クラウドビジネスの進展と事業者の投資リスクについて
クラウドコンピューティングが普及すると、企業は情報システムの「保有」からサービスを「利用」するという形態にシフトし、好きなときに好きな分だけコンピュータリソースを使うことができます。つまり、「保有」することのリスクがなくなり、事業への選択と集中が可能となります。
一方、クラウドサービスを提供している事業者は、規模の経済(スケールメリット)において、優位に立つためには、データセンターなど関連事業への投資が必要となります。既に多くの事業者が、クラウド市場の成長を予測し、首都圏や地方、そして、海外でのデータセンターへの建設が明らかになっています、かってのマンション不況のように、数年後、過剰投資で事業が成り立たなくなるリスクも十分に考えられます。つまり、クラウドを利用するユーザの保有リスクはなくなりますが、一方で事業者側の保有リスクが高まるという構造になることが予想されます。数年後、「クラウドバブル崩壊」という見出しが出ても不思議ではありません。
IT(クラウド関連)技術はものすごいスピードで進化しており、数年後を見据えたデータセンターへの投資は、市場優位に立つ可能性がある一方で、リスクとも向かいあう必要があります。また、データセンターだけでなく、IaaS、PaaS、そして、SaaSのレイヤーにおいて、覇権争いが激しくなり、リスクを見極めながら市場で優位にたつための投資をしていく必要があります。もちろん、投資はなるべく回避し、別のクラウド事業者のIaaSやPaaSのクラウド基盤を利用し、ユーザ側にサービスの部分を提供するという選択もあるでしょう。また、コンテナ型のデータセンターで、モジュール型で拡張が容易で大型投資のリスクを抑えるという考え方もあるでしょう。
利用ユーザが恩恵を受ける一方で、事業者側は、ビジネスを展開していく上で、非常に難しい舵取りが求められています。クラウドビジネスの市場が成長すれば、IT業界全体が右肩上がりになるという保証はありません。
今回、あえてネガティブな意見を述べさせていただきましたが、クラウドコンピューティングというキーワードが飛び交っている中、冷静に事業判断をしていく視点も求められているような気がしています。