果指標を顧客成功や成約品質に寄せていく企業と、活動量管理を続ける企業とで、生産性に差が出ると考えられます。
Hessong氏は「AIで勝つ営業リーダーは、これまでの業務をただ速くこなすことを担当者に求めるのではなく、顧客の価値実現や意思決定の前進を支援するための余力を生み出すAI増強型の役割を構築する」と述べています。AIによって時間が空くこと自体が成果に結びつくわけではなく、空いた時間に何を担わせるかの設計が問われています。
国内営業組織への含意と再投資の優先順位
日本のB2B営業は、対面・関係性重視の文化が根づいており、AI導入の進度は欧米と比べてやや緩やかな状況です。ガートナーが描く2027年の95%という数字は、世界全体の傾向を捉えたものですが、国内市場でも遅延しつつ同じ方向へ進むと予想されます。
国内企業の論点は、AI活用の遅速そのものよりも、営業担当者の役割再定義の遅れにあると考えられます。AI導入を情報システム部門の選定案件として扱うか、営業組織全体の構造改革として位置づけるかで、得られる成果が分かれるとガートナーは示しています。SFAやMAの定着に苦戦してきた経緯を踏まえると、ツール導入と組織設計を切り離す従来型の進め方では、AI活用の効果も限定的にとどまる可能性があります。
人材投資の優先順位も再点検が求められています。AIによって自動化されやすい業務に投資を続けるのか、共感や価値言語化、複雑な購買グループへの介入といった人間固有の領域へ重点を移すのか。CSOや営業部門責任者には、人員配置と教育投資の組み直しが要請されています。
今後の展望
AI活用と営業組織の関係は、ツール導入の議論から組織設計の議論へと中心が移っていくと予想されます。Next Best Actionの精度が上がり、AIエージェントが提案書作成や顧客対応の一部を担うようになるにつれて、人間の担当者は複雑な合意形成を進める専門職へと役割を寄せていくと考えられます。
同時に、買い手側のAI活用も並行して進みます。買い手がAIに調査と比較を任せ、人間の担当者には判断材料の整理と意思決定支援を求める構図が定着すれば、営業組織側もこれに対応した接点設計が必要となります。AIで効率化された時間を、価値の言語化や関係構築に再投資できるかが、競争力の源泉となっていくでしょう。
国内企業にとっては、SFA定着の延長線でAI活用を捉えるのではなく、営業の業務設計と評価指標を一体で見直す機会となります。AIを前提とした営業組織の設計が、企業に求められる投資判断や組織能力が変化していることを示しています。
